上 下
4 / 28

猫ちゃん困る

しおりを挟む
「大丈夫か?……いや、大丈夫じゃないな」

 慶斗は腕の中の澪を抱き上げた。

 本来だったら、ここで婚礼の儀を行なって初夜を迎える予定だったがとても無理そうだ。仕方ない。

 慶斗は奥の部屋に入った。奥の部屋にはぽつんと布団がひとつだけ敷かれていた。慶斗は澪を布団に横たえてやる。

 オオカミの結婚は他の種族に比べて簡易的だ。それぞれの血を混ぜた酒を飲み三晩を共に過ごしたらそれで終わりだ。

 慶斗は渡されていたナイフで指先を切った。血の杯の交換は相手が寝ていてもできる。

 慶斗は溢れた血を用意されていた酒に混ぜ、澪にも同じようにした。そして慶斗は澪の血を混ぜた酒を一口で飲み干した。
 慶斗の血を混ぜたほうは少し迷ってから、一度自分で口に含んで口移しで澪に飲ませた。

「ん……く」

 澪が嚥下したのを確認して、慶斗は酒を片付けた。これで形としては成立した。

「さて、どうしたものか…」

 すっかり寝こけている澪を見て慶斗は途方に暮れてしまう。

 三晩を過ごすというのはもちろん添い寝をすればいいというわけではない。
 しかし、母から紹介された澪はとても幼くそういうことをするのに罪悪感すら感じる。

 年齢は十七歳で、二十四歳の慶斗と話すのは七つ離れていることになる。
 ただ、猫種の十七歳とオオカミ種の二十四歳とでは親と子ほどの体格差がある。

 研究では澪が慶斗と一番相性の良いΩらしいがとてもそうは思えなかった。こんな小さな身体で本当にオオカミの子供が産めるのか。

 しかし、慶斗は子供を作らなければいけななった。それもαの子供を。
 それには、この子にも頑張ってもらわなくてはいけない。可哀想だが、もう十七歳だ。慶斗は自分にそう言い聞かせた。

 そうとなったらまずは澪を起こさなくてはいけない。

「すまない、起きてくれないか」

 慶斗は軽く澪の頬を叩いた。

「……柔い」

 慶斗は手を止め、今度は頬をむにっと伸ばした。
 マシュマロ、いやそれにもまさるふにふにとした感触。なんともいえない癖になる触感である。
 慶斗は澪の頬を一心不乱に揉みはじめた。

(これはよこしまな気持ちがあるわけではなく、この子を起こそうと思って…) 

 ついに慶斗が両手を使って澪の両方をみよーんと伸ばしたその時、

「んぇ……い、いひゃい」

 間の抜けた声を出して澪が目を覚ました。
 澪は慶斗に頬を伸ばされていることに驚いて目をまん丸くしている。

「っ…すまない。あ、いやこれは違うんだ。その、起こそうと思って…」
「とりあへふ、はなひてくらひゃい」
「あぁ、すまない」

 慶斗は頬を握っていた手を離した。
 澪の頬は慶斗がずっと触っていたせいか真っ赤になってしまっていた。

「あの、僕こそごめんなさい。興奮しすぎて気絶しちゃって…」
「いや…お前たちのような猫種からしたら俺たちのようなオオカミは恐ろしいだろう。急に近づいた俺に気づかいが足りなかった」
「え…?いえ、僕は怖かったわけでななくて」
「気を使わなくてもいい」

 澪は何か言いたそうにしていたが、慶斗はつづけた。

「しかし、結婚したからにはたとえ怖くても子作りをしてもらう」
「こづくり…え、今から、ですか?」

 慶斗は寝転がっている澪に覆いかぶさる。

「ぴぎゃ、か…顔ちかっ…じゃなくて、ま、まま待ってくだひゃい。だって、まだ夜じゃないですし、そもそも出会ったばかりなのに、そんな、というか…僕のこ、心の準備ができてない的な感じで…」

 どもったり噛んだりしながら頑張って澪が抵抗するが、慶斗は子作りをする義務があった。

「すまないが、待てない」
「え……ん、ぅ」

 慶斗は澪の小さく可憐な唇を自分のそれで塞いだ。

 小柄な澪は口の中まで小さかった。慶斗が舌を滑り込ませるとそれだけで一杯になってしまいそうな口の中で、澪の薄い舌がちろちろと動く。
 慶斗は肉厚な舌で澪の舌を絡めとって蹂躙するようなキスをした。

「ん…んぅ、ぁ…っふ」

 澪は初めてする濃厚なキスに戸惑うことしかできなかった。

 澪の尻尾がぴくぴくっと小刻みに震えた。

「緊張してるのか…?」

 慶斗は優しく澪の尻尾を撫でた。

 それだけのことなのに澪の身体に今まで感じたことのない類のぞわぞわした感覚が走る。

「な、なんで…」
「猫種と結婚すると決まってから、尻尾の動きについて調べた。ほかにも猫の習性は一通りはわかっているつもりだ」
「ん……やぁ」

 慶斗が尻尾をさかのぼるように撫であげて、尻尾の根元あたりをとんとん叩いた。

「ここが気持ちいいんだろう?」
「あ、ぁあ…そこ、やだぁ」

 またぞわぞわが身体に走って澪は身をよじった。

「愛いな」

 慶斗は寝乱れてしわくちゃになった澪の白無垢を脱がせた。
 たっぷり時間をかけて着たのに脱がせるのはあっという間だ。

「するのは初めてか?」

 澪はなんのことを聞かれているのかすぐには分からなくて、ちょっと間が空いてから慌てて頷いた。

「そうか…なら、なるべく優しくする」

 慶斗は今度は優しく触れるだけのキスをして、澪の頭を撫でてくれた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)
BL
「ねぇ、オレの事は悠って呼んで」  俺にだけ許された呼び名 「見つけたよ。お前がオレのΩだ」 普通にβとして過ごしてきた俺に告げられた言葉。 友達だと思って接してきたアイツに…性的な目で見られる戸惑い。 ■オメガバースの世界観を元にしたそんな二人の話  ゆるめ設定です。 ………………………………………………………………… イラスト:聖也様(@Wg3QO7dHrjLFH)

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...