寡黙なオオカミαにストーカー気質のネコΩが嫁いだ話

かとらり。

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猫ちゃん大喜び

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「宇伊!やった、やったよー!!!」

 澪は大声で叫びながら従者の宇伊に思いっきり抱きついた。
 重たい衝撃を受けながら、従者の宇伊は主人をなんとか抱きとめる。澪には自分がもう十七歳でそこそこ成長した体であるという自覚がない。
 澪は猫種の、しかもΩなので普通の十七歳より軽いとはいえ、飛びつかれたらかなりの破壊力がある。

「おめでとうございます、と言いたいところですが、なにがおめでたいのか分かりかねます。なにかあったのですか」

 宇伊は表情はいつものように無表情のまま問うた。

「結婚できるって!」
「主語と目的語を入れてお話ししてください」
「僕が慶斗さんと、結婚できるんだってー!」

 長くしなやかな尻尾をちぎれそうなほど振り回す主人を見て、宇伊はため息をついた。ネコというのは不快な時に尻尾を振るのではなかったのか。これではまるで犬っころだ。


 誰もが何かしらのケモ耳と尻尾を持ち、その動物と同じ特徴が出るのがこの世界の常識。それなのに、猫の耳と尻尾を持つ澪は全然猫らしくなかった。
 しかも澪は大神慶斗という生粋のオオカミの家に嫁ぐという。

 本当に澪が犬になってしまうのではないか。宇伊は心配になる。
 この主人のいいところといえば艶のある優雅な尻尾と愛嬌のあるちょっと下向きの耳ぐらいだ。それがなくなったら、澪はただの手のかかる十七歳児でしかない。


 従者がそう思っていることも露知らず、ぶんぶんを超えてびゅんびゅん尻尾を振り回して澪は続けた。

「ねぇ宇伊、これ夢じゃないよね?」
「はい、おそらく」

 勢い余った澪の尻尾が宇伊の腕にあたる度にちゃんと痛みは走っている。

「それにしても、よくお祖母様がお許しになられましたね」

 澪の祖母は末孫の澪を目に入れても痛くないほど溺愛している。とても嫁入りなんて許しそうにもない。

「お祖母様は嫌がっていらしたけど、慶斗さんのお家がどうしてもって頼まれたらしいんだ」
「お相手の方から?それはまた、どうして」

 澪は男ではあるがΩなので、妊娠することは可能だ。
 しかし、オオカミ種は同種族と交わることが多いと聞く。
 五年前から慶斗を陰からストーキングしていた澪から結婚を申し込むならまだしも、慶斗のほうは澪のことなど認知すらしてなさそうだが。

「遺伝子の研究の結果で、オオカミ種のαとネコ種のΩは相性がいいって出たらしくて」
「あぁ、なるほど」

 澪は満面の笑みで話しているが、それは澪を子作りの道具としか見ていないという事なのではないか。しかし、尻尾を振り回して喜ぶ澪に水をさすようなことは宇伊には言えなかった。

「ずっと憧れていた大神様とご結婚できるとはとてもおめでたいことでございますね。今日はお赤飯を炊きましょう」
「やったー!僕お赤飯大好き」

 この時は宇伊も、澪も少し浮かれていたのだろう。
 二人とも澪が結婚する上で重大な問題を抱えていることをすっかり忘れていたのだ。

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