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急がないと
しおりを挟む船がいつ出るかは分からないが、僕に残された時間は少ないことはわかった。
少ししか使えない魔法をどうにかして活用して脱出しないと。
僕は唯一の脱出口の窓を見た。
空気口も兼ねているのかそこはぽっかりと穴が空いているだけだった。
(僕の体ならなんとか通れそう)
高さも頑張れば登れる場所にある。
問題は鎖と手枷だ。
これがあるからこそ、見張りもいなければ窓もあるわけなんだが…
(頑張れば抜けないかな…)
ユキの手首は細いのであと少しで抜けそうではあるが、ちょっと足りない。
(水魔法を使う…?)
水があれば摩擦が減って取れそうだけど。
試しに少し濡らしてみるけど、抜けそうにもない。
骨でも折って抜いてやろうとも思うが、そんなことできるほど勇気も力ない。
どうすれば…あと少しで抜けそうなのに…
「あっ…!」
思いついた。
手枷は金属。金属は熱すると膨張する。
前世でテストに出たから覚えてる。
夏の暑さで線路が延びるのだから、これも熱魔法で温めれば膨張して抜けるはず!
幸い今は冬。もとから鉄は冷えているので温めれば膨張するに決まってる。
そう思い僕は使えるだけの魔力で熱魔法を手枷にかけた。
どんどん温度が上がりすこし手首がジンジンし始める。
もう熱くて耐えられないところまで暖めて、僕は思い切って手首を引き抜いてみた。
すると、
(っ…取れた!!!)
するりと手首は枷からぬけた。
しかし、そこに運悪く見回りの男が来てしまった。
「お前…どうやって枷を取った!!!」
「ひっ…」
「くそ、手間かけさせやがって。痛い目見ないとわかんねぇのか、くそがっ」
男は牢屋の鍵を取りに行ったのか、どこかに走って行く。
(や、やばい…はやく逃げないと)
僕は窓までよじ登りなんとか身を乗り出した。
(思ってたより高い…)
でも、清水の舞台だって飛び降りても致死率は低いって聞いたことある。
これくらいの高さ、大丈夫なんじゃ…
いや、でも、致死率はあくまで死ぬ確率。
足なんか骨折したらここから逃げられても後がない。
それに窓から身体を出すのが精一杯で、飛び降りるとしたら頭から降りることになる。
頭から落ちたら流石に死ぬ。
そう思ってるうちに後ろからがやがやと声が聞こえた。
「手枷を外した!?やっぱり魔法使いは厄介だな…この仕事はやめだ、始末しろ!!!」
「はやく鍵開けろ!」
「ガキが逃げようとしてるぞ!!急げ!」
だめだ、もう終わった。
前世はマンホールで死んで、今世はきっとこの人たちにめったうちにされて死ぬんだ。
惨めすぎる。
前前世できっと僕は相当ひどいことをしたんだろう。
(せめて…)
せめて最後に、ミカエルに好きって言ってあげれば良かった。
思えば僕はミカエルに「結婚してあげてもいい」みたいな上から目線の言葉しか言ってない気がする。
たしかに、最初は結婚してもいっか、って感じだった。
でも、結婚していいって思えたのは、ミカエルだったから。
僕を助け出してくれた。
ミカエルがいれば外にでるのも怖くなかった。
セックスはちょっとしつこいけど、でも、僕のこと大事にしてくれた。
もしかしたら最初に見つけてくれたのがたまたまミカエルだったからそう思ったのかもしらない。
でも、ほかの人が僕を見つけてたとしても、ミカエルみたいに結婚しようとは思えなかった。
多分、僕にとってミカエルは『運命の相手』だったんだ。
(やだ、死にたくない…ミカエルにもう一回会いたい!!!)
「ミカエル、助けて!!!」
僕は大声で叫んだ。
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