上 下
5 / 32

ついに部屋から…

しおりを挟む
「今日がパーティーか…」

 ゲームではキャラクターが集まってパーティーが行われる。

(このパーティーを逃したら僕が解放されるチャンスはないかもしれない…)

 むしろ、味方だったアザゼアがいなくなる分もっと逃げにくくなるかもしれない。
 そう思ったら恐怖がみるみるこみ上げてくる。

 なんとしてでも外に出ないと…
 そう思って扉に向かった。

(でも、鍵がかかってるから…)

 そう思ったが、試しに開けてみると扉はあっさり開いた。

「え…?」

 驚くと扉の下に紙が挟まれていた。

『パーティーの会場は一階の広間よ』

 アザゼアの筆跡でそう書かれていた。

(ありがとう…アザゼア)

 幸い今まで脱出しようとしたことがなかったおかげでジオルドも油断していたのか僕を閉じ込めるのはこの鍵だけだった。

(この日まで我慢してて良かった…)

 流石にジオルドも今日はアザゼアのパーティーにいるはず。
 ユキに妄執している以外は乙女ゲームの攻略対象になるぐらいはちゃんとした人なのだ。

 久しぶりの部屋の外はもううろ覚えで階段の場所すら曖昧だった。
 みんなパーティーに参加してるのかユキの部屋のある三階には誰もいない。

(誰かに会う前ににぃさまに出くわしたら最悪だ…)

 そんなことが起きないことを願いながらユキは恐る恐る階段を降りた。


 一階まで降りてきたら、たくさんの人の声が聞こえてきた。

(本当にパーティーやってるんだ…)

 そう思うと急に足がすくんだ。
 パーティー会場にはもちろんジオルドもいる。ジオルドが僕を見たら、どうするだろう。

(こわい…こわいっ…)

 こんなにたくさんな人に会うのも久しぶりで僕はとてつもなく怖くなってきてしまった。
 カーテンの陰に隠れて座り込む。

(やっぱり部屋に戻ろう…部屋にいれば、部屋にいた方が安全なんだ…)

 ジオルドに長年吹き込まれた言葉ばかりが頭に浮かぶ。
 涙を流しながら僕はカーテンから出た。

 するとそこには

「うわっ!なんでそんなところから……アザゼア?」

 金髪碧眼の青年、第二皇太子のミカエルがいた。





「ど、どうして泣いてるの?というかアザゼアにそっくりだけど、君はアザゼアの兄弟…?アザゼアには兄しかいないって…」

 一瞬、ジオルドに見つかったと思って心臓が止まると思った。
 そうではなかった安心からか涙がこぼれてくる。

「っう…う、ふぇえええ」
「えぇ…そんな赤ちゃんみたく泣かないでよ。君いくつ?アザゼアの弟?」
「じゅうはち…」
「アザゼアと同い年!?」

 僕は発育が悪いから幼くみられていたようでミカエルは驚いて大きな目をさらに大きくした。
 たしかに僕はミカエルよりも身長も体格も劣っていた。

「ええっと…だれか呼んだ方がいいですか?ジオルドさんとか…」
「だめっっ!!!!!……にぃさまは、だめ…」

 尋常じゃない僕の様子に何かを察したのか、ミカエルはしゃがみこんで僕の顔を見つめた。

「兄様ってことはやっぱりあなたはアザゼアの兄弟なんですね。今日までどうして外に出てこなかったんですか?」
「部屋から出ちゃダメって…にぃさまが」

 ミカエルの表情が固まった。

「僕の手には負えないな…」

 ミカエルは周りを見回した。

「とりあえず、僕の馬車が迎えにきているので乗ってください。もう帰るつもりだったので…」

 ジオルド様に見つかったらまずいでしょう?
 そう言われて、僕は恐怖に震えた。
 勝手に外に出て、しかも外部の人間と喋るなんてジオルドが見たらどれほど激昂するか分からない。

「行きましょう」
「はい…」

 ミカエルに手を引かれ僕は屋敷を出た。
 屋敷の前には立派な馬車が止まっていて、僕はそれに乗せられた。

「ここで待っていて下さい。兄上にどうするか相談してくるので…」
「待って!!!」

 また屋敷に戻ろうとするミカエルの袖を握った。

「もし、おにいさんが僕を連れてくの、ダメって言ったら、どうするの…?」
「っ…」
「僕をまた家に戻すの?」

(いやだ、絶対に戻りたくない…一度脱出したことがバレたら、きったにぃさまは僕をもっと厳しく監禁する)

 ミカエルは震える僕の手を握って優しく撫でた。

「大丈夫、仮に兄上が反対してもあなたを戻すことはしません。かならず僕が、あなたを助けます」
「本当…?」
「はい。あくまで相談するだけです。だから少しだけ大人しく待っててくれますか?」

 僕はこくりと頷いてミカエルの手を離した。

「いい子」

 ミカエルは僕の頭を撫でると馬車のドアを閉めて行ってしまった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...