上 下
23 / 26

逃避

しおりを挟む

 この手を取ればここから逃げられる。
 それはずっとずっと真緒が望んでいたことだ。
 そのはずだ。

「…真緒?」
「ねぇ、静…僕が出て行ったら、颯凛はどうなるの?」
「そんなの…また新しいおもちゃを見つけて楽しむんじゃないですか?」

(ほんとに…?)

 颯凛は誰も信用できないのに。
 静と真緒の横でしか寝れない、静がそう言ったのに。
 その二人に同時に裏切られて、本当に颯凛はそのままでいられる?

「真緒、はやく」
「……」

 真緒はもう颯凛のことしか考えられなかった。
 颯凛は真緒がいないとだめだ。

「静…やっぱ僕、いかない」
「いかないって…どういうことですか?」
「僕、ここにいる…颯凛が心配だから」
「心配って…どうして真緒が颯凛さんを心配するんです?」

(どうして…?そんなの決まってる)

「愛してるから…僕、颯凛のこと愛しちゃった…」

 首輪はとっくに外されていた。
 でも、真緒の颯凛への情が真緒をこの部屋に縛り付けていた。
 そしてこの情は簡単になくすことはできない。


 ストックホルム症候群。


 そんな言葉が頭に浮かんできた。
 誘拐犯に愛情抱くなんて異常だ。自分でもそう思う。

 でも、たとえこれがまやかしの情だとしても、情は情なのだ。

「ごめん、静……僕、お前のことも愛してるよ。でも、同じくらい颯凛も愛してるの。だから、行けない」
「……そうですか」

 静はそう言うと、僕に差し出していた手をあっさりと下ろした。

 そして、

「良かったですね、颯凛さん」

 と、いきなりどこかに喋りかけた。

「え…?」

(颯凛…いま、颯凛って言った?)

 何が起きてるのか分からず真緒は呆然と立ち尽くす。

「俺の真緒が俺を選ぶなんて決まりきったことだったけどね」

 そう言いながら、颯凛が部屋に入ってきた。

「颯凛…?なんで」
「ほんと、よく言いますよね。『真緒がお前と逃げるのを選んだらお前と真緒を殺して俺も死ぬ』とか言ってたくせに」
「黙りな」
「ど、どういうこと!?なんで、颯凛が…え?」

 颯凛はにこにこしながら真緒に歩み寄る。

「全部俺と静の計画通りだったんだよ」
「え…?」
「すみません、騙して。でも、あなたの本当の気持ちを知りたかったんです」
「じゃあ、颯凛もこの計画を知ってたってこと…?」
「そう」
「……」

 真緒は呆然としてなにも喋らなくなってしまった。

 さすがに怒ったのかと二人は心配になった。
 しかし真緒が次に言ったのは

「良かった…」

 と言う言葉だった。

「え?」
「だって、静が颯凛を裏切ったってわけじゃないんでしょ?…よかった、二人がばらばらにならなくて」

 心底安心したような真緒を見て、今度は二人が呆気に取られた。

「真緒……お前、ほんとにいい子だねぇ」
「ちょ、わっ…やめて!」

 颯凛が真緒に覆い被さり頭を撫でまわし頬擦りをした。

「ほんと、ほんと可愛い。でも、静と俺が『同じくらい』ってのだけは気に入らないなぁ」
「それは大いに同意ですね」
「え…」

 二人の男が真緒を見つめる。

「真緒、正直に言いな。俺と静、どっちが好き?」
「こんな強姦魔より俺の方がいいですよね?」
「誰が強姦魔だ。お前の方が性癖歪んでるだろ」
「初めての時にスパンキングした人に言われたく無いですね」
「それ見て後でオナニーしてたのは誰でしたっけぇー?」
「むしろあの真緒をおかずにしないほうが変態ですよ。尻叩かれて涙目になってる真緒の…」
「ちょ、ちょっとまって!やめて!!」

 真緒は二人の口を手で塞いだ。

「言ったでしょ。二人とも同じくらいって。あと、そうやって恥ずかしいこと言うの辞めて」
「はーい」

 二人は不服そうにしてたが、無視を決め込む。

「あ、そうだ。真緒にプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
「そ、真緒が逃げずにここにいることを決めたらあげるつもりだったんだ」

 颯凛がポケットから小さめの箱を出した。

「なに?」
「開けてみて」

 箱を開けると、そこには華奢な白い首輪が入っていた。

「一生一緒にいる証。静と一緒に選んだんだよ」
「俺は黒が良かったんですけど…」
「デザインはお前が選んだやつにしたんだから文句言うな」

 普通こういう時には指輪とかを渡すんじゃ無いか、とは思ったけど真緒は嬉しかった。

 真緒を二人に永久に縛り付ける首輪。
 前みたいに鎖は付いてなくても、きっともう真緒は二人から離れられない。

「ありがと、すごい嬉しい」

 真緒が微笑むと二人は喧嘩をすぐに辞め顔を赤らめた。

「ね、これ二人がつけて」

 真緒が白い首輪を渡すと、今度は二人は喧嘩しないで、仲良く真緒の首に首輪をつけた。

「もうこれで、僕は二人のものだね」
「……やっと、手に入った」
「もう逃げたいって言っても逃しませんよ」

 そういって三人は抱き合った。


 こうして、晴れて三人は結ばれた。

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...