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十一話 強奪

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 東の山にいくと、崖の洞窟になにやら魔物らしき集団がいた。

「ユリ、あそこにいるね」
「ねぇ、帰ろうよ。二人じゃ無理だって」
「いけるいける」

 とはいっても僕も怖い。
 直接対決は怖いからやめておく。

 僕が用意したのは眠り薬だった。
 眠り薬は調合が楽でその辺の草とちょっとした魔法で作れる。

 これをなるべく離れたところから魔法を使って洞穴に投げ入れた。

「えいっ!」

 うまく入った。

「ユリ、どんなかんじ?」

 僕より目が効くユリに洞窟の中の様子を見てもらう。

「お、みんなどんどん眠りこけてるよ」
「よっしゃあ!」

 みんな寝たのを確認してから僕たちは洞窟の中に侵入した。

 屈強な魔物たちが十数人いる。
 これを相手にするのは大変そうだ。

 眠らせてよかった。

 洞窟の奥には案の定大量の小麦があった。

「じゃ、ユリよろしく」
「はいはい」

 ユリはスライム型に戻るとそれらの小麦を飲み込み始める。

 全部小麦を飲み込むと一瞬大きくなったが、また元のサイズに戻った。

 ユリの体がどうなってるか知らないが、スライムは半無限的にものを取り込むことができる。

 消化しなければ取り出すことも可能だ。

「じゃ、さっさと逃げよ」

 僕とユリはそーっと洞窟から出ようとした。しかし、

「ん…な、んだぁ…」

 魔物のうちの一人が目を覚ましてしまった。

「やばっ…」
「っ…お前ら何してるんだ!」
「ユリ早く!」

 走って逃げようとするけど、僕は魔物に腕を掴まれてしまった。

「ひっ…」
「卑怯な真似使いやがって…あの小麦はどこにやった!!」

 あんまりにも腕力が強いのか僕の腕はみしみしと音を立てる。

「い、いたいってばぁ!」
「小麦を返せ!」
「そもそもお前たちのものじゃないでしょうが!」
「うるせぇ!生意気な口聞くな!」

 魔物は僕を殴ろうとした。

「っ…『やめて』!!!」

 思わずそう叫ぶと魔物の動きはぴたっと止まった。

「あ…な、なんだ?体が動かねぇ…!」

 どうやら無意識に魔法を使ったらしい。
 ためしに、手を離して、と言うと魔物は大人しく手を離した。

「な、なんなんだ…お前」
「僕はただの魔法使い。もう村の人から小麦を奪うのはやめて。食べ物が欲しいなら自分で育てなきゃだめでしょ?」

 かく言う僕も小麦を人から奪っている身なのですが…

「でも、作り方もわかんねぇし」
「それは村の人に教えてもらえばいいでしょ?村の人にごめんなさいして、ちゃんとお願いすればおしえてくれるよ、きっと」

 次また強奪したら僕が強奪し返しにくるからね。
 そう言い捨てて僕は洞窟を後にした。

「ノアって本当に強い魔法使いだったんだね」
「いまさら何言ってんの?ふふーん」
「いや本当に。使役魔法を使えるのはごく一部の魔法使いだけなんだよ。それこそ魔王クラスの…」

 さすが大魔法使いって感じだな。

 僕はゆうゆうと村に戻った。
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