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09 「ふたり」の形
26 the deliverer
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その日は雨が降っていたが、コインフリッパーズ・カフェと看板のかけられた古風な店にはたくさんの人が出入りしていた。入り口のドアノブには「本日貸切」の札が下がり、柔らかな光と笑い声が窓から漏れている。
宅急便の配達員がそのドアを開けた。狭い店内はごった返していて、店内を飾る風船で誰かの結婚パーティなんだとわかった。ブッフェスタイルでいい匂いの食べ物が置かれ、みんな楽しそうに笑っている。服装はかなりラフで、誰が主役のパーティなのかわからない。
配達員が赤毛の店主に持ってきたものを渡すと、彼は宛先をちらりと確認して、店のベンチで吸血鬼みたいな黒い服を着て景気の悪い顔をした男と並んで座っていた、背の高い黒髪の男に声を掛けた。
「バル、お前宛だよ」
男はその平べったい四角いA3サイズくらいのものを受け取って、とりあえずばりばりと包装を剥がした。中からは一枚のキャンバスプリントの写真が出て来た。
「──あー……これ? 何で?」
男の隣に、小柄で色白の、緑の髪をしたお人形みたいな少年が近寄ってそれを覗き込んだ。
「焼き直してくれたんだね」
その写真には、青々とした森と、誰かの背中が写っていた。
「受け取りは間違いない、どうもありがとう」
緑の髪の美少年は、でも俺この写真好きだよ、と言って、配達員ににっこりと微笑んだ。
配達員はちょっと手を振って店を後にした。雨は止んでいなかったが、悪い気分ではなかった。
宅急便の配達員がそのドアを開けた。狭い店内はごった返していて、店内を飾る風船で誰かの結婚パーティなんだとわかった。ブッフェスタイルでいい匂いの食べ物が置かれ、みんな楽しそうに笑っている。服装はかなりラフで、誰が主役のパーティなのかわからない。
配達員が赤毛の店主に持ってきたものを渡すと、彼は宛先をちらりと確認して、店のベンチで吸血鬼みたいな黒い服を着て景気の悪い顔をした男と並んで座っていた、背の高い黒髪の男に声を掛けた。
「バル、お前宛だよ」
男はその平べったい四角いA3サイズくらいのものを受け取って、とりあえずばりばりと包装を剥がした。中からは一枚のキャンバスプリントの写真が出て来た。
「──あー……これ? 何で?」
男の隣に、小柄で色白の、緑の髪をしたお人形みたいな少年が近寄ってそれを覗き込んだ。
「焼き直してくれたんだね」
その写真には、青々とした森と、誰かの背中が写っていた。
「受け取りは間違いない、どうもありがとう」
緑の髪の美少年は、でも俺この写真好きだよ、と言って、配達員ににっこりと微笑んだ。
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