Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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09 「ふたり」の形

10 Baltroy (残り香)

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 コールが来ていた。ナスター・アインホルストと表示されている。知らない人だ。
 5回、6回。コール音が続く。いたずら? でも本物の個人IDからのコールだ。とりあえず出てみる。砂色の髪をショートカットにした女性が画面に顔を出した。

『こんにちは。突然すみません、コール大丈夫でしたか? 私、アネルマ・マイネの姪です』
「あ! バルトロイ・エヴァーノーツと言います」
『叔母の件でご連絡頂いたと伺いましたので、余計な事かとは思ったのですが、念のためと思いまして。叔母ですが、もう20年近く前になるでしょうか、病気で亡くなりまして』
「わざわざ申し訳ありません。こちらからご連絡すべきでした」

 簡単に事情を説明する。プライマリースクールにいた時、アネルマ先生にお世話になった事。今回、お知らせしたいことがあった(結婚することになった、とは言い難い)ので話したいと思っていた事。

「もし亡くなられてしまったのでしたら、お墓を訪ねたいのですが」
『叔母は喜ぶと思います。座標をお送りしますね』

 送られてきた場所を確認する。かなり遠い。オートキャリアだと4時間ほどかかる。ヴェスタがエアランナーを出してくれりゃあな。壁掛けの時計をちらっと見る。10時半。ヴェスタはどこに行ったんだろうな? 毎週の行き先のわからない外出。どことなくぎこちない反応。これと言った理由のない不機嫌な態度。正直、この感じはものすごく身に覚えがある。

「女の恋人と別れそうな時こんな感じでしたね」
「言うなようるっせーな」
「他に男を作ってるパターン」
「黙れ」
「あなたは歳を取らないのですから、今回だめになっても時間はたっぷりあります」
「慰めてるつもりかよ」

 誰かと会ってる? いやいや。ヴェスタは俺がわかる・・・のを知ってるはずだ。だからたぶん、誰かに気持ちが移ったんならまず別れてからと思うだろう。

 それがこのところヴェスタが言い出せないことか?

「……まさか」
「ブリングで追跡します?」
「………」






 正午を回ったあたりでヴェスタが帰ってきた。

「ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい、ヴェスタ」

 少し違和感があった。おいおい。まじか。やめてくれ。何だろう。普段のヴェスタのにおいと違う。でもヒューマンの匂いでもない。すごく微かな他人のにおい。

 レプリカントか?

「ヴェスタ、ちょっと話が」
「……結婚するかしないかだろ? しない。指輪もいらない」
「おい」

 ヴェスタは青い髪のまま、目も合わせずに自分の部屋に入ってしまった。こればっかりはノックせざるを得ない。

「待てヴェスタ。開けろ」

 言いたいことは山ほどあった。どこに行ってる? そのにおいは誰の匂いだ? 一人で結論を出すな。

「ヴェスタ!」

 ドアは開かなかった。

 






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