Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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09 「ふたり」の形

08 Baltroy (親友)

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 自分の部屋にいると、ブリングにルーからのコールがあった。ヴェスタを店に連れて行って以来。

「よう」
『おー。いつやるんだ? 結婚パーティ。うちでやるんだろ? まさかよそでやる気じゃないよな?』
「まず結婚から躓いてんだよ。ちょっと待ってろよ」
『はあ? 何で?』
「俺にもわかんね。ヴェスタに聞いてくれよ」
『結婚はするんだろ?』
「しないかもな」
『そんなことだとまた逃げられるぞ!』
「うるせーな。婚約までしたのはまだ二人目だよ……三人かな? ま、そんなでもねーよ」
『首輪でも付けとけ』
「付けられないタイプなんだ」
『レプリカントなんだっけ? AIが入ってんじゃねーの?』
「あいつはれなかったんだよ」
『はは! バカだなあ! ま、お前らしいよ。レプリカントに逃げられるオーナーか。楽しみだな。ハイブリッド、ドナー、でこれ。「貴重な人類」の三冠王』
「ほんとにうるせーな。暇なのかよ?」
『いや、忙しいよ。たださ……』

 ルーが画面の向こうでちょっと口をつぐんだ。青い目と目が合った。

『なあ。俺はお前のことを祝いたいんだよ』

 今度は俺が黙る番だった。こいつはある意味、ヴェスタよりも俺のことを知っている。

「うん」
『またな』

 レプリカントに逃げられるオーナーか。この仕事をしていると本当にまれにいる。支配率20%以下で、オーナーからの虐待に耐えられなくてとか、他に好きな人ができてとか。

 面白いことに、そういうのはオーナーからの捜索願いで発覚する。30%以上の、オーナーの言うことは聞かなきゃならないタイプのレプリカントはほとんど捜索願なんて出されないのに。

 逃げられるから追いたくなるのかな。

 ヴェスタも当然俺のことなんか嫌いになれる。あいつはオーナーの言うことを聞く義務が全く備わっていない唯一のレプリカントだから。

 ぱっと逃げ出して……と言うか、一人で生活することに決めてしまっても全然困らない。三冠王。絶滅危惧種として。やれやれ。たまにはマジョリティの方に入ってみたいもんだ。

「おい、レッダ」

 リビングに出て声を掛ける。ヴェスタはもう自分の部屋だ。最近、ヴェスタはすぐに部屋に入ってしまう。体調でも悪いのか? 機嫌が悪いのか? なんで?

「はいなんでしょう」
「明日飲みに行くけど、ヴェスタは大丈夫そうなのか?」
「何がですか?」
「いや。具合悪そうだったり、何か薬飲んだりしてないのか?」
「そういうことはないです。彼は体調が安定しているのが売りのレプリカントなので。というか、ご自身のパートナーのことなんですから自分で本人に確認しては?」

 舌打ちしてヴェスタの部屋の白いドアを叩く。コンと一回。何の音もしない。寝たのかな? 様子だけでも見るか。ヴェスタは部屋に鍵をかけない。ぐっとドアを押す。

 開かない。

「おい、レッダ。ドアが壊れた」
「壊れていません。ヴェスタも鍵を付けたんです。彼が許可しないと開きません。今日はもう寝ているのでは?」
「はあ?」
「ヴェスタはもう私の共有管理者として登録されていますからね。あなたが外せと言っても私は外しませんよ」
「ちょっと待てよ。その前段階があるだろ。何で鍵なんか付けることにした?」
「業務上知り得た個人情報はお話できません」
「あのな……」
「だめなものはだめ。体当たりしてドアを破っていただくのは勝手ですが、社宅なのでかなり怒られますよ」

 くそが。










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