207 / 229
09 「ふたり」の形
06 Vesta (約束の期限)
しおりを挟む
「………」
「ティッシュをどうぞ。大丈夫です、たくさん泣いてください」
「ごめんなさい……」
「我慢していたんですね」
がまん? していたつもりはなかったけど……。
止まらない涙を拭いて深呼吸した。こんなこと、バルには話せない。
「……バルを、苦しませたくない……」
「でもそれがあなたの気持ちなんですね?」
「そう……」
「じゃあ、これから二人で考えてみましょう。次はいつにしますか? 土日も大丈夫ですよ」
土曜日に予約を入れてオートキャリアに乗った。どこかに寄って顔を洗わないといけない。また涙のにおいでバルにわかられてしまう。
でも少しすっきりした。全然関係ない人に話し始めてみると、自分でも気がついていなかった本当の気持ちがどんどん出てきた。エミールさんはあまり口を挟まずに話を聞いてくれる。マリーンさんとはまた違った感じ。利害関係が全くないからかな。
それに今回の内容はマリーンさんやザムザには少し言いづらい。タイミングが良かったのかも知れない。
帰る途中でショッピングモールに寄り、レストルームで顔を洗って息をついた。鏡に時計が映り込んでいる。12時を少し過ぎた。お昼ごはん、バルは食べたかな? ブリングを見てみる。何も連絡は来ていない。ゴーシェを捕まえるまではあんなにべったりだったくせに。
あの時はバルは俺が窮屈なんじゃないかって思ってたみたいだけど、俺はアラスターに比べると普段放任すぎるくらいのバルが、ずっと一緒にいてくれて嬉しかった。俺のこと、無くしたくないと思ってくれてるんだなって。バルは全然口に出さないから……。
すぐに家に帰る気になれなくて、なんとなくモールの中を歩いて回る。一人だとなんだか落ち着かない。
自分が何をしたいのかどんどんわからなくなる。
「Wedding」という文字が目に飛び込んでくる。思わず足を止めると、サービスドロイドがモニタを目の前にかざしてきた。宝石店だった。
「お探しのものは何ですか?」
お探しのもの……。
「指輪」を選択する。エンゲージリング、マリッジリング、アクセサリーリング……マリッジリングを選んでみる。ご夫婦向け、対遇様向け。対遇様向けを選ぶと、さらに性別傾向での分類がある。メイルトゥメイル、フィメイルトゥフィメイル、ユニセックス。
メイルトゥメイルを選ぶ。シンプルで石が付かないタイプのペアリングが多い。結婚指輪。選ぶのは楽しい。バルにはどんなのが似合うかな……。あの長い指に。すごく幸せな気分になる。ザムザとマリーンさんみたいに、2人で同じ指輪を嵌められたらいいと思っていた。
「どれかお試しになりますか」
「ううん、また今度……。ちょっと見に来ただけだから」
ガラスに映る髪はグリーンだ。わかってる。俺はバルが好き。結婚だってしたかった。バルと。死が二人を分つまで……。
俺が死ぬまで?
「ティッシュをどうぞ。大丈夫です、たくさん泣いてください」
「ごめんなさい……」
「我慢していたんですね」
がまん? していたつもりはなかったけど……。
止まらない涙を拭いて深呼吸した。こんなこと、バルには話せない。
「……バルを、苦しませたくない……」
「でもそれがあなたの気持ちなんですね?」
「そう……」
「じゃあ、これから二人で考えてみましょう。次はいつにしますか? 土日も大丈夫ですよ」
土曜日に予約を入れてオートキャリアに乗った。どこかに寄って顔を洗わないといけない。また涙のにおいでバルにわかられてしまう。
でも少しすっきりした。全然関係ない人に話し始めてみると、自分でも気がついていなかった本当の気持ちがどんどん出てきた。エミールさんはあまり口を挟まずに話を聞いてくれる。マリーンさんとはまた違った感じ。利害関係が全くないからかな。
それに今回の内容はマリーンさんやザムザには少し言いづらい。タイミングが良かったのかも知れない。
帰る途中でショッピングモールに寄り、レストルームで顔を洗って息をついた。鏡に時計が映り込んでいる。12時を少し過ぎた。お昼ごはん、バルは食べたかな? ブリングを見てみる。何も連絡は来ていない。ゴーシェを捕まえるまではあんなにべったりだったくせに。
あの時はバルは俺が窮屈なんじゃないかって思ってたみたいだけど、俺はアラスターに比べると普段放任すぎるくらいのバルが、ずっと一緒にいてくれて嬉しかった。俺のこと、無くしたくないと思ってくれてるんだなって。バルは全然口に出さないから……。
すぐに家に帰る気になれなくて、なんとなくモールの中を歩いて回る。一人だとなんだか落ち着かない。
自分が何をしたいのかどんどんわからなくなる。
「Wedding」という文字が目に飛び込んでくる。思わず足を止めると、サービスドロイドがモニタを目の前にかざしてきた。宝石店だった。
「お探しのものは何ですか?」
お探しのもの……。
「指輪」を選択する。エンゲージリング、マリッジリング、アクセサリーリング……マリッジリングを選んでみる。ご夫婦向け、対遇様向け。対遇様向けを選ぶと、さらに性別傾向での分類がある。メイルトゥメイル、フィメイルトゥフィメイル、ユニセックス。
メイルトゥメイルを選ぶ。シンプルで石が付かないタイプのペアリングが多い。結婚指輪。選ぶのは楽しい。バルにはどんなのが似合うかな……。あの長い指に。すごく幸せな気分になる。ザムザとマリーンさんみたいに、2人で同じ指輪を嵌められたらいいと思っていた。
「どれかお試しになりますか」
「ううん、また今度……。ちょっと見に来ただけだから」
ガラスに映る髪はグリーンだ。わかってる。俺はバルが好き。結婚だってしたかった。バルと。死が二人を分つまで……。
俺が死ぬまで?
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる