Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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09 「ふたり」の形

06 Vesta (約束の期限)

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「………」
「ティッシュをどうぞ。大丈夫です、たくさん泣いてください」
「ごめんなさい……」
「我慢していたんですね」

 がまん? していたつもりはなかったけど……。

 止まらない涙を拭いて深呼吸した。こんなこと、バルには話せない。

「……バルを、苦しませたくない……」
「でもそれがあなたの気持ちなんですね?」
「そう……」
「じゃあ、これから二人で考えてみましょう。次はいつにしますか? 土日も大丈夫ですよ」

 土曜日に予約を入れてオートキャリアに乗った。どこかに寄って顔を洗わないといけない。また涙のにおいでバルにわかられてしまう。

 でも少しすっきりした。全然関係ない人に話し始めてみると、自分でも気がついていなかった本当の気持ちがどんどん出てきた。エミールさんはあまり口を挟まずに話を聞いてくれる。マリーンさんとはまた違った感じ。利害関係が全くないからかな。

 それに今回の内容はマリーンさんやザムザには少し言いづらい。タイミングが良かったのかも知れない。

 帰る途中でショッピングモールに寄り、レストルームで顔を洗って息をついた。鏡に時計が映り込んでいる。12時を少し過ぎた。お昼ごはん、バルは食べたかな? ブリングを見てみる。何も連絡は来ていない。ゴーシェを捕まえるまではあんなにべったりだったくせに。

 あの時はバルは俺が窮屈なんじゃないかって思ってたみたいだけど、俺はアラスターに比べると普段放任すぎるくらいのバルが、ずっと一緒にいてくれて嬉しかった。俺のこと、無くしたくないと思ってくれてるんだなって。バルは全然口に出さないから……。

 すぐに家に帰る気になれなくて、なんとなくモールの中を歩いて回る。一人だとなんだか落ち着かない。

 自分が何をしたいのかどんどんわからなくなる。

 「Wedding」という文字が目に飛び込んでくる。思わず足を止めると、サービスドロイドがモニタを目の前にかざしてきた。宝石店だった。

「お探しのものは何ですか?」

 お探しのもの……。

 「指輪」を選択する。エンゲージリング、マリッジリング、アクセサリーリング……マリッジリングを選んでみる。ご夫婦向け、対遇様向け。対遇様向けを選ぶと、さらに性別傾向での分類がある。メイルトゥメイル、フィメイルトゥフィメイル、ユニセックス。

 メイルトゥメイルを選ぶ。シンプルで石が付かないタイプのペアリングが多い。結婚指輪。選ぶのは楽しい。バルにはどんなのが似合うかな……。あの長い指に。すごく幸せな気分になる。ザムザとマリーンさんみたいに、2人で同じ指輪を嵌められたらいいと思っていた。

「どれかお試しになりますか」
「ううん、また今度……。ちょっと見に来ただけだから」

 ガラスに映る髪はグリーンだ。わかってる。俺はバルが好き。結婚だってしたかった。バルと。死が二人を分つまで……。

 俺が死ぬまで?








 





 

 
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