Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

文字の大きさ
上 下
196 / 229
08 デモンストレーション

21 Baltroy (課題)

しおりを挟む
 容疑者の部屋のドアをノックする。

「こんにちは! レプリカント人権保護局です。開けてください」

 応答はないが人の気配がある。1分待つ。出てこない。

「いらっしゃいますよね? 入りますよ」

 ドアには鍵が掛かっている。居住者の任意のパスワードで開くタイプだから、久々に蹴り開ける。

 一歩踏み込む。部屋の真ん中に、ブラウンの髪の男が所在なさげに突っ立っている。レニー・コンバイ。

「レプリカント人権保護局のA492090rpとC571098rpです。局にご同行願います」
「何か………」
「あなたにはレプリカント殺害容疑がかけられています」

 まあ、居るのに応答しない時点で何か後ろ暗いことがあるのは確定だ。ヴェスタが猫のようにするりと部屋の中に入り、真っ直ぐに容疑者の冷凍庫を開けた。

「あっ!」

 レニーが駆け寄ろうとする。足を引っ掛けると見事にべたりと転んだ。

「………」

 ヴェスタは黙ってブリングを冷凍庫に向け、画像を撮影する。

「女性の冷凍された生首を容疑者宅で発見。照会します」

 逮捕確定なので拘束する。レニーはぐったりと顔を床につけた。少なくとも窃盗と器物破損、おそらく死体損壊・遺棄罪。

「……8年前に捜索願いが出されている、イルゼ・ミュラーさん。人権のあるレプリカントです」
「立って。話は局で伺います」

 これで問題は一つ解決。残った方のやつが面倒。
 





 コールする。出ない。まあいい。どうせすぐにわかる。ほとんど街灯のない暗い路上に立つ。すっとオートキャリアが横付けする。

「やあ。待たせたな」

 特徴のある匂い。顔を見たくもない。仕方なく乗り込む。

「嬉しいね。愛用のオナホには何て言って出てきたんだ?」
「オナホじゃない」

 ゴーシェはにやっと笑った。

「そうかもね。お前が身売りするくらい大事なんだもんな」

 ゴーシェは訓練所からコールしたあの日、ヴェスタに手を出さない代わりに俺の自由を要求した。俺のものに・・・・・なれとは言わない・・・・・・・・お前の気持ち次第だ・・・・・・・・・いい条件だと・・・・・・思わないか・・・・・

『お前の愛しいレプリカントのことはお気に入りのオナホだとでも思うことにするよ。腹も立たない……。ただ、あんまりそっちばかり使ってるようだと、ちょっと困るね』

 いい条件だ? 暗に言ってるじゃないか。俺の言うことを聞かないとヴェスタを殺すと。

『俺も命を賭けようってことさ。なあバルトロイ、俺だって本気なんだよ。さあ、選べよ。たまに泣き顔を見せてくれるだけでいいんだ。俺の体の下で』






「で? 今日はどこまでやっていいんだ? お前の気持ち次第だって言っただろ」

 ゴーシェの手が、つつっと俺の足をなぞる。純粋に吐き気がする。くそが。

「ヴェスタに手を出さないくらいまで」
「じゃあ全部だ」

 ははっとゴーシェは愉快そうに笑った。

「楽しくて仕方ないよ。念願叶ったってやつさ」

 ぐっと肩に腕を回される。顔を背ける。無意識に唇を強く噛んでいた。

「かわいいなあバルトロイ。嫌がるとこがたまんないね。こっちを向けよ」

 もう片手で無理に顔を向けさせられる。無彩色の目と目が合った。

「ククッ。うまそうな………」

 血の滲んだ唇を、ゴーシェの舌がなぞっていく。ぞっとする。我慢。オートキャリアがすっと郊外の建物の前で停まった。

「ほら。古いモーテルで悪いけど……探したんだぜ、お前のために。臭くないとこをさ」

 よく言う。促されて一室に入る。扉が閉まった。

「こんなやり方で俺がお前に好意を持つと思ってんのか?」
「思ってないよ。でも支配はできる。俺のものになりさえすればいい。永遠に」

 俺の感情はどうでもいいわけだ。流石だな。さて、ここからが難題。

 難題なんだな。

 顔に伸びてきたゴーシェの手をパンと払う。襟首を掴んでベッドに押し倒す。

「おっと! 情熱的だな、バルトロイ」
「ぬかせ」

 片手で押さえつけたまま背中に突っ込んでいた手錠を抜く。ゴーシェの手が俺のその手首を掴んだ。

「……おい。どうなるか……わかってんだろうな……」
「ヴェスタを殺しに行くってか? やってみろよ。お前の思い通りにはさせない」

 ──迷いがあるね。思い切らないと。

 いや、迷うだろ。なんか文句あるか? 手首がみしっと音を立てる。すごい力だ。もう片手が目を狙って伸びてきたので横に避けると、そのまま上を取られた。

「……興奮するね」
「気持ち悪いんだよ」

 首に指がかかる。そうだろうな。ここからが腕の見せ所だ。手錠から手を離して食い込む指を引き剥がす。ゴーシェがすかさず手錠を掴んだ。かちんと片手に手錠を嵌められる。首の手を振り解いたはずみで、ベッドから転がるようにうつ伏せに落ちる。どんとゴーシェは背中に馬乗りになって俺の後ろ手にもう一方の手錠を嵌めた。

「は……」
「はははっ! 捜査官なんだろ? もっと訓練しといた方がいいんじゃないか?」
「加減が難しくてね」
「まあいいや。この方が都合がいい」

 ゴーシェが俺の腕を取って引き起こした。ベッドの淵に座らせられる。

「さあ。お楽しみだ」
「待てよ。聞きたいことがあるんだ」
「何だ?」
「ゴーシェ、何でイリーナを殺した?」
「その話か。殺したのはついでだな、どちらかと言うと」






しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

偏食の吸血鬼は人狼の血を好む

琥狗ハヤテ
BL
人類が未曽有の大災害により絶滅に瀕したとき救済の手を差し伸べたのは、不老不死として人間の文明の影で生きていた吸血鬼の一族だった。その現筆頭である吸血鬼の真祖・レオニス。彼は生き残った人類と協力し、長い時間をかけて文明の再建を果たした。 そして新たな世界を築き上げた頃、レオニスにはひとつ大きな悩みが生まれていた。 【吸血鬼であるのに、人の血にアレルギー反応を引き起こすということ】 そんな彼の前に、とても「美味しそうな」男が現れて―――…?! 【孤独でニヒルな(絶滅一歩手前)の人狼×紳士でちょっと天然(?)な吸血鬼】 ◆閲覧ありがとうございます。小説投稿は初めてですがのんびりと完結まで書いてゆけたらと思います。「pixiv」にも同時連載中。 ◆ダブル主人公・人狼と吸血鬼の一人称視点で交互に物語が進んでゆきます。 ◆現在・毎日17時頃更新。 ◆年齢制限の話数には(R)がつきます。ご注意ください。 ◆未来、部分的に挿絵や漫画で描けたらなと考えています☺

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

裏公務の神様事件簿 ─神様のバディはじめました─

只深
ファンタジー
20xx年、日本は謎の天変地異に悩まされていた。 相次ぐ河川の氾濫、季節を無視した気温の変化、突然大地が隆起し、建物は倒壊。 全ての基礎が壊れ、人々の生活は自給自足の時代──まるで、時代が巻き戻ってしまったかのような貧困生活を余儀なくされていた。 クビにならないと言われていた公務員をクビになり、謎の力に目覚めた主人公はある日突然神様に出会う。 「そなたといたら、何か面白いことがあるのか?」 自分への問いかけと思わず適当に答えたが、それよって依代に選ばれ、見たことも聞いたこともない陰陽師…現代の陰陽寮、秘匿された存在の【裏公務員】として仕事をする事になった。 「恋してちゅーすると言ったのは嘘か」 「勘弁してくれ」 そんな二人のバディが織りなす和風ファンタジー、陰陽師の世直し事件簿が始まる。 優しさと悲しさと、切なさと暖かさ…そして心の中に大切な何かが生まれる物語。 ※BLに見える表現がありますがBLではありません。 ※現在一話から改稿中。毎日近況ノートにご報告しておりますので是非また一話からご覧ください♪

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...