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08 デモンストレーション
20 Vesta (愛と憎しみ)
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『霜取りですか?』
「そうです。あれほどの冷凍倉庫ですと、どれくらいの頻度でなさるんですか?」
コール画面の向こうで、フィッシュ・トルネード支社長代理のモーガン・ドルーが手元のブリングを覗き込んだ。
『年に一度、一つの倉庫に対して行います。三年で全ての倉庫の霜取りが終わることになります。今年は先週霜取りを終えたばかりです』
「その、今年霜取りした倉庫は今はどういった状態なんですか?」
『空っぽです。まだ庫内を冷却中なので』
「ちなみに、その冷凍倉庫には、誰か特定の人が出入りするということはあるんですか?」
『うーん、ないですね。通常は人は出入りしません。中の貨物は全て中央監視装置で管理されていますので、人が入らなくても回るんです。ただ出入りできないわけではないです』
「社員なら社員証をかざして入ることができる?」
『そうですね』
「ここ一ヶ月で出入りした人を出せますか?」
『出せますよ』
見つけた。これでおそらく犯人がわかる。そうすればこのミイラの首無しの遺体も、誰だったのかわかる。
不思議だ。このミイラの身元がわかれば犯人にたどり着くと思って始めたのに、今では彼女が誰なのか知るために犯人を探している。だって気になるから。彼女だけがミイラ化しているということは、彼女に限っては完全に水分が抜けてしまうほど長く保存されていたということだ。
それほどまでに、憎まれたのか、愛されたのか。
もしも俺が彼女のように殺されてしまったら、バルはどうするだろうか。犯人を探す。捜査官だから。捕まえて、そして? 俺はどうして欲しいかな。俺が死んだ後。俺は殺されても殺されなくても、いずれバルよりも早く死ぬ。バルにどうして欲しいかな。
「………」
ちょっと思いつかない。そこだけ空っぽだ。ただバルは俺のミイラを取っておいたりはしないだろうなと思う。
ピコンとメールが届いた。冷凍倉庫に出入りした人のリスト。なんだか随分遠回りした気がする。リストを開く。ほんの数人だ。
さあ。見つけた。
「そうです。あれほどの冷凍倉庫ですと、どれくらいの頻度でなさるんですか?」
コール画面の向こうで、フィッシュ・トルネード支社長代理のモーガン・ドルーが手元のブリングを覗き込んだ。
『年に一度、一つの倉庫に対して行います。三年で全ての倉庫の霜取りが終わることになります。今年は先週霜取りを終えたばかりです』
「その、今年霜取りした倉庫は今はどういった状態なんですか?」
『空っぽです。まだ庫内を冷却中なので』
「ちなみに、その冷凍倉庫には、誰か特定の人が出入りするということはあるんですか?」
『うーん、ないですね。通常は人は出入りしません。中の貨物は全て中央監視装置で管理されていますので、人が入らなくても回るんです。ただ出入りできないわけではないです』
「社員なら社員証をかざして入ることができる?」
『そうですね』
「ここ一ヶ月で出入りした人を出せますか?」
『出せますよ』
見つけた。これでおそらく犯人がわかる。そうすればこのミイラの首無しの遺体も、誰だったのかわかる。
不思議だ。このミイラの身元がわかれば犯人にたどり着くと思って始めたのに、今では彼女が誰なのか知るために犯人を探している。だって気になるから。彼女だけがミイラ化しているということは、彼女に限っては完全に水分が抜けてしまうほど長く保存されていたということだ。
それほどまでに、憎まれたのか、愛されたのか。
もしも俺が彼女のように殺されてしまったら、バルはどうするだろうか。犯人を探す。捜査官だから。捕まえて、そして? 俺はどうして欲しいかな。俺が死んだ後。俺は殺されても殺されなくても、いずれバルよりも早く死ぬ。バルにどうして欲しいかな。
「………」
ちょっと思いつかない。そこだけ空っぽだ。ただバルは俺のミイラを取っておいたりはしないだろうなと思う。
ピコンとメールが届いた。冷凍倉庫に出入りした人のリスト。なんだか随分遠回りした気がする。リストを開く。ほんの数人だ。
さあ。見つけた。
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