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08 デモンストレーション
05 Baltroy (手がかり)
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ヴェスタの様子がもうずっとおかしい。
今朝も髪がかなり青っぽいブルーグリーンで、顔色も冴えなかった。マリッジブルー? 見た目通り。はは。なんだろうな。
ルーたちに会わせた時はちょっとほったらかし気味だったかも知れない。俺も久しぶりだったから。つい。またヴェスタの全然思ってることをしゃべらないやつが発動してて、何考えてるのか全くわからない。少し様子を見るか。
さて。骨の件だ。8体の骨。まあ、三体は腐乱死体。年代順に並べてみる。一番古い骨が5年前の骨。正確には、5から7年前の骨。ずいぶん開きがあるな? いくら骨になったからって、もう少し死亡時期は絞れるもんだけどな。他の骨も見てみる。3年から5年。2年も開くか? 鑑識にコールする。
「先日もらった骨の死亡時期なんですが、かなり広くないですか? 期間が」
『そう。なんだかね、状態がよくなくて特定できなかったんだ』
「状態がよくない? 燃やされてたとか、薬品でも掛けられてたとか?」
『いや、そうでもないんだ。細かいヒビが入ったりしててね。どちらかというと膨張と収縮を繰り返したのかなと。つまり……』
「寒暖差が大きいところに放置されていた?」
『そうじゃないかなと。一応死亡時期の推定はしたけど、参考程度に考えて欲しいな』
ふうん。まあ、空調もない山中の倉庫の中だ。街中よりはずっと寒暖差があっただろうが……。
一番古い骨は5から7年前。これが一体。次が3から5年前。4体ある。そのうちの一体に首がない。これはまだ身元がわかっていない。レプリカントは遺伝子の登録をしないし肉親もいないから、顔がわからないと難しい。
次が腐乱死体の三人。これは最近の遺体。腐乱死体の三人には、性行為の跡があった。暴行? 和姦? 体液は見つからなかった。これで犯人にどうやって辿り着くか。
「ヴェスタ」
そんなに機嫌の良くないヴェスタが右側に滑り込んでくる。でもこういうのはお前の管轄だろ。何か思いついてくれ。
「骨の状態が悪くて死亡時期がフワッとしてるけど、だいたいこんな順で殺されてる。この一番古い遺体が5年前に捜索願が出てるやつだから、もしかすると3年前って言われてるやつと前後するのかもな。何か気づくか?」
「……どうして一体だけ首がないのかな?」
「そうだな。何でだろう? 戦利品? だったら他の遺体も損壊しそうだよな。身元をわからなくする目的なら全部やるよな」
「俺、この人を探してみる」
「この首のない遺体?」
「うん。だめかも知れないけど」
「かなり難しいぞ。手がかりにできるのは身長くらいかな」
身長は恐らく163センチ。首がないから推定だ。
「お前と同じくらい」
「他の人は?」
他のも見てみる。163センチから168センチ。大体似通っている。
「他になんか思いつくか?」
「攫われてから殺されるまで随分タイムラグがあるだろ。どこに隠されてるのかな……監禁されてる?」
「うーん……」
その通りだ。腐乱死体の三人のうちAさんなんかは、一年も前に誘拐されて死んだのは最近だ。一年近くも。他の女性とも一緒にいた時期さえありそうだ。
「体液は見つからなかった?」
「見つからなかった。見つかってれば一発だったのに」
「なんで? 性行為したんだろ?」
「なんでって……」
ヴェスタが声をひそめた。
「いく時抜いたって、ちょっとは残っちゃうんじゃないの? 検出できないの?」
「………や、抜くとかじゃなくて」
「ちがうの?」
これ。教育を間違った。というか……
「……家で説明してやる」
おいおいおい。プレインストールされてないのかよ? アラスターも教えろよ。人のこと言えねえか……。ディープキスはプレインストールだったのにな。基準がおかしいだろ。
「とにかく体液は見つからなかった。俺はあの倉庫がある山の周辺のカメラの映像を見てみる。三人分の遺体を運んだんなら、それなりにでかいオートキャリアを使ってるはずだ」
「うん」
気を取り直して映像を探してみる。倉庫から一番近いのは不法投棄予防のための個人が設置した防犯カメラだった。腐乱死体が捨てられた日あたりの映像をもらう。さすがに3年も前の映像は消えていた。辺鄙な山奥だ。そんなに車通りがあるわけではない。
やはり輸送用の大型のキャリアが多い。あんまり絞れない。まあ、土やら石やらを載せたやつは除く。シーツに土はついていなかった。パイプや板みたいな、隠しようもなく資材ばかりのやつも除く。すると一日で10数台。
「ここから先か……」
道は一本道だ。抜けた先には当分カメラはない。コンコンとペンでデスクを叩く。叩いて何か思いつくわけじゃないけど。犯人の気になってみよう。遺体を運ぶ……3人分だ。あの倉庫まで。山を登っていく。倉庫の中まで乗り入れて、遺体を下ろす。さて、帰ろう。オートキャリアに乗り込む……。
もう一度映像を見る。この道は一本道なんだ。このまま走っていけば、戻る時にものすごい遠回りになる。もと来た道を戻ったはずだ。遺体を下ろすのにどれくらいかかる? 一人につき5分? 10分? 30分から1時間程度でこの道を戻っているのを探す。一台だけだ。どこかの企業名と魚のロゴが車体に入っている。
フィッシュトルネード。
すぐに社名を検索してコールする。
「こんにちは、こちらレプリカント人権保護局の捜査官A492090rpです。貴社の社名入りのオートキャリアについて伺いたいんですが」
今朝も髪がかなり青っぽいブルーグリーンで、顔色も冴えなかった。マリッジブルー? 見た目通り。はは。なんだろうな。
ルーたちに会わせた時はちょっとほったらかし気味だったかも知れない。俺も久しぶりだったから。つい。またヴェスタの全然思ってることをしゃべらないやつが発動してて、何考えてるのか全くわからない。少し様子を見るか。
さて。骨の件だ。8体の骨。まあ、三体は腐乱死体。年代順に並べてみる。一番古い骨が5年前の骨。正確には、5から7年前の骨。ずいぶん開きがあるな? いくら骨になったからって、もう少し死亡時期は絞れるもんだけどな。他の骨も見てみる。3年から5年。2年も開くか? 鑑識にコールする。
「先日もらった骨の死亡時期なんですが、かなり広くないですか? 期間が」
『そう。なんだかね、状態がよくなくて特定できなかったんだ』
「状態がよくない? 燃やされてたとか、薬品でも掛けられてたとか?」
『いや、そうでもないんだ。細かいヒビが入ったりしててね。どちらかというと膨張と収縮を繰り返したのかなと。つまり……』
「寒暖差が大きいところに放置されていた?」
『そうじゃないかなと。一応死亡時期の推定はしたけど、参考程度に考えて欲しいな』
ふうん。まあ、空調もない山中の倉庫の中だ。街中よりはずっと寒暖差があっただろうが……。
一番古い骨は5から7年前。これが一体。次が3から5年前。4体ある。そのうちの一体に首がない。これはまだ身元がわかっていない。レプリカントは遺伝子の登録をしないし肉親もいないから、顔がわからないと難しい。
次が腐乱死体の三人。これは最近の遺体。腐乱死体の三人には、性行為の跡があった。暴行? 和姦? 体液は見つからなかった。これで犯人にどうやって辿り着くか。
「ヴェスタ」
そんなに機嫌の良くないヴェスタが右側に滑り込んでくる。でもこういうのはお前の管轄だろ。何か思いついてくれ。
「骨の状態が悪くて死亡時期がフワッとしてるけど、だいたいこんな順で殺されてる。この一番古い遺体が5年前に捜索願が出てるやつだから、もしかすると3年前って言われてるやつと前後するのかもな。何か気づくか?」
「……どうして一体だけ首がないのかな?」
「そうだな。何でだろう? 戦利品? だったら他の遺体も損壊しそうだよな。身元をわからなくする目的なら全部やるよな」
「俺、この人を探してみる」
「この首のない遺体?」
「うん。だめかも知れないけど」
「かなり難しいぞ。手がかりにできるのは身長くらいかな」
身長は恐らく163センチ。首がないから推定だ。
「お前と同じくらい」
「他の人は?」
他のも見てみる。163センチから168センチ。大体似通っている。
「他になんか思いつくか?」
「攫われてから殺されるまで随分タイムラグがあるだろ。どこに隠されてるのかな……監禁されてる?」
「うーん……」
その通りだ。腐乱死体の三人のうちAさんなんかは、一年も前に誘拐されて死んだのは最近だ。一年近くも。他の女性とも一緒にいた時期さえありそうだ。
「体液は見つからなかった?」
「見つからなかった。見つかってれば一発だったのに」
「なんで? 性行為したんだろ?」
「なんでって……」
ヴェスタが声をひそめた。
「いく時抜いたって、ちょっとは残っちゃうんじゃないの? 検出できないの?」
「………や、抜くとかじゃなくて」
「ちがうの?」
これ。教育を間違った。というか……
「……家で説明してやる」
おいおいおい。プレインストールされてないのかよ? アラスターも教えろよ。人のこと言えねえか……。ディープキスはプレインストールだったのにな。基準がおかしいだろ。
「とにかく体液は見つからなかった。俺はあの倉庫がある山の周辺のカメラの映像を見てみる。三人分の遺体を運んだんなら、それなりにでかいオートキャリアを使ってるはずだ」
「うん」
気を取り直して映像を探してみる。倉庫から一番近いのは不法投棄予防のための個人が設置した防犯カメラだった。腐乱死体が捨てられた日あたりの映像をもらう。さすがに3年も前の映像は消えていた。辺鄙な山奥だ。そんなに車通りがあるわけではない。
やはり輸送用の大型のキャリアが多い。あんまり絞れない。まあ、土やら石やらを載せたやつは除く。シーツに土はついていなかった。パイプや板みたいな、隠しようもなく資材ばかりのやつも除く。すると一日で10数台。
「ここから先か……」
道は一本道だ。抜けた先には当分カメラはない。コンコンとペンでデスクを叩く。叩いて何か思いつくわけじゃないけど。犯人の気になってみよう。遺体を運ぶ……3人分だ。あの倉庫まで。山を登っていく。倉庫の中まで乗り入れて、遺体を下ろす。さて、帰ろう。オートキャリアに乗り込む……。
もう一度映像を見る。この道は一本道なんだ。このまま走っていけば、戻る時にものすごい遠回りになる。もと来た道を戻ったはずだ。遺体を下ろすのにどれくらいかかる? 一人につき5分? 10分? 30分から1時間程度でこの道を戻っているのを探す。一台だけだ。どこかの企業名と魚のロゴが車体に入っている。
フィッシュトルネード。
すぐに社名を検索してコールする。
「こんにちは、こちらレプリカント人権保護局の捜査官A492090rpです。貴社の社名入りのオートキャリアについて伺いたいんですが」
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