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07 ドミニオン
02 Baltroy (未経験業務)
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「今回のは珍しいケースだな」
いつも通りデスクの左側に寄ると、ヴェスタが右側から端末を覗き込んできた。後でヴェスタの端末にもファイルを送らないといけない。
「ジニー・カルドラ。外見年齢23歳のレプリカント。彼女の」
「捜索?」
「違う。護衛」
「護衛?」
一度ノーイメイクのマグショットの資料を閉じて、もう一枚の資料画像を開く。極彩色の化粧をした女の顔が現れた。
「この顔なら見たことあるだろ?」
「ドミニオン!」
「そう。ロック歌手のドミニオンだ。お前たまに聞いてるよな。今回のこの街でのライブコンサートの護衛だよ。ツアーの最終週」
「えー! SPとか山ほど付けてるんじゃないの?」
「付けてる。でも今回は犯行予告みたいなメールがあったんで、通報して来たんだ。俺たちもSPとは別に彼女を守る」
ドミニオンは今が旬のロック歌手だ。レプリカントであることを公言している。オーナーは彼女のプロデューサー。音楽プロデューサーたちがレプリカントを一体ずつ購入し、歌を歌わせて売り上げを競うリアリティ番組で彼女が大ブレイクした。今は各地でのライブツアー中で、来週この町に来る予定だが、三日前に脅迫と取れるメールが彼女あてに届いた。
「そのメールだ」
love u so much so much so much will get u or kill u if won't be mine my fuckin' hot doll(愛してる愛してる愛してる私のものにならないなら殺す私のお人形さん)
メールの差出人名はない。一度限りの使い捨てのメールアドレスからだ。
「しかもこれが一日何通も届く。昨日は13通」
「うーん、情熱的……」
「こんなのははっきり言って日常的に届いてはいる。世界的な歌姫だからな。でも、通数が多いのと、実際身の危険を感じることが起きたので通報することにしたみたいだ。彼女の飲み物に何か入れられた」
「何か?」
三日前、彼女はライブツアーのために隣の州のホテルに泊まっていた。ラウンジで飲み物を飲んでいたら、ファンだという人々に見つかって囲まれた。
サインして一緒に写真を撮ってやり、嵐のようなファンたちを見送って飲み物を口に含むと、飲み物には何かが入っていた。ぬるぬるする何か。例えるなら生卵の白身のようなもの。彼女はそれを舌に感じてすぐに吐き出した。
後でそれは子どもの知育菓子の一種だったことがわかったけど、彼女が身の危険を感じるには充分だった。それ以来、彼女の側には必ずSPが三人付き従い、マネージャーも可能な限り一緒にいるが、犯人を捕まえて身の安全を確保したいと思うのも無理はなかった。
「その時、SPたちは何してたの?」
「その時は誰も側にいなかった。少し一人になりたくて、マネージャーもSPも置いて行ってた。ノーメイクでラウンジで静かに飲んでたのに、それでもファンに囲まれたことにまず驚いたらしい」
「防犯カメラは?」
「死角。彼女本人が映らないところを指定して座ってた。前に防犯カメラの映像を売られたことがあったんだと。とにかく今日の午後にこの街に来るから、ホテルで顔合わせだ。18時到着予定」
「急だね」
「ぎりぎりまで通報するか迷ってたみたいだ。今朝ダメ押しがあった」
「ダメ押し」
「今朝、朝食をホテル内のレストランで食べて、匿名にしてたはずの部屋に戻ったら、ドアのノブにメールのメッセージと同じカードがついてた」
さすがに防犯カメラに映っていた。見るからに怪しい黒いフードと黒いパンツ、ハロウィン用の骸骨のお面を付けた男に見える人影。
「追えなかった?」
「そう。物陰で着替えたんだか、防犯カメラのないところをうまく通ったんだか、ほかの階には映ってない」
もしかするとこの町まではこのストーカーは追いかけてこないかもしれない。でも万が一ということがある。
「目標は彼女がライブを終えてこの街を出る6日間、身の安全を守ることと犯人逮捕」
「了解。で、どうするの? 護衛ってしたことないよ」
「俺もない」
「バルにもないの⁉︎」
そもそも、護衛しないといけないようなレプリカントがめったに居ない。金持ちの養子になって財産を継ぐことになったやつくらいで、そういう人は自前でSPを付けている。レプリカントだと公にもしない。それを一つの売りにしている彼女だからこその悩み。
「とにかく今日話を聞いてみよう。何ができるか考えないとな」
「うーん……」
いつも通りデスクの左側に寄ると、ヴェスタが右側から端末を覗き込んできた。後でヴェスタの端末にもファイルを送らないといけない。
「ジニー・カルドラ。外見年齢23歳のレプリカント。彼女の」
「捜索?」
「違う。護衛」
「護衛?」
一度ノーイメイクのマグショットの資料を閉じて、もう一枚の資料画像を開く。極彩色の化粧をした女の顔が現れた。
「この顔なら見たことあるだろ?」
「ドミニオン!」
「そう。ロック歌手のドミニオンだ。お前たまに聞いてるよな。今回のこの街でのライブコンサートの護衛だよ。ツアーの最終週」
「えー! SPとか山ほど付けてるんじゃないの?」
「付けてる。でも今回は犯行予告みたいなメールがあったんで、通報して来たんだ。俺たちもSPとは別に彼女を守る」
ドミニオンは今が旬のロック歌手だ。レプリカントであることを公言している。オーナーは彼女のプロデューサー。音楽プロデューサーたちがレプリカントを一体ずつ購入し、歌を歌わせて売り上げを競うリアリティ番組で彼女が大ブレイクした。今は各地でのライブツアー中で、来週この町に来る予定だが、三日前に脅迫と取れるメールが彼女あてに届いた。
「そのメールだ」
love u so much so much so much will get u or kill u if won't be mine my fuckin' hot doll(愛してる愛してる愛してる私のものにならないなら殺す私のお人形さん)
メールの差出人名はない。一度限りの使い捨てのメールアドレスからだ。
「しかもこれが一日何通も届く。昨日は13通」
「うーん、情熱的……」
「こんなのははっきり言って日常的に届いてはいる。世界的な歌姫だからな。でも、通数が多いのと、実際身の危険を感じることが起きたので通報することにしたみたいだ。彼女の飲み物に何か入れられた」
「何か?」
三日前、彼女はライブツアーのために隣の州のホテルに泊まっていた。ラウンジで飲み物を飲んでいたら、ファンだという人々に見つかって囲まれた。
サインして一緒に写真を撮ってやり、嵐のようなファンたちを見送って飲み物を口に含むと、飲み物には何かが入っていた。ぬるぬるする何か。例えるなら生卵の白身のようなもの。彼女はそれを舌に感じてすぐに吐き出した。
後でそれは子どもの知育菓子の一種だったことがわかったけど、彼女が身の危険を感じるには充分だった。それ以来、彼女の側には必ずSPが三人付き従い、マネージャーも可能な限り一緒にいるが、犯人を捕まえて身の安全を確保したいと思うのも無理はなかった。
「その時、SPたちは何してたの?」
「その時は誰も側にいなかった。少し一人になりたくて、マネージャーもSPも置いて行ってた。ノーメイクでラウンジで静かに飲んでたのに、それでもファンに囲まれたことにまず驚いたらしい」
「防犯カメラは?」
「死角。彼女本人が映らないところを指定して座ってた。前に防犯カメラの映像を売られたことがあったんだと。とにかく今日の午後にこの街に来るから、ホテルで顔合わせだ。18時到着予定」
「急だね」
「ぎりぎりまで通報するか迷ってたみたいだ。今朝ダメ押しがあった」
「ダメ押し」
「今朝、朝食をホテル内のレストランで食べて、匿名にしてたはずの部屋に戻ったら、ドアのノブにメールのメッセージと同じカードがついてた」
さすがに防犯カメラに映っていた。見るからに怪しい黒いフードと黒いパンツ、ハロウィン用の骸骨のお面を付けた男に見える人影。
「追えなかった?」
「そう。物陰で着替えたんだか、防犯カメラのないところをうまく通ったんだか、ほかの階には映ってない」
もしかするとこの町まではこのストーカーは追いかけてこないかもしれない。でも万が一ということがある。
「目標は彼女がライブを終えてこの街を出る6日間、身の安全を守ることと犯人逮捕」
「了解。で、どうするの? 護衛ってしたことないよ」
「俺もない」
「バルにもないの⁉︎」
そもそも、護衛しないといけないようなレプリカントがめったに居ない。金持ちの養子になって財産を継ぐことになったやつくらいで、そういう人は自前でSPを付けている。レプリカントだと公にもしない。それを一つの売りにしている彼女だからこその悩み。
「とにかく今日話を聞いてみよう。何ができるか考えないとな」
「うーん……」
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