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03 トライアル (3)Vesta & Baltroy

31 Baltroy (長所と短所)

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「いやあ~、まさかのバルがやられるなんてな!」
「俺もびっくりした。初手で何か喰らったんだよな。あれなんだったんだ?」
「なんと! 犯人自作のスタンガンだ」

 スタンガン!

「骨董品じゃねーか」
「あれで倒れた人をザクザク刺してたんだな。あれやられたらたしかに動けんわ」

 大部屋の廊下側のベッドをあてがわれていた。本当はもう帰れるはずなんだけど、医師から組織片が欲しいと言われてまだ入院したままだ。でも今帰れと言われても困る。服がない。
 ザムザとウジャトが病室に来ていた。現調の帰りに寄ってくれたらしい。

「ヴェスタは? てっきりつきっきりかと思ってた」
「来ないんだよ。俺もあいつをあてにしてたから困ってんだ。あいつしか俺の家に入れないから」

 コールしても出ない。何やってんだ?

「ヴェスタが来たら打ち上げに飲み会だって言っといて。俺たちは戻って犯人と対決するわ」

 軽く手を振って満面の笑みのザムザと仏頂面のウジャトが帰って行った。入れ替わるようにアラスターが入ってきた。

「よう。さすがのバルトロイも死ぬんじゃないかと思ったね」
「はは。俺もそう思った。オンコールじゃなかったのに出てくれたんだろ? ほんと助かったよ。ありがとう」
「ヴェスタに泣いて頼まれたんだ。出すしかないよ。ほら、着替え。レッダからヴェスタが受け取ったやつ」
「助かった! 恩人!」

 手を差し出すと、アラスターがぐっと握った。

「ヴェスタはどうした? コールにも出ないんだけど。怪我したわけじゃないだろ?」
「んー……。さあね。怪我とかはないよ。ところでもうなんか……戻ってきた?」

 確かに自分でも印象が少し変わっていると思う。昨日までのお世辞にも男には見えないという感じじゃない。

「やっぱり戻ってきてるよな。丸一日飲んでないだけなんだけど。あっという間に戻るんじゃねーのこれ」
「まあ、女性化もあっという間だったもんねえ……」

 じゃあ着替えるかと服を脱いだが、アラスターは無言で立ち尽くしている。何だろうな。

「どうした? 見たいのかよ」
「ち、違う……ちょっと」

 アラスターは落ち着かなそうにそばの椅子に腰掛けた。とりあえずそのまま服を着る。体はもうどこも痛くない。ナイフの刺し傷くらいだからな。

「あのな、バル。ヴェスタと結婚しようって話をしたんだ」
「…!……」

 予想外なような、そうだよなというような。早いんじゃないかとは思うけど、付き合ってすぐ結婚するやつらもいるしな。半年は付き合ってるんだから普通かもしれない。どんな反応を期待されてるんだこれ。

「そうか。おめでとう」
「いや。その、お前はどう思う?」
「どう思う?」
「ちょっと真剣に考えてみてくれないか」
「え。今?」
「うん」

 なんでお前らは俺を挟むんだよ。直接罵り合いでも殴り合いでもしろよ。まあどっちもそういうタイプじゃない。

「いいんじゃないか? お前がいいやつなのもヴェスタがいいやつなのも知ってる。うまくやっていけそうならさ」

 そうだな。ただ。

「たださ、ヴェスタはわりと跳ねっ返りだろ」
「そう?」
「そうだよ。だから、跳ねっ返らせてやってくれよ。俺が言うことでもねーけど」
「……跳ねっ返らせる?」
「そう。好きにやらせてやってくれ」
「………そう」

 アラスターが少し考えるような顔をして、困り顔で笑った。余計だったかな。

「なあ、バル。お前の方がヴェスタとの付き合いが長いだろ。ヴェスタのいいところと悪いところを教えてくれよ」
「はあ? お前がこれから学べ。俺に聞くことじゃねーだろ」
「いいじゃないか。オーナーだろ? 父親みたいなもんだろ。はなむけとしてさ」
「いいとこ?」
「10個。あげて」
「多いな! 数えねーぞ。サーモが入ってる。暗視ができる。髪の色が変わる。素直。物覚えがいい。ボードゲームが得意。真面目。いつも一生懸命。自分で考える。視点が人と違う。感情が豊か。正直。10個あったか?」
「12個あったよ。次。悪いところ」
「サーモを活用しない。感情的すぎる。うかつ。もやし。目の前のことに集中しすぎ。時々暴走する。思ってることを言わない。世間知らず。たまに駄々をこねる。自己評価低すぎ。すぐ泣く。そうだな、一番悪いとこは献身的すぎってか、自分を大事にしないとこだな。何個?」
「12個」
「ノルマクリアだな? ああ、もう一個あったな。AIが入ってないとこだな」
「それはいいところ? 悪いところ?」
「いいところだろ。そりゃ」
「そうか。まいったな……」

 何が参ったんだ。アラスターはすごく変な顔をしていた。半泣き? 半笑い?

「ありがとう、バル。じゃ、また」
「いや、それはこっちの方だろ! 本当、助かった。ありがとう。またな」

 しばらく病室で暇を潰していたら、医者とナースが入ってきて細胞片をむしり取っていき、もう帰っていいと言った。やれやれ。やっと帰れる。









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