Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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02 潜入捜査

25 Vesta (内側)

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『おいヴェスタ、何があった? 用意したダミーのAIが書き換えられた。ヴェスタ?』

 ごめんね、ザムザ。

『応答してくれ! ヴェスタ!』

 耳からビートルを取り出す。ザムザの声が聞かれる前に指で強く押すと、パキンと軽い音を立ててそれは潰れてしまった。ヨールカが驚いた顔をした。

「ずっとこれで外と連絡を取ってた」

 たぶんもう大丈夫だから。俺がうまくやればいいだけ。

「……実はReLFに関する機密事項がレプリカント人権保護局と連邦捜査局で捜査線上にあって、どうしてもそれを伝えたいんです。でも、本当に大切なことだから、言えない……」

 俺が身分を明かすことを思いついてから考えた。どうすればいいのか。

「言いなさい、ヴェスタ。もうヒューマンの言うことなんか聞かなくてもいいんだよ」
「どうしても言えない。すごく大事なことだから」
「私たちにだから言えないの? ヒューマンになら言える?」
「イレプリカに関わる大切なことなんだ。直接イレプリカに伝えないとReLFがダメになってしまう……」

 ヨールカとファビアは顔を見合わせた。困った顔をしている。またヨールカが端末からコールする。

「あのね、さっきの子。そう、捜査官の。何か捜査に関わる機密情報を知ってるらしいんだけど、イレプリカにしか言えないって言うんだ。プログラムはちゃんと入った? エラーは出てないのか。どういう……。うん。一度本部に?」

 笑いたくなる。口元を手で隠す。

「ヴェスタ、オートキャリアに乗って。イレプリカがあなたと話してもいいって」

 どんな嘘をつけば、中に潜り込めるのか。そして無事に帰れるのか。

 まずプログラムを書き換えさせること。

 きっとプログラムにはヒューマンに対する攻撃性を解放することと、ReLFを裏切らないことが書き込まれている。だからきっと、連邦捜査局が用意していた偽装AIのパスコードを教えて書き換えが終われば、俺のことを全面的に信用すると思った。

 そして、何かとても重要で、イレプリカにしか言えないような秘密を持っていると言うこと。

 プログラムの書き換えによって、彼らは俺に嘘がつけると思わなくなっている。だからきっとこれで、イレプリカは俺に会おうと思うはず。そしてイレプリカがバルが突き止めた通りの人物だと確認できたなら、作戦は成功だ。

 そうでしょう?

 


 オートキャリアが施設の前のドライブに停まる。

「ヴェスタ、私たちはここを離れられないからね。またね」
「うん。ヨールカも、ファビアもどうもありがとう。カッシュとハイドラにもよろしく」
「……さよなら」

 ヨールカは微笑んで手を振ってくれたけど、ファビアはこっちをただ黙って見ていた。嘘ついてごめんね。

 オートキャリアは来た時と同じように、窓がスモークで外が見えない。ここしかレプリカントたちには逃げ場がない。それは本当のこと。ファビアは一生懸命だった。ここがなくなってしまったら、ここにいるレプリカントたちはどうするんだろう。ちゃんと政府が雇用して? IDつきのブリングを与えられて?

 自分のやろうとしていることが正しいことなのかわからなくなる。バルならなんて言うかな。

 手の中の通信機にそっと触れる。バルに、言う? イレプリカに会いに行くよって。

 やだな。バルに心配させたくない。全部終わって、ちゃんとして、ただいまって家に帰りたい。バルに、俺でもできたよって言いたい。




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