Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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02 潜入捜査

07 Baltroy (無言の抗議)

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 あの小さな白い手に直径5.3ミリのシリンジを突き刺すのは抵抗があった。でも仕方がない。本人も納得したことだ。

 自分の手に埋まった通信機に触れた。俺の方は本当は別に皮下に入れる必要はない。ただなんとなくヴェスタだけに痛みを負わせるのが嫌だった。

 あれこれ考えてみたが、結局居場所をGPSなしで追跡できるようなツールが見つからなかった。バグを付けて、これを付けて、あとは向こうに穴があってくれるのを祈るだけだ。

 ヴェスタは連邦捜査局が用意したくたびれた服を着て、ブリングを持って出ていった。何色だったんだろうな。髪は。

 がんばれでもない。いってらっしゃいなんて呑気な気分でもない。言葉が見つからなくて、ちょっとだけ手を上げてただ見送った。後で「早く帰って来い」だったなと思った。

 ヴェスタが出て行ってしばらくして、局長からまた呼び出しがかかった。嫌な予感がした。

「ヴェスタは行ったか?」
「はい」

 お陰様で。クソが。

「で、ヴェスタが不在の間のバディだが……」
「は?」
「ディーで。当たり前だろ。ヴェスタは単独任務なんだから」
「単独って。バックアップは必要でしょう?」
「それはあっちの捜査官だろ。ザムザ・ホープか? そのためのコラボ案件なわけだ。お前がバックアップについたら結局、お前がいなきゃヴェスタは役に立たないってことになってしまうだろう」
「…………」
「露骨に嫌そうな顔をするなよ。仕方ないだろ。お前のことを遊ばせておくわけにも行かないんだ。ザムザ・ホープは信用できる男のようだよ」

 なるほど。そうきたか。そんなにレプリカントが捜査官になるのが気に食わないやつがいるのか。じゃあやる事はひとつだ。

「わかりました。いいですよ」

 どうでもザムザとヴェスタの仕事を成功させてヴェスタを帰って来させる。それで文句はねえだろ。





 とは言うものの、ディーとの仕事を放り出すわけにもいかない。職場内ダブルワーク。なんだそれ。

 ディーは捜査官になって五年目で、結構ベテランなので楽なところは楽だ。ほっておいても適当に一人で仕事を進めている。でもどちらかと言うと事務仕事が好きなタイプで、外回りは嫌がるし突発の対応に弱い。だからディーはよくサポートで入るけど、中心になって何かすることはない。

「バル、今度のナツナの捜査のヘルプ頼まれてる。受けてもいい?」
「いいよ。いつ? スケジュール送っておいてくれるか。あと、ヴェスタとやってた案件なんだけど、さっき送ったリストのレプリカントに現況聞いてくれる?」
「いいよ。メールでいい?」
「コール」
「………」

 これが。面倒なんだよ。この無言の抗議が。 









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