Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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02 潜入捜査

01 Vesta (オーナーのこと)

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 好きだと伝えたはずだった。
 万感の想いを込めてキスしたつもりだった。



 バルが俺を抱えて高さ7メートルからダイブしてから半年。相変わらずバルと暮らしている。

 あれ以降も二人でたくさんのレプリカントの保護や人身売買の関係者を逮捕していた。俺のことをバルがいない隙にセクサロイドってからかう人もいるにはいるけど、最近ではもうそれほど気にならない。でも。

 公私共にずっと一緒。仲も良くなったと思う。バルが格段に俺のことを信頼してくれているのはしっかりと感じている。でも。

 でも。


 セックスもキスもあれっきりだった。セックスはイグニスの香水をつけて発情させてしたのが最後。キスはバルが入院中にしたのが最後。「そういうんじゃない」って確かに言われた気はするけど、こんなにすっとかわされるとは……。

 俺は好きだってわかってもらったと思ったんだけど。その気持ちには応えられないということなんだろうか。

 ベッドのサイドボードにある、イグニスのバッグからこっそり拝借して、それきりになったガラスの香水瓶を見る。まだ半分ほど中身が入ったまま。これさえ付けたら抱いてはもらえると思う。でもそれは俺がして欲しいやつじゃないし、バルもあとで死ぬほど怒るだろう。

「~~~~」

 つらい。ちょっとした時にふっと頭をくしゃくしゃと撫でてくれたり、肩をぽんぽんと抱いてくれたりはするけど、単にボディタッチという感じ。他の仲のいい人たちにもバルは平気でやる。頭を撫でるのはやってるの見たことないかな……。

 仕方ないんだと思う。だって最初から俺はバディとしての発注だったんだから。あの時は発情させられて仕方なく身近にいた俺としただけ。俺がバルを好きだからっていうのは、俺の方の都合。
 バディとしてはすごく評価してもらってるし、これ以上なく大切にされてると思う。みんなから言われたもんな。バルがバディを庇って入院したなんて初めてだって。

 だから。欲を出してるのは俺だけなんだよ。バディとしてバルと仕事できるだけで幸せと思わなくちゃ。そうそう……。

「ヴェスタ。夕飯ができましたよ」

 ホームキープドロイドのレッダに呼ばれてリビングに入ると、俺の分しか夕食がなかった。

「バルは?」
「先ほど、今日は遅くなるからヴェスタの分だけ作ってくれとオーダーがありました」
「……恋人でもできた? 最近多いよね」
「さあ。どうでしょうね」
「レッダ。教えてよ」
「私は憶測でものを言わないことにしているんですよ」

 これも俺がつらくなる要因の一つだった。バルに恋人ができてしまったらどうしよう。目の前にいないと胸が掻きむしられるようだ。病気だ。バルは全然俺のものじゃないのに。

 バルのことは一番最初に名乗られた時にもう好きになっていた。

 真っ黒な髪と真っ黒な瞳、気の強そうな一文字のまゆ。高い背。態度は素っ気なかったけど、一から十まで丁寧になんでも教えてくれた。良かったと思った。この人が俺のオーナーで良かった。

 だから初めての時もあんなに乱暴にされたのはびっくりしたし、怖かったし痛かったしショックだったし、バルには恋人がいるのにって少し悲しかったけど、気持ちを立て直せた。俺だって基礎知識で知ってる。言われるまでもない、俺たちの前身はセクサロイドだもん。これがこの人の求める形ならそれでもいい。

 でももうしないと頭を下げられた。「あんなひどいこと」とバルは言った。だから二回目は本当にバルが必死で堪えてるのがわかって、胸が潰れそうになった。においでおかしくなってるだけで、俺に乱暴にするのは本意じゃないんだって気づいた。

 俺は別に構わない。そんなにつらい思いをバルにさせたいんじゃない。俺はバルを楽にできるのならなんでもする。二回目の二回目は夢みたいだった。気持ち良すぎて死んでしまうと思った。バルは本当は好きなやつとやるんだと言ったけど、まさにバルこそがその好きな人だった。終わった後、バルにとってはそうじゃないことを思い出して今度は死にたくなった。あんなに気持ちよくてあんなに苦しいことはなかった。

「……ねえレッダ、告白しても返事がもらえなかった時ってどうすればいいの」
「時と場合によりますね。拒否されたのでなければもう一度当たってみるのも一つの方法でしょう」
「えー……」
「気持ちというものは伝えたつもりでもうまく伝わっていないことが多いようですよ」
「……」



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