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打開策

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 シロは城で見聞きしたことをカインとシュトロウに洗いざらい話した。光のエイダンのネネリオは、隣の国と戦争して国を豊かにすると言っている。増税もそのため。デュトワイユに派兵したのは、戦争の時の予行練習。能力もちの奴らが集められているのは、それぞれの能力に応じた軍を編成しようとしているから。王様や高官はおそらく軒並みネネリオに意思を抜かれて、ネネリオの言いなりになっている。
「隣の国?タトワかな?長い間、いい関係なんだよ。今回もかなり資金や食糧を援助してもらってる。戦争する意味はない」
「面白がってる……みたいだった。能力もちをうまく使えば、戦略で勝てると」
 自分はゲームの主人公になったのだと。ストラテジーゲーム………。そうだ。ネネリオの状況は、RPGの主人公に似ている。王様から全ての権限を与えられ、軍を動かす。誰も主人公に逆らわない。戦いに勝てば英雄と称えられる。ただ、セーブデータはない。だってゲームじゃないから。誰も生き返らない。でもネネリオはそこを意に介さない。死ぬのは、自分じゃない誰かだから。高みの見物ができるんだよ……。
「そんなことで戦争なんかされたら困るよ。王様と官僚たちが正気になりゃいいんだけど」
「城にいるエイダンと話せないかな」
 カインが言った。
「戦争するのがどんなに無意味なのか説明したい。デュトワイユの領主として。増税に対応できないわけも。本当なら、他の領や町と共同で嘆願に行きたいところなんだけど、そんな暇はないな」
「領主になったのか?お父さんは?」
「死んだ。お前が出て行ってすぐ」
 はっとした。さっき神殿で見た新しい死者の葉は、カインのお父さんの葉だったんだ……。
「俺にはここの人々を守る義務がある。城に行くか、光のエイダンを呼び出したい。でも明日明日兵士たちが到着するとなると、離れられないな……」
「俺が行く」
 シュトロウが言った。
「俺が城に行って話をする。まだこの世界や国のことがわかってないのかも知れない」
 たぶん、そういうタイプじゃない。全部わかってて、その上でコマにしてる感じがあった。俺のことさえも。シュトロウが行っても殺されるか、意思を奪われて人形にされるかどちらかだろう。シュトロウなら最強の弓兵になるだろうから……。
「俺も行くよ、っていうか、俺を探してると思うから。俺がここにいるってばれたら迷惑がかかるんだ。俺ならたぶんネネリオに会えるし……あいつのアーガの葉を盗ってリジンできなくするか、最悪、葉を壊してしまえば王様たちは目が覚めるんじゃないかと思うんだ。木の小箱に葉を入れてるのは知ってるから……」
「よし。準備しよう。シロの話では、今朝領界手前の宿場に兵隊が着いた。ここまで来るのは明後日か明明後日だろう、早くても。兵隊たちが来てしまう前に話をしたい……すぐ出発はできないかな?」
 正直、へとへとだった。昨日から馬の背に揺られ続けて、やっと降りたところ。前の世界にいた俺なら絶対にごめんだ。でも、
「行くか………」
 外に出るとすっかり暗くなっていた。ブラーフが首を上げた。
「鞍を下ろしてくれんかの」
「ごめん、ブラーフ、すぐ出るんだ」
「いやいや。無理じゃよ。わしも年甲斐もなく歩き詰めだったんじゃ。カラスたちももう眠っておる」
「うーん……」
 別な馬を用意してもらう?でも乗れる自信がない……。しかも夜道になる。
「もしシロが信じてくれるなら、シルフィードを呼びますか」
 ネリだった。
「シル……フィード」
「風のエルフです。飛ばしてくれる」
「できるの?そんなこと」
「あなたが信じれば」
「信じる!」
「シルフたちは気まぐれだから、嫌がるかもしれないけど」
 ネリがすっと右手を上げると、風が巻き起こった。空間に色がつくような不思議な感覚。目を開けていられない。少し風が緩んだので目を開けると、薄緑色の服を着た少年がネリの手を取って浮かんでいた。体が透けているように見える。きかなそうな顔をしている。
「こんな暗い時に行くのやだよ!ニュクスに攫われるし気持ち良くないもん。男の人なんて重たいし」
「そう……じゃあ、朝になったらどうでしょう?」
 シュトロウはぽかんとしている。
「何これ?」
「シルフィードだって」
「お前ついにエルフとも話せるようになったの?」
「そうみたいだ」
 シルフィードがシュトロウに気が付いた。
「そいつを運ぶの?俺そいつ好きだ。明日の朝ならいいよ」
「良かった。お願いします」
 シルフィードは挨拶もせずにすっと飛び去っていった。シュトロウには今のエルフたちの会話はわからない。でもシルフがシュトロウのことを好きだと言うのは、なんとなくわかるような気がした。
「運んでくれるみたいです。空からなら早いと思いますよ」
「ありがとう、ネリ」
「ついでにノームたちに兵士たちの足止めをお願いしておきましょう。少しは時間稼ぎになるはずです」
 ネリのおかげで、なんとか一晩休めることになった。眠るのは、地下室の女子供が集まっている場所に張られた天幕の手前、部屋への入り口のあたりだった。泥みたいに眠った。

 
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