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09 また夜が
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今夜は童貞くんがコンビニで拾ってきたお赤飯と缶詰を適当に煮込んで、おじやみたいなものを作ってくれました。体があったまっておいしい。
「凄いね。料理できるんだ」
「いや、適当に入れてるだけです。口に合うなら良かった」
よくわからない。童貞くんの距離感が。
「ごめん。さっきは」
「あ。あー。」
「なんかよくわかんなくて」
「あー。はい」
どうしたらいいのか。
「毛布とか。持ってっていいから。食べ物も」
「え。と。あの」
「やらなくていいんなら、僕に付き合うことない。昼間みたいなのは、平常時だってよくあったし。好きな時に好きなとこ行きなよ」
「………」
「なんか聞きたいことあるんなら、教えてあげる。この辺の地理とか……って言っても何もなくなっちゃったけど」
「あの、じゃ、じゃあ教えてほしいんですけど」
「うん」
「な、なんで、その、その、せ、せっ……せっ………を、しないといけないみたいに、思ってるんですか」
「それ聞く?」
なんでだろう。
「なんでだろうな。自信があるから?」
「じ、じしん」
「うん。これだけはさ。需要があるから」
「あの、これは興味本意なんですけど、ど、さ、最初からなんですか?」
「何が」
「男のひと、と、そういう」
「男とセックスしたいと思ってたかってこと?」
「え、ま、そう」
「そんなの思ったこともないよ」
自然にまた笑えてきた。思ったこともなかった。ただぼんやりと、大人になったら女の子とセックスするんだろうなと思っていた。セックスに興味はあったけど、好きな子はいなかった。男にも女にも。
「中学生のとき……の、担任が、よく僕だけ居残りさせたんだよね。僕のこと学級委員に指名してさ。で、触られて。男の担任」
最初は、肩とか。当たり障りのないところ。
次に足とか。髪とか。
なんで嫌がらなかったんだろうなあ。
「秘密だよ、って言われると言えなくて。なんか、変なとこ触ってくるようになっても、ほら、そこまでの積み重ねができちゃってるから、なんか抵抗できないんだよね。んで」
──こんなことをするのは、先生がお前を好きだからだぞ。大好きだからだ。
──サヨリ、お前だけ特別だ。いい子だな。
「んで。んで、クラス変わっても、こっそり会ってやってて。特別、特別って。ケツで感じるようになっちゃってさ」
高校になってからも続くのかと思ってた。別に県外の高校に行くわけでもなかったから。でも卒業したら、全然連絡が来なくなった。そして……
「なんかさ、ケツに違和感あったんだけど、できものでもできたのかと思ってほうっておいたんだよね。そしたら治ったから、良かったって思ってたら、今度凄い真っ赤な斑点みたいなのが手のひらにできてさ。なんだかわかんなくて、母親に言ったら皮膚科に連れてかれて、んで、梅毒ですって」
母親のその時の顔は忘れられない。何か汚いものを見るような。
「ふふ。僕は先生としかやってないのにさ。先生、僕だけじゃなかったんだあって。薬飲んですぐ治ったんだけど、親とも凄いギクシャクして。んで、僕も頭に来て、先生にメールしたんだ。ひどいよって。そしたら」
笑える。
「ブロックされてて。携帯も着拒。学校に行って待ち伏せしたら、『バラしたら君のこともバレるよ。お互い忘れた方がいい』って」
ほんとに笑える。馬鹿だった。
「………だから………」
「そ、その先生は」
「さあ。まだ、中学の先生をどっかでやってんじゃない。好みの生徒がいたらつまみ食いしてさ………」
ざまあみろ。馬鹿。ころっと騙されるからだ。お前だけが好きだなんて言われて。
こんなことするのはお前だけだなんて言われて。
「好きだったんですか?」
「………わかんない………」
好きとか嫌いとかじゃなかった気がする。でも僕だけが求められてると思ってはいた。特別だと。ざまあみろ。信じたりなんかするからだ。
「な、泣かないで。こんなこと、聞いてごめんなさい」
「泣いてないよ」
誰にも話したことはなかった。親にも、言えなかった。治療してくれたお医者さんからも、相手も罹ってるから、相手が誰なのか教えてって言われたけど。だって何かの間違いだと思ったから。
僕は、ただ汚れただけ。
「……………」
「ど、どうしたら」
「何もしなくていいよ」
童貞くんは童貞らしくこういう時の対処法が全くわからないみたいで、見るからにオロオロしていました。ふふ。ほんと、からかってやりたくなるんだよ。
「……でも、さっきのは傷ついたかな……」
「え! な、俺、なん、俺、しましたか」
「口でしたのに勃たないんだもん。めっちゃプライド傷ついた」
「そ、え? そ」
「やっぱり僕が嫌なんだ……」
「ち、そ、ちが」
「ふふ」
楽しい。でもほんと、そこは未練かも。すげー入れてみたい形だったし。できれば、ちゃんとしたベッドで、ちゃんとじっくりお互い楽しんで。もう無理だけどさ。
「あの! あなたが嫌とかじゃないですか、ら」
「いいよ。気にしないで。でもまあ、普通……前日口で出しといて」
「あー! すみません!」
「あれはないよねーって」
「うう………」
「だから、童貞捨てたくなったら言って。いつでもいいよ」
「………」
顔真っ赤。いじめ甲斐ある。
「寝よ」
「あ、の」
「ほら。体冷える前に布団入ろう」
「………」
「おいで」
先に布団に入って隣を叩く。猫でも呼んでるみたいに。楽しい。おいで、童貞くん。
「あの」
彼はもじもじして一向にこちらに来ません。
「はーやーく! 寒いんだって」
「お、俺、嫌いじゃありません……」
「わかったから! ほら!」
やっと歩いてきた童貞くんは、昨日の夜と違って、僕の方を向いて布団に入りました。
「お。学習した?」
「………」
毛布が増えたから、今日は多少はみ出るところがあっても昨日より暖かい。抱きつくと彼は意外にも僕を抱きしめ返してくれました。少し慣れたのかな。
眠ろう。もう、今日あったことは全部忘れてしまおう。
「凄いね。料理できるんだ」
「いや、適当に入れてるだけです。口に合うなら良かった」
よくわからない。童貞くんの距離感が。
「ごめん。さっきは」
「あ。あー。」
「なんかよくわかんなくて」
「あー。はい」
どうしたらいいのか。
「毛布とか。持ってっていいから。食べ物も」
「え。と。あの」
「やらなくていいんなら、僕に付き合うことない。昼間みたいなのは、平常時だってよくあったし。好きな時に好きなとこ行きなよ」
「………」
「なんか聞きたいことあるんなら、教えてあげる。この辺の地理とか……って言っても何もなくなっちゃったけど」
「あの、じゃ、じゃあ教えてほしいんですけど」
「うん」
「な、なんで、その、その、せ、せっ……せっ………を、しないといけないみたいに、思ってるんですか」
「それ聞く?」
なんでだろう。
「なんでだろうな。自信があるから?」
「じ、じしん」
「うん。これだけはさ。需要があるから」
「あの、これは興味本意なんですけど、ど、さ、最初からなんですか?」
「何が」
「男のひと、と、そういう」
「男とセックスしたいと思ってたかってこと?」
「え、ま、そう」
「そんなの思ったこともないよ」
自然にまた笑えてきた。思ったこともなかった。ただぼんやりと、大人になったら女の子とセックスするんだろうなと思っていた。セックスに興味はあったけど、好きな子はいなかった。男にも女にも。
「中学生のとき……の、担任が、よく僕だけ居残りさせたんだよね。僕のこと学級委員に指名してさ。で、触られて。男の担任」
最初は、肩とか。当たり障りのないところ。
次に足とか。髪とか。
なんで嫌がらなかったんだろうなあ。
「秘密だよ、って言われると言えなくて。なんか、変なとこ触ってくるようになっても、ほら、そこまでの積み重ねができちゃってるから、なんか抵抗できないんだよね。んで」
──こんなことをするのは、先生がお前を好きだからだぞ。大好きだからだ。
──サヨリ、お前だけ特別だ。いい子だな。
「んで。んで、クラス変わっても、こっそり会ってやってて。特別、特別って。ケツで感じるようになっちゃってさ」
高校になってからも続くのかと思ってた。別に県外の高校に行くわけでもなかったから。でも卒業したら、全然連絡が来なくなった。そして……
「なんかさ、ケツに違和感あったんだけど、できものでもできたのかと思ってほうっておいたんだよね。そしたら治ったから、良かったって思ってたら、今度凄い真っ赤な斑点みたいなのが手のひらにできてさ。なんだかわかんなくて、母親に言ったら皮膚科に連れてかれて、んで、梅毒ですって」
母親のその時の顔は忘れられない。何か汚いものを見るような。
「ふふ。僕は先生としかやってないのにさ。先生、僕だけじゃなかったんだあって。薬飲んですぐ治ったんだけど、親とも凄いギクシャクして。んで、僕も頭に来て、先生にメールしたんだ。ひどいよって。そしたら」
笑える。
「ブロックされてて。携帯も着拒。学校に行って待ち伏せしたら、『バラしたら君のこともバレるよ。お互い忘れた方がいい』って」
ほんとに笑える。馬鹿だった。
「………だから………」
「そ、その先生は」
「さあ。まだ、中学の先生をどっかでやってんじゃない。好みの生徒がいたらつまみ食いしてさ………」
ざまあみろ。馬鹿。ころっと騙されるからだ。お前だけが好きだなんて言われて。
こんなことするのはお前だけだなんて言われて。
「好きだったんですか?」
「………わかんない………」
好きとか嫌いとかじゃなかった気がする。でも僕だけが求められてると思ってはいた。特別だと。ざまあみろ。信じたりなんかするからだ。
「な、泣かないで。こんなこと、聞いてごめんなさい」
「泣いてないよ」
誰にも話したことはなかった。親にも、言えなかった。治療してくれたお医者さんからも、相手も罹ってるから、相手が誰なのか教えてって言われたけど。だって何かの間違いだと思ったから。
僕は、ただ汚れただけ。
「……………」
「ど、どうしたら」
「何もしなくていいよ」
童貞くんは童貞らしくこういう時の対処法が全くわからないみたいで、見るからにオロオロしていました。ふふ。ほんと、からかってやりたくなるんだよ。
「……でも、さっきのは傷ついたかな……」
「え! な、俺、なん、俺、しましたか」
「口でしたのに勃たないんだもん。めっちゃプライド傷ついた」
「そ、え? そ」
「やっぱり僕が嫌なんだ……」
「ち、そ、ちが」
「ふふ」
楽しい。でもほんと、そこは未練かも。すげー入れてみたい形だったし。できれば、ちゃんとしたベッドで、ちゃんとじっくりお互い楽しんで。もう無理だけどさ。
「あの! あなたが嫌とかじゃないですか、ら」
「いいよ。気にしないで。でもまあ、普通……前日口で出しといて」
「あー! すみません!」
「あれはないよねーって」
「うう………」
「だから、童貞捨てたくなったら言って。いつでもいいよ」
「………」
顔真っ赤。いじめ甲斐ある。
「寝よ」
「あ、の」
「ほら。体冷える前に布団入ろう」
「………」
「おいで」
先に布団に入って隣を叩く。猫でも呼んでるみたいに。楽しい。おいで、童貞くん。
「あの」
彼はもじもじして一向にこちらに来ません。
「はーやーく! 寒いんだって」
「お、俺、嫌いじゃありません……」
「わかったから! ほら!」
やっと歩いてきた童貞くんは、昨日の夜と違って、僕の方を向いて布団に入りました。
「お。学習した?」
「………」
毛布が増えたから、今日は多少はみ出るところがあっても昨日より暖かい。抱きつくと彼は意外にも僕を抱きしめ返してくれました。少し慣れたのかな。
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