上 下
34 / 37

第34話 第4階層 ダンジョンのボス その5

しおりを挟む

「ホノカさん、ボクに任せて! ボクが魔法を使うよ。魔法であの大蛇をやっつける! いくよ、バロンくん! ランダム魔法!!」

 ヨウスケのマジックポイントが0になる。
 杖の上に文字が浮かび上がる。

『魔法:ホーリー・フロッグ』
『発動条件:パーティからランダムに対象者が選ばれる。その対象者の最近のプライベートが再現される』

「また同じ発動条件だ! いくよ、みんな!! 2年B組 飯田 陽介、誰かのプライベートを暴露します!!」

 ヨウスケは叫ぶ。

 床に魔法陣が浮かび上がる。
 そこからレンタロウが現れる。
 左目に黒い眼帯。
 右手は包帯に包まれている。

「遂にやったでゴザル! 人類史上に残る名著! 三連休を全て費やして書いた甲斐があったでゴザル!」

 再現されたレンタロウは一冊のノートを高々と掲げる。
 その表紙は黒く塗りつぶされ、『暗黒日記 第39巻』と記されている。

「えぇっ!? 暗黒日記って中学校時代に書いてたやつだよねっ? 高校2年生にもなって書き続けているの? しかも三連休全部使ったの!?」

 ヨウスケはレンタロウに顔を向ける。

「せ、せせせ拙者、身に覚えがないでゴザルな~、ピュピュ~♪」

 レンタロウは顔を真っ赤にして口笛を吹く。
 唇がプルプル震えている。

 再現されたレンタロウは暗黒日誌を開く。
 大きな声で朗読する。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 11月2日 今日の出来事

 今日は隣の席の女子・ゆいな殿と久しぶりに話したでゴザル。
 ゆいな殿が落とした消しゴムを拾ってあげたでゴザルよ。
 ゆいな殿はその消しゴムを机の上において、嬉しそうにずっと眺めていたでゴザル。

 あぁっ! 本当はもっといっぱい、ゆいな殿と話したいでゴザル!
 しかし! ダークシャドウ・ジュニアの魔術で女子たちは拙者と話さないようマインドコントロールされているでゴザル……。

 でも、もしこのマインドコントロールが解けてしまったら……拙者の奪い合いがクラスの女子内で勃発してしまうでゴザル。
 拙者がずっと守ってきた平和が拙者の魅力によって崩れる。
 そんな皮肉には耐えられないでゴザルよっ!!

 すまぬ、ゆいな殿!!
 せめてもの償いとして、ゆいな殿にこの歌を捧げよう!
 二人が出会った奇跡。
 そのきっかけになった消しゴムについてでゴザル!


 モ~ノ、モノモノ~消しゴムさん~
 二人のキッカケ、キューピット~
 いつもゴシゴシこすられる~
 ハァハァ、
 ハァハァ、
 拙者もゆいな殿にゴシられたい~
 ゆいな殿の嫌な過去も
 拙者がゴシゴシ消すでゴザ~ル~


 ◇◆◇◆◇◆◇


 再現されたレンタロウは静かに『暗黒日記 第39巻』を閉じる。
 煙となって消えていった。

「えっ……うわぁ……それ、この前の三連休で書いたんだよね……えぇ~~~」

 ヨウスケは青ざめる。

「こ……こんなのでっちあげでゴザル! こんなこと拙者が書くわけないでゴザろうっ!!」

 涙目になるレンタロウ。

「あんたが原因だったのね! この前、ゆいなが席替えしたいって学級委員長の私に突然言ってきたのよっ!!」

 レナはレンタロウを睨みつける。

「言いがかりでゴザル! 席替えしたい理由が拙者だって証拠はあるでゴザルか!?」

「『私の消しゴムを性的な目で見てくる気持ち悪いひとがいる』って言ってたのよ!! そんな人間いるはずないと思ってたけど……さっきの歌で確信したわ! あんたのことでしょうっ!!」

 レナはレンタロウを指さす。

「レナ殿、落ち着くでゴザル! 拙者が拾ってあげた消しゴムを、ゆいな殿は嬉しそうに見つめておったでゴザルぞ!!」

 言い返すレンタロウ。

「それは誤解よ。レンタロウくんが下校したあと、ゆいなさんはゴム手袋を三重にして爆弾処理班のような慎重さであの消しゴムを処理したわ」

 リンは説明する。

「そんなっ! 誤解でゴザル!! きっと、拙者が触ったままの状態で消しゴムを保存したかったでゴザルよ!」

「いいえ。あなたが触ったあの消しゴムをゴミ袋で三重に包んで魔よけのお札を張っていたわ。ドラム缶に突っ込んでコンクリートで固めてから東京湾に沈めるって言ってたわよ」

 リンは首を横に振る。

「怖いでゴザルよっ! ゆいな殿は一体何者でゴザルか!?」

「漁師の親戚にお願いするって言ってたわよ。机の上に消しゴムをずっと置いていたのも、レンタロウ菌が拡散しないようにしていたみたいね」

「レンタロウ菌!? そんな菌ないでゴザルよっ!!」

「近づかないでくれないかしら? 私までレンタロウ菌に感染してしまうわ」

 リンは古書で体を隠す。

「発動条件クリアだぜぇ! 消しゴムに欲情するとは変態の中の変態! いくぜ、ホーリー・フロッグ!!」

 バロンが叫ぶ。

 地面に魔法陣が現れる。
 そこから光り輝く一匹のカエルが現れた。

「えぇっ! 弱そうなんですけどっ!?」

 レナはカエルを見つめる。
 カエルは手のひらサイズしかない。
 ピョンピョン飛び跳ねてデュラハンに近づく。

「安心してくれい、レナのねえさん! こいつの真価は強さじゃないぜ!!」

 自信たっぷりなバロン。

「ケロッ、ケロケロー」

 カエルはデュラハンの前で立ち止まる。
 呑気な声で鳴く。

「んっ? どうした、我が眷属よ?」

 デュラハンは大蛇に声を掛ける。
 大蛇は首を持ち上げてカエルをじぃっと見つめる。
 舌をチロチロ出し入れする。
 口から大量のヨダレが滴り落ちる。

「シャァーーー!!」

 大蛇はカエルに飛びつく。

 カエルはジャンプして大蛇から逃れる。

「待てっ、我が眷属よっ!! この俺を守るのだ!」

 デュラハンは怒鳴る。
 大蛇にデュラハンの声は届かない。
 カエルに夢中になっている。

 カエルはピョンピョン飛び跳ねてデュラハンから遠ざかる。
 カエルを追う大蛇。

「戻ってこい!! 我がけんぞくぅぅうううー!!」

 デュラハンの叫びがむなしく広場に響く。

 大蛇はカエルを追ってどこか彼方に消えて行った。

「これでお前に攻撃が当たる! 覚悟しろ、デュラハン!!」

 ハヤトは信頼の剣をデュラハンに向ける。

「フンッ、だからどうした! 俺は強い! 貴様らはもう魔法が使えない。もう奇跡は起こらんぞ!!」

 デュラハンは大剣を構える。

「デュラハンの言う通りよ。私とヨウスケくんはもう魔法が使えない。私たちにできるのは、捨て身覚悟でデュラハンのライフを少しでも削ること」

 リンは信頼の剣を持って前に出る。

「リン、その剣! 少し光ってるぞ!!」

 ハヤトはリンが手にしている信頼の剣を見つめる。

「ええ、佐々木小次郎への信頼がまだ少し残ってるのよ。さっきの消しゴム欲情事件のせいでだいぶ暗くなってしまったけれど……。ただのなまくらになる前に、私とレンタロウくんで少しでもデュラハンのライフを削るわ」

「作戦バッチリでゴザル!」

 レンタロウとリンはデュラハンの前に立つ。

「雑魚は引っ込んでいろ!!」

 デュラハンはレンタロウの頭に大剣を振り下ろす。

「かかったでゴザル! スキル・真剣白刃取しんけんしらはどり!!」

 レンタロウは両手を合わせてデュラハンの大剣を受け止める。

「なっ! 抜けないっ!?」

 デュラハンは大剣をレンタロウの両手から抜こうとする。

「隙ありっ!」

 リンはレンタロウの後ろから飛びだす。
 信頼の剣をデュラハンの胸に突き刺す。

 デュラハンのライフが25になる。

「ちっ、小賢しいまねをっ!!」

 デュラハンは大剣を離し、リンの腹を拳で殴る。

「うっ……」

 リンは後ろに吹き飛ばされて家の屋根に激突する。
 ライフが0になり、煙となって消える。

「いつまで俺の剣を握っているのだ!!」

 デュラハンはレンタロウの頭にげんこつを食らわせる。

「あいたっ! 伊達 政宗だて まさむね!!」

 レンタロウのライフが0になり、煙となって消える。

「これでもくらいなさいっ!!」

 レナは信頼の剣でデュラハンに斬りかかる。
 デュラハンは後ろに跳んでレナの攻撃を避ける。

「俺に剣術で勝てるわけないだろう!」

 デュラハンはレナめがけて大剣を振り下ろす。
 レナは信頼の剣を手から放す。
 両手を使って深紅の盾でデュラハンの大剣を受け止める。

「あぁっ!! すっ……すごいっ!! こんな刺激……味わったこと……ないわ……」

 レナは恍惚とした表情で空を見上げる。
 ライフが0になる。
 レナは満足そうに煙となって消えていく。

「この娘はなんで嬉しそうなんだ……」

 デュラハンの意識が戦闘から離れる。

「えいっ!」

 レナの後ろにいたヨウスケが飛びだす。
 信頼の剣をデュラハンの脛に突き刺す。
 デュラハンのライフが20になる。

「ちっ、雑魚が……邪魔だぁ!!」

 デュラハンはヨウスケを蹴飛ばす。

「うわーーー!!」

 ヨウスケはサッカーボールのように吹き飛ぶ。
 家の煙突に激突する。
 ライフが0になり煙となる。

「これで貴様ら二人だけだ。俺をここまで追い詰めたことは誉めてやろう! だがっ! 貴様らに勝機はない。フフフ……奥の手は最後までとっておくものだぞ」

 デュラハンは腰に付けた革袋から小さな瓶を取りだした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。 社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。 ‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!? ―― 作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。 コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。 小説家になろう様でも掲載しています。 一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

アラフォーパパはアキレス腱を切って、なぜか異世界に飛ばされました

oufa
ファンタジー
「おれは誰かに必要とされているのだろうか?」 誰しもが抱えそうな会社や家庭での疑問。そんな毎日を送る主人公の柏木(アラフィフ)はある日、アキレス腱を切ってしまいなぜか異世界へと転生してしまう。しかも絶賛反抗期真っ最中の娘と共に……。

処理中です...