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第七話 アルカナの村
しおりを挟む何かがおかしい……。
オリバはアルカナの村に違和感を覚える。
この村は一年中暖かいと聞いていた。
だが、真冬並みの寒さだ。
オリバはタンクトップ、短パンだが、筋肉の発熱のおかけで寒くない。
村人はボロボロの服を着てうつろな目をしている。
この村でしか栽培できない薬草のおかげでアルカナの村人は裕福なハズだ。
「すみません。ちょっといいですか?」
オリバは痩せこけた中年男性に話かけた。
「うわぁっ! な、なんですか、あんたは……。こ、この村にお金なんてもうありませんよ!」
ムキムキのよそ者(タンクトップ、短パン)に話しかけられ警戒しているようだ。
まずは心を開いてもらい、それから神器について聞いてみよう。
「いや~、この村は寒いですね。暖かいプロテインでも飲んで一息いれましょう」
オリバは革袋からプロテイン粉末とお湯の入った水筒を取り出す。
プロテインのお湯割りを村人に手渡した。
このプロテインはスキル『無限プロテイン』でラベンダーから作ったものだ。
ラベンダーの香りが心を落ちつかせる。
「ほはぁ~、美味しい。ありがとうございます。体が温まり、なんだかリラックスできました」
死んだ魚のような村人の目が輝きだした。
ラベンダープロテインは効果抜群なのだ。
「この村は一年中暖かいと聞いてましたが寒くて驚きました。一体何が起こったんですか?」
オリバは村人に尋ねる。
「この寒さの中、タンクトップ、短パンのあなたに私は驚きましたよ」
村人はこの村に起こった悲劇を語り始めた。
「数年前に北の森に『氷の女王』が現れました。彼女が森を凍らせたせいで、この村は真冬のように寒くなりました。この村にしか育たない薬草も栽培できなくなり、私たちは貧困に苦しんでいます……」
「大変ですね……。氷の女王を倒すために冒険者を派遣しないんですか?」
「ギルドに何度も依頼しました。今まで十組のパーティーが討伐に行きましたが、誰ひとり帰還してません……。もう、この村を捨てるしかないとみんな言っております……」
この村を救ってあげたい。
俺は英雄オーディンに勝った。
多分、人類最強のボディビルダーだ。
……でも、物事には優先順位がある。
筋肥大が最優先!
……いやちがう、大魔王討伐のために神器を集めることが最優先だ。
「俺は国王のご命令により神器を集めています。この村に神器があるとお告げをうけました。なにか心当たりありませんか?」
「ああ、それでしたら心当たりあります。この村に伝わる秘宝です。村長が保管していますよ。美味しい飲み物のお礼に村長のところまで案内しますよ」
村人はそう言い、村長の家に案内してくれた。
◇◆◇◆◇◆◇
「村長! この者が国王のご命令により冒険しているオリバさんです。村の秘宝について聞きたいそうです」
村人が村長に俺を紹介してくれる。
村長は痩せこけ、目の下に深いクマのある老人だった。
でも、その目はまだ死んでいない。
この村をまだ諦めていない闘志が潜んでいる。
「アルカナの村へようこそ、オリバ殿。ここへ来た目的をお聞かせくだされ」
村長の声は低くかすれていた。
俺はここに来るまでの経緯を話した。
オーディンとの決闘や大魔王討伐を命じられたこと、神託の地図がこの村を示したことだ。
最初は疑っていた村長だが、王家のメダルを見せたら、信じてくれた。
俺の説明が終わると村長はこう言った。
「話はわかりました。大魔王討伐のためならば、喜んで我が村の秘宝をお貸ししましょう」
やった! 話が速い!
「ただし、ひとつだけ条件がございます。どうか、氷の女王を退治してくだされ! 私たちはもう限界です。オリバ殿が大魔王を倒す頃には私たちの村は崩壊しておるでしょう。どうか、お力をお貸しください!!」
村長は深々と頭を下げた。
時間は無駄にできない。
でもこの村を放っておくこともできない。
そんなことは筋肉が許さないのだ。
「わかりました。このオリバ・ラインハルト、氷の女王を倒します!」
オリバは体を横に向け、顔だけ村長のほうを向いた。
両手を腹の前で組み、思いっきり胸筋に力を入れる。
胸筋が収縮し、硬く、高く盛り上がる。
ボディビルの規定ポーズ『サイドチェスト』だ。
体を横に向けることで胸の厚みをアピールできる。
「おぉ……なんと分厚く逞しい胸筋! その胸筋に我が村の運命を託しますぞっ!」
村長は感嘆の声をもらす。
「今から氷の女王を倒してきます!」
オリバはもう一度、胸筋に力を入れた。
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