【完】BLゲームに転生したオレは鬼畜王子から逃げだしたい

たれぽんた

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IF・・・もしも〇〇が〇〇だったら

もしも殿下が転生者だったら

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    「あれ、クラウス、だったよね?」
数日続いた高熱が下がった僕は、夢うつつの中で見た天使のようにキレイな人のことを思い出した。
「あの顔、攻略対象のクラウスだ・・・」
しまった。思わず口に出しちゃったよ。僕は周りを見回した。よし、誰も居ないな。
「もしかしなくても僕、ゲームの世界に転生しちゃった?」
 高熱が出たから?転生物によくあるパターンで、僕は腐男子だった前世を思い出したのだ!
    前世の僕がお気に入りだった18禁BLゲーム、鬼畜シリーズ。その中でも特に大好きだった『第3王子は薔薇の鳥籠に最愛を囲う』。略してバラ籠。クラウスはバラ籠の攻略対象だったのだ!
「スチルのクラウスが3次元にっ!それも若いクラウス!なんのご褒美?目が潰れる!もう、マジ天使!!」
自分を抱きしめて悶えた。あー、つい煩悩が口から漏れちゃうよー。
    僕は鏡を見た。スチルではヤンデレ全開の色気がしたたってる顔だったコンラート。ショタでもすでに神がかってる顔面だわー。さすが主役!この顔ならクラウスと並んで遜色無しっ!
「思い出せるだけシナリオ書いとこ。日本語で書けば誰にも読めないし~」
僕はいそいそとノートと羽根ペンを準備した。
「ゲームのスタートは僕が18才からだったね。そしてー」
せっかく思い出したんだから、クラウスが隣国に留学するのをやめさせちゃう?
    そしたら早くモノに出来ちゃうかも?
「グヘヘ。あ、ヨダレが・・・」
僕はハンカチを取り出して上品に口許を拭った。
「薔薇の庭園を造らなきゃいけないね。クラウスには何色の薔薇がいいかな?ふふっ。あー、滾るー!」












    配下の者の報告を聞き終えたエレオノーラは厳しく顔を引き締めた。
「分かりました。下がりなさい」
一礼して退出する配下の者を見送り、エレオノーラは小さく小さく嘆息した。

    よもや坊っちゃまが・・・

眉間を揉んで立ち上がったエレオノーラは窓の外を見た。
    薔薇園を造ると意気込んでいるコンラートが庭師と相談している姿が見える。コンラートの笑顔が以前と違って見えるのは、エレオノーラの勘違いではないだろう。エレオノーラはもう一度嘆息して、陛下に謁見すべくコンラートに背を向けた。




    エレオノーラの一門には、現王家が続く限り守るべき使命がある。それは5代前の陛下からのもの。
    曰く、『転生者を見張れ』だ。そして『必要とあれば排除せよ』、『どのような手段を取ろうとも許可する』、である。
    それは5代前の王妃陛下が、前世の記憶を持つ〈テンセイシャ〉だったからだと聞いている。
    〈テンセイシャ〉は大まかに3つのタイプに別れるそうだ。1つ目が前世を覚えていることを隠してひっそりと生きる者。2つ目が記憶を使い、我が国に利する行動をとる者、もしくは私服を肥す者。そして排除対象になるのが3つ目。それはある言動によって判断される。
    曰く、〈テンセイ〉〈オトメゲーム〉〈コウリャクタイショウ〉〈イベント〉〈フラグ〉などのキィワードを口にすること。そして〈ヒラガナ〉〈カタカナ〉の混ざった暗号文を書くこと。この暗号は〈ゴジュウオンヒョウ〉という名の秘密文書として、くだんの王妃陛下によって残されている。コンラートはこの両方に当てはまったのだ・・・



    エレオノーラは手の者をまとめる一門のおさとして背筋を伸ばした。人払いされた国王陛下の私室。エレオノーラの報告を、国王と王妃は鎮痛な表情で聞き終えた。
「よもや、コンラートが転生者だったとは・・・」
王妃が顔を背けた。そんな王妃を見遣り、国王は一国の王としての顔をエレオノーラに向けた。
「コンラートが王子であっても、いや、王子だからこそせねばなるまい」
極限まで感情を削ぎ落とした国王の声に、エレオノーラは悲痛な思いを汲み取った。
「出来うる限り、殿下にはご不自由の無いようにさせていただきたいと考えます」
「よろしく頼みます」
王妃の、母の願いを、エレオノーラは深く腰を折ることでだくの気持ちを表した。





    そんなイベントあったっけ?ゲームのスタートは18才からだから、出てこない10才からの8年の間に行ってたのかなぁ?僕は唸った。
    僕、3年も南の皇国に留学するんだって。南の皇国って馬車で1か月もかかるほど遠いんだよ?そんなとこに行ったらクラウスに会えないじゃないかー!
    でも、行かなくてゲーム通りに進まなかったらやだしな・・・
    僕は馬車の外に立つクラウスを見た。
「殿下、お勉強頑張ってくださいね」
何その満面の笑顔!うぅっ!眩しくて見えない!やっぱり天使!その笑顔で3年間を乗り切ってくるよっ!ついでにスーハーしとこっと。あ~いい匂い~。
「ああ、行ってくる」
ちょっとカッコつけた言い方しちゃった。(〃ω〃)テヘヘ。クラウスの天使の微笑みを堪能してからエレオノーラに目を向けた。
「息災でな」
またカッコつけちゃった。クラウス、僕のことカッコいいって思ってくれたかな(*´д`*)ドキドキ。
「殿下の1日もお早いお帰りをお待ちしております」
キレイなおじぎを決めたエレオノーラだけど、なんか目が潤んでる!?そーだよねー。こんなに長く離れるの、初めてだもん。エレオノーラのためにもしっかり勉強しなくちゃね。

    そして帰ってきたら・・・

    クラウスを・・・

    あーダメだー。顔が、顔が緩んじゃうー。

    よし!飛び級できるくらい勉学に励むぞー!

    みんなー!待っててねー!




    コンラートの馬車が見えなくなるまで見送ったクラウスは、困惑を隠せない顔でエレオノーラを見た。
「あの、殿下と面識の無い私がお見送りさせていただいたのは何故なのでしょうか」
そっと目薬をポケットにしまったエレオノーラは慈愛の微笑みを浮かべた。
「お気になさらずに」
その微笑みに何かを感じたクラウスは、曖昧に笑ってそそくさと去って行った。触らぬ神に祟りなし。そう心の中で思いながら。




    南の皇国の第12皇女とコンラートの婚約が発表されたのは、それから2年後のことだった。


    「どうして~~~~!?」
コンラートの叫びに応える者は、いない。
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みんなの感想(39件)

アーニャ
2023.09.09 アーニャ

イッキ読みさせて頂きましたーっ!!
なに、この贅沢ぅぅぅぅっ" ( ´,,•ω•,,`)♡
ズンズン進んで行くかと思いきや、途中のなんたる切ないことか(´இωஇ`)
私『切ない』大好きなのですが、まさかここでこんなに切ないが来るなんて!
もうヤバかったです!!
閣下、しっかりせぇよ、なに帰してんじゃヾ( -`д´- な。
でも齢10歳で初恋の人を手に入れる為に仕事を成功させるあたり、溺愛系スパダリの愛に打たれ弱い王太子かのっ
いや、まだ『愛が何たるか』を知らなかったんだね。
乳母(ゴッドマザー)さま、凄いです。平伏致しまする。
そしてラストの超ハッピーエンド(⸝⸝‎ᐡɞ̴̶̷ ·̮ ɞ̴̶̷ᐡ⸝⸝)
本当に素晴らしい物語でした。
久しぶりに贅沢を味あわせて頂きました。
これからもどうぞよろしくお願い申し上げます
(✿ᐡ ̳ᴗ ̫ ᴗ ̳ᐡ)

2023.09.12 たれぽんた

ありがとうございます
ありがとうございます
大事なことなので2度言いました
うひゃー
そんなに喜んでいただいて、作者は狂喜乱舞です!
そう、殿下はヘタレなのでエレオノーラさんに尻を叩かれないとダメなんですよ〜
クラウスはクラウスで斜め上にいっちゃうし笑
どうにか落ち着いてくれてホッとしました〜
アーニャさんの中で2人を可愛がっていただけると幸いです

解除
めい
2023.04.11 めい

ほののンとして、可愛くて読んでてとても幸せな気分になりました。デートの話で、間接キスが関節キスになっていてちょっとほっこりしました。

2023.04.11 たれぽんた

ほののンとしていただいて嬉しいです
どんどん幸せになってください(*^^*)
そして、うひゃー!誤字!
気を付けてるのですが、ご連絡ありがとうございます!
早速、直しておきます。
また何かありましたらぜひ教えてくださいませね。

解除
しまん
2022.05.23 しまん

面白かったです!
寿命延びました^ ^

2023.04.11 たれぽんた

返信が大変遅くなり申し訳ございませんm(_ _)m
寿命、延びました?
ぜひ長生きしてこれからもご愛顧よろしくお願いします
(ノ≧ڡ≦)☆

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