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きゅうじゅうよん

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    アルフォンスのお泊りセットやアルフォンスのあれとかあれとかあれとかを納戸に隠した。食器類が二組しか無いことに気づかれると面倒だからもう二組買った。
    コーヒー豆はミルに入れた。挽きたてが風味がいいから、『殿下』が来てから挽こう。ヤカンはコンロに乗せた。挽いてる間に沸かせばいいな。
    オレは準備万端整えて白衣を羽織った。首に聴診器もかける。額帯鏡がくたいきょうもつけるか?湯気でくもるからやめとこ。あぁ、動悸がヤバい。
    貧血起こしそうになった頃、閣下がやって来た。ドアを開けて迎えると、皮肉げに笑ってた口許が緩んだ。白衣は意表を突けたようだ。
「豆を挽きます。おかけになってお待ちください」
椅子を引いて着席を促す。座ってくれた。ヨシ!第一関門突破!

    オレは閣下の向かいに座り豆を挽き始めた。閣下はこれといった表情は見せずにオレの手許を見ている。オレはお手製のネルドリップを手に持ち、挽いた豆を入れた。立ち上がり、ゆっくりと何回かに分けて湯を注ぐ。とぷとぷとネルから染み出してくるコーヒーを見て閣下が口を開いた。
「そのれ方はなんだ?」
閣下の知っている珈琲は紙ですもの。オレはあえて布のネルを使って濾して見せている。オレはしっかりと閣下の視線を捉えた。外の護衛さんに聞こえないよう、少しだけ声のボリュームを下げる。
「これは、私がで好んでいたコーヒーの淹れ方です」
『殿下』は一瞬、虚をつかれた顔をしたけど、すぐに嘲笑を浮かべた。
「ずいぶん、面白いことを言うな」
抽出したコーヒーを注ぎ分けて『殿下』に差し出した。
「飲んでみていただけますか?まずは砂糖、ミルク無しで」
ネルドリップは味がまろやかになる。オレは『殿下』より先に口を付けて見せた。やっぱりネルドリップ美味いわー。それを見て『殿下』も飲んでみてる。ウエッて顔になった。
「では、いつもと砂糖とミルクをどうぞ」
オレの思惑が分からないで言われるままに動くのが不本意って顔に書いてある。でもお願いします!『殿下』は普段通りにして飲んだ。ん?って顔。もう一口飲んだ。オレを見る。おお、違いのわかる男。
「何をした?」
「違うことと言いますと、これで濾した。それだけです」
『殿下』に見えるようにネルドリップを持ち上げた。
「なぜこの方法を知っているか、でしょうか?」
言葉を切る。また少し声のボリュームを下げた。
「先程申し上げましたが、の記憶です」
「そんな戯れ言ざれごとを信じるとでも?」
「それはコンラート様次第です。この布の作り方や使い方はこれに書いてあります。お仕事にお役立てください」
用紙を閣下の前に置く。閣下は最高経営責任者CEOとしてそれを受け取った。


    「お前の前世とやらの話し、聞かせてもらおうか」
2杯目を濾している最中、『殿下』が口を開いた。異世界なんて言えば戯れ言の烙印をされるのは目に見えてる。ゲームの話しはNG。
「どこの国なのか分かりません。ですが、近隣の国には無い習慣や食物の記憶があります」
オレはコーヒーカップを『殿下』の前に置いた。
「以前にコンラート様が、アルフォンスと私が短期間で親しくなったことを疑問に思ってらっしゃいましたが、それは彼が私と似通った前世の記憶を持っていることが分かったからです」
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