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(21)ブドウを収穫しましょうか
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ルカさんが帰ってきてから2日後の早朝、私たちはワインを造るためのブドウの選定と収穫を行っていました。
「うん。いい感じですね」
ファルコ家で育てているブドウは主に2種類です。
1つ目は、以前私がアミちゃんに食べさせてもらった生食用のブドウです。大きめな果肉で、噛むと口いっぱいに広がる新鮮な甘さと酸味いうのは生食の醍醐味です。こちらは既に収穫して販売も終了しています。
「イラリアさん。そういえば既に出荷したブドウなのですが、あれでワインを造るというのは駄目なんですか?」
ブドウとにらめっこしたまま、ルカさんがそのように問いかけました。私もまたブドウに熱い視線を送ったままお答えします。
「そうですね。絶対にダメという事は無いのですがワインを呑み慣れている方には毛嫌いされる傾向にあります。あれは遠い国とこの国のブドウとを交配させた品種ですが、妙に甘い香りがするのでその香りがワインとなった時に不快に感じる方が多いのです。化学的な香りと申しますか」
「化学的な香り…それは確かに人を選びますね」
そして2つ目は、現在私たちが選定して収穫している赤ブドウです。これはワイン用にと育成されたものです。
果皮は赤というより青っぽい色合いをしています。果肉は小ぶりですが凝縮した甘さを有しています。この糖分を酵母が分解することで、アルコールと二酸化炭素が発生するのです。つまり、一定以上のアルコール度数を有するためにはブドウ自体の甘さが必要となります。まあ、例外もありますが。
ブドウに傷がついていないか、熟成具合はどうか等を一つずつ調べて手作業で回収していきます。この作業は、大変時間を取られるものです。回収用の箱が一杯になるたびに私たちは、それを醸造所へと運んでいきます。
「イラリアさん。そろそろ休憩して下さい」
ハアハア。
数時間の肉体労働は流石に堪えるものがあります。私の息遣いが荒くなったことに気が付いたルカさんは、そのように提案してくれました。
「あはは、すいません。私ったら」
「いえ、もっと早く気が付くべきでした。あの椅子に座って休んでいてください」
そう言うとルカさんはお家の中へと入っていきましたが、10分ほどすると片手に飲み物を持って戻ってきました。
「これを飲んで下さい。レモネードです」
輪切りにされたレモンと、棒状のシナモンが添えられており、ガラス製のグラスから見える中身は薄く黄色がかっていて非常に綺麗なものでした。
「ありがとう御座います」
それを受け取り一口飲みます。蜂蜜の甘さの中にピリッとした刺激。これは何でしょうか?覚えはあるのですが…うーん名前が出てきません。
「クローブですよ」
「あ、そうです!」
私の心情を読んだかのように答えを教えてくれたルカさん。
「こんな風にアクセントを加えても面白いですよね。城下町で売られていたものを使用しました」
「ええ、不思議な味わいですがとても美味しいです!」
「疲れた時にはやはりレモンかなと思いまして。そして、スパイスには色々な不調を正常にする効果もありますから」
「不調ですか?」
「イラリアさん、昨日も殆ど寝ていませんよね。遅くまで部屋から光が漏れていましたから。お願いですから休んでくださいね。貴女が倒れたりでもしたらそれこそ本末転倒ですから」
「…はい。ちゃんと休みます」
「どんどん指示を出してください。僕に出来ることは全部やらせて欲しいんです」
私はコクリと頷きました。
けど、ルカさん気が付いていますか?私が深夜まで起きていることを知っているという事は、貴方も休んでいないという事なんですよ。そのうえ私よりも早く起きているのですから。
でも、それを伝えても笑顔で『大丈夫ですよ』と貴方は言うのでしょうね。だから私はそれを云いません。代わりに絶対に勝てるようなプランを更に練り上げて見せます。
絶対に成功させてみせますから。
その後も作業を続けて、本日分の仕事を終わらせることが出来ました。
夕ご飯時になり、ルカさんはエルモさんから購入した鶏のもも肉を使っていつも様にお料理をしてくれました。
「お兄ちゃん。このお肉不思議な香りがするね!」
「そうだろ。色んなスパイスを下味に使っているからね。辛くなかったか?」
「美味しいよ」
豪快に鶏のお肉を頬張るアミちゃん。つられて私もお肉を頂きます。
「美味しいです!」
これだけ複雑なスパイスを組み合わせる事が出来るのは、ルカさんの嗅覚があってこそですね。甘さや辛さだけではなく爽やかな香りも鼻孔をくすぐりました。余りの情報量の多さに、お鼻がヒクヒクとしてしまいます。
「それは良かった。沢山食べて下さいね」
そして3人で楽しい時間を過ごしました。アミちゃんはお父さんに会えたことがとても嬉しかったようで、昨晩に引き続きどんなお話をしたのかを沢山話してくれました。
お腹が一杯になったアミちゃんが寝室へと向かうと、私はコーヒーを淹れルカさんの分と机に並べます。
「それでは、はじめましょうか」
私達は改めて情報の共有を行う事にしました。
ルカさんが、コンクールの会場となる城下町に行ったからこそ知り得た情報を整理するために。
「うん。いい感じですね」
ファルコ家で育てているブドウは主に2種類です。
1つ目は、以前私がアミちゃんに食べさせてもらった生食用のブドウです。大きめな果肉で、噛むと口いっぱいに広がる新鮮な甘さと酸味いうのは生食の醍醐味です。こちらは既に収穫して販売も終了しています。
「イラリアさん。そういえば既に出荷したブドウなのですが、あれでワインを造るというのは駄目なんですか?」
ブドウとにらめっこしたまま、ルカさんがそのように問いかけました。私もまたブドウに熱い視線を送ったままお答えします。
「そうですね。絶対にダメという事は無いのですがワインを呑み慣れている方には毛嫌いされる傾向にあります。あれは遠い国とこの国のブドウとを交配させた品種ですが、妙に甘い香りがするのでその香りがワインとなった時に不快に感じる方が多いのです。化学的な香りと申しますか」
「化学的な香り…それは確かに人を選びますね」
そして2つ目は、現在私たちが選定して収穫している赤ブドウです。これはワイン用にと育成されたものです。
果皮は赤というより青っぽい色合いをしています。果肉は小ぶりですが凝縮した甘さを有しています。この糖分を酵母が分解することで、アルコールと二酸化炭素が発生するのです。つまり、一定以上のアルコール度数を有するためにはブドウ自体の甘さが必要となります。まあ、例外もありますが。
ブドウに傷がついていないか、熟成具合はどうか等を一つずつ調べて手作業で回収していきます。この作業は、大変時間を取られるものです。回収用の箱が一杯になるたびに私たちは、それを醸造所へと運んでいきます。
「イラリアさん。そろそろ休憩して下さい」
ハアハア。
数時間の肉体労働は流石に堪えるものがあります。私の息遣いが荒くなったことに気が付いたルカさんは、そのように提案してくれました。
「あはは、すいません。私ったら」
「いえ、もっと早く気が付くべきでした。あの椅子に座って休んでいてください」
そう言うとルカさんはお家の中へと入っていきましたが、10分ほどすると片手に飲み物を持って戻ってきました。
「これを飲んで下さい。レモネードです」
輪切りにされたレモンと、棒状のシナモンが添えられており、ガラス製のグラスから見える中身は薄く黄色がかっていて非常に綺麗なものでした。
「ありがとう御座います」
それを受け取り一口飲みます。蜂蜜の甘さの中にピリッとした刺激。これは何でしょうか?覚えはあるのですが…うーん名前が出てきません。
「クローブですよ」
「あ、そうです!」
私の心情を読んだかのように答えを教えてくれたルカさん。
「こんな風にアクセントを加えても面白いですよね。城下町で売られていたものを使用しました」
「ええ、不思議な味わいですがとても美味しいです!」
「疲れた時にはやはりレモンかなと思いまして。そして、スパイスには色々な不調を正常にする効果もありますから」
「不調ですか?」
「イラリアさん、昨日も殆ど寝ていませんよね。遅くまで部屋から光が漏れていましたから。お願いですから休んでくださいね。貴女が倒れたりでもしたらそれこそ本末転倒ですから」
「…はい。ちゃんと休みます」
「どんどん指示を出してください。僕に出来ることは全部やらせて欲しいんです」
私はコクリと頷きました。
けど、ルカさん気が付いていますか?私が深夜まで起きていることを知っているという事は、貴方も休んでいないという事なんですよ。そのうえ私よりも早く起きているのですから。
でも、それを伝えても笑顔で『大丈夫ですよ』と貴方は言うのでしょうね。だから私はそれを云いません。代わりに絶対に勝てるようなプランを更に練り上げて見せます。
絶対に成功させてみせますから。
その後も作業を続けて、本日分の仕事を終わらせることが出来ました。
夕ご飯時になり、ルカさんはエルモさんから購入した鶏のもも肉を使っていつも様にお料理をしてくれました。
「お兄ちゃん。このお肉不思議な香りがするね!」
「そうだろ。色んなスパイスを下味に使っているからね。辛くなかったか?」
「美味しいよ」
豪快に鶏のお肉を頬張るアミちゃん。つられて私もお肉を頂きます。
「美味しいです!」
これだけ複雑なスパイスを組み合わせる事が出来るのは、ルカさんの嗅覚があってこそですね。甘さや辛さだけではなく爽やかな香りも鼻孔をくすぐりました。余りの情報量の多さに、お鼻がヒクヒクとしてしまいます。
「それは良かった。沢山食べて下さいね」
そして3人で楽しい時間を過ごしました。アミちゃんはお父さんに会えたことがとても嬉しかったようで、昨晩に引き続きどんなお話をしたのかを沢山話してくれました。
お腹が一杯になったアミちゃんが寝室へと向かうと、私はコーヒーを淹れルカさんの分と机に並べます。
「それでは、はじめましょうか」
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ルカさんが、コンクールの会場となる城下町に行ったからこそ知り得た情報を整理するために。
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