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(番外編)リトルファイト

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皆様、こんにちは。ルカ・ファルコです。

突然ですが本日はひょんなことから、一緒に生活をすることになったイラリアさん。そして、僕の妹であるアミとのちょっとした日常をお送りしたいと思います。

あれは僕が、夕飯の献立を考えている時の事です。

「ルカさん。今日の夕ご飯は何になさるのですか?」
トコトコと足音を立てて、イラリアさんが隣にやってきました。

「うーん、そうですね。有難いことに牛肉とお魚を分けて頂きましたので、どちらかをメインにした皿を作ろうかと考えています。もう片方は明日のメインにしようかと」
「わあ、それは良いですね。どちらも美味しそうです」

イラリアさんは、いつも美味しそうに僕の作る料理を食べてくれるので作り甲斐があります。色々とコメントもくれますしね。何より、ワインとの組み合わせについての話もしてくれるので、参考になります。

以前、知り合いの奥様が『最近、何を作っても旦那が旨いとしか言わない』とぼやいていたのを思い出しました。確かにそれだけだと寂しいかもしれないと、主婦目線の思考が身についてきたことに我ながら複雑な心境です。

ふとイラリアさんを見ると、彼女は少し恥ずかしそうにもじもじとしています。
「どちらも美味しそうですが…私、今日はお魚を食べたい気分です」
「ああ、分かりました。それでは魚を使った料理にしましょうか」

ぱああ、とイラリアさんは、嬉しそうな笑顔を僕に向けます。余りに嬉しそうなので、何だか恥ずかしくなってきますね。

その時です。
「私はお肉が食べたい!」
話を聞いていたのでしょう。アミが、バンッ!とドアを全開にして入室。

「ア、アミちゃん。いつからそこに?」
「そんな事よりお姉ちゃん。アミ、今日はお肉が食べたい」

「え、えっと」
イラリアさんは焦った表情を浮かべています。彼女が何に悩んでいるのか手に取るように分かってしまい、思わず吹き出しそうになりました。
大人としてアミの意見を尊重するか、ご自分の欲求に従うのかを考えているのでしょう。

少し考えたところで、彼女は人差し指をピッと立てました。
「アミちゃん。知っていますか?お魚にはDHAという成分が含まれていまして、これを食べると頭が良くなるんですよ」
あ。己の欲望、もとい食欲に従いアミを懐柔しようとしている。

ですが、妹も負けていません。

「知ってるよ!でも牛肉の赤身にはヘム鉄が豊富に含まれているから、疲れにくいお体になるんだよね?畑でお仕事頑張っているお兄ちゃんの為にも、お肉の方がいいと思うな」
ええ!いつの間にそんな博識になったんだ。これがイラリア先生との個人レッスンの成果なのか?そして、さり気なく僕を巻き込むあたり、やり手だな。

イラリアさんは、ぐぬぬと唸りながら、先ほどよりも複雑な表情をされています。この顔は、論破することは出来るが、でも流石にそれは。という表情ですね。やがて、イラリアさんの表情はいつもの優しい表情へと戻っていきました。

「アミちゃん、よくお勉強していますね。何より、ルカさんへの心配りが百点満点です。完敗です」
アミの頭を優しく撫でるイラリアさん。アミは、くすぐったそうに目を細めています。
まるで、本当の姉妹みたいだな。

「フフッ」
僕は思わず破顔しましました。

「ルカさん?」
「お兄ちゃん?」

「あ、いえ。2人の話を聞いていたら、僕が両方食べたくなってしましました。だから、量を半分ずつにしてお肉とお魚を併せた料理にしても良いですか?」

2人は顔を見合わせると、パンッ、とハイタッチをしています。

さてさて。言ったのはいいですが、これは難しいメニューだな。それでも頭の中で構想を練り上げて、僕は包丁を構えました。


「美味しいれす!」
嬉しそうに頬を膨らませる、イラリアさん。
アミと並ん、喜ぶ2人の顔を見ていたら、それだけでお腹が膨れた気がします。

「まさか、魚介のスープにお肉を投入するとは。お肉は表面がカリッとして、凄く美味しいです」
「はい。お肉はサイコロ上に切って小麦粉をまぶしてから、多めの油で揚げるように炒めました」
実はもうひと手間。お肉にはフォークで穴を空けて、表面には隠し包丁を入れています。

アミも嬉しそうに頬張っています。
「お魚のお団子も美味しいよ!」
「そうか、良かった。そのお団子には、お魚以外にも色んな野菜が入っているんだよ」
魚はミンチにして、細かく切って炒めた香味野菜と合わせて団子状に形成しました。

スープの具材を、ハフハフと食べ進める2人。
「これは明日のご飯も楽しみですね、アミちゃん」

ねー、と笑い合う2人を見て少しプレッシャーがかかります。

この皿も作るの苦労したなぁ。

でも、こんな顔が見れるなら悪くないですかね。


さて、明日はどんな皿を作ろうかな?

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最近、少々シリアスな展開が多くなってきたので、作者の気分転換も兼ねた作品でした。
お読み頂き、ありがとうございました。
今後も、時折番外編を書きたいと思います。
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