トラックメイカー

Luna

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深夜の、充電が切れる知らせとは打って変わり多機能ゴーグルのアラームは冷酷無慈悲な独裁者のように、まるで持ち主の息の根を止めようとするかのように大音量で10時を知らせた。
あの健気さというか、必死さは消え失せ税金滞納者から税金を取り立てる業者特有の余裕があった。
業者のようにどこか妙に嬉しそうだった。
恐らく弱者に対して圧倒的正義を振りかざし、合法的かつ人道的に取り立て出来る行為が彼らの生き甲斐なのだろう。
スリーページはアラームを止めてしばらく呆然としていた。
昨日の出来事がいまだに信じられないのだ。昨日までニートだったのにニートじゃなくなったような気がした。
勿論無職で結婚すらしていないのだが、仕事に就き、結婚をしているような心の満たされを感じた。

気が付くともう1時間が経過していた。
スリーページは重い体を起こし、コーヒーを入れ窓の外から公園の方を眺めた。
ロボットの残骸は今もあの公園に佇んでいるのだろうか? ここからだと確認が出来ないが、恐らく高価であろうあの金属をここの住人が黙って見過ごすはずがない。
確認するまでもなかった。公園を眺め終え、今日も工場地帯を見つめる。スリーページの瞳は何故か少しうるんだ。

スリーページは拳銃と多機能ゴーグルだけ持ってヴァーチータウンへ向かった。
スリーページの住むマッハからヴァーチータウンまでは電磁力電車を使うと2分で行けた。
サニーの住むミー・ナトには駅がなく、電磁力電車は停車しないが、ヴァーチータウンまで歩いて15分くらいだった。
電磁力電車はこの国の者で、過去に犯罪歴のない者なら誰でもタダで利用出来たが、車両の最後尾の人間整理倉庫に詰められることは未成年者の間では既知の事実だった。
ただし持ち主本人のゴーグルを所持し、かつ、個人の番号を持つ者は未成年者でも利用出来た。     

スリーページはゴーグルを所持し、個人番号も取得していたし、二十歳に達していたので人間整理倉庫に詰められる心配はないが、マッハの駅は二十歳未満の人間整理倉庫利用者が非常に多く、スリーページも幼いころ興味本位で一度だけ試しに人間整理倉庫を利用したことがあった。
しかし、それ以来ロッカーや、ハチの巣のような小さくて間と間のスペースが全くない小さい空間がトラウマになった。人と人が常に接触するような人が詰まった密室もトラウマになった。
スリーページはトラウマの影響により二十歳になるまで電磁力電車を利用しなかった。
マッハの駅に来ると幼き日の思い出が鮮明に蘇る。人の熱気、汗の滴り、不気味なにおい、静かになったりうるさくなったりする不規則な人の喋り声、憤怒、殺意。車両の最後尾へ向かう二十歳未満の人間整理倉庫利用者の姿はどこか寂しげだった。
スリーページは電磁力電車に乗り込み、ヴァーチータウンへと向かった。

ヴァーチータウンに着き電磁力電車から降りるとすぐ異臭が脳に突き刺さった。工場のスモッグ、石灰、コークス、粉塵、獣のにおい、汚水の腐臭、非合法の屋台料理屋から来る死臭。スリーページはこの奇怪で不吉なにおいを嗅ぐと、ここが自分の故郷なのだと強く感じた。
猫屋、頭蓋屋、毒草や猛毒動物を専門に扱う毒屋、グレネード除けのつなぎ屋、骨董屋などがホームにひしめき合っては、店員が手を引いて無理やり商品を法外な値段で買わせようとしてくる。全て不気味で暗く冷たかったが、そういう異常な光景を見ていると安心した。
サニーと待ち合わせするときは決まってヴァーチータウンを象徴するさえないモニュメントの前と決まっていた。
ヴァーチータウンを象徴するモニュメントは今日も果てしなく不気味なオーラを放っていた。
サニーはまだ到着していなかった。モニュメントの周辺は個性的な服屋や、武器屋やアトリエがありモニュメントよりも数倍主張が強く、どちらがヴァーチータウンを象徴しているのか甚だ疑問であった。

時刻を確認すると11時50分だった。スリーページはタバコに火をつけた。
「お待たせ」
サニーはスリーページの背中を叩いた。
「今着いたところだ」
「それよりなんで丸腰なの? 正気?」
「うん、昨日身ぐるみ剥ぎ殺しに襲われてね。ゴーグル以外全部使っちゃったんだよ。銃も爆弾も。でも大丈夫。父さんの機関銃を持ってきた」
「本当? それは災難だったわね・・・・・・」
「トゥーキータウンに向かう前に市役所に寄って良いかな? 昨日の戦闘の音声を録音したんだ。音声の一部分だけ切り取って説明すれば装備品をくれるかもしれない」
「別に良いわよ。けど音声を編集するのは何故?」
「聞かれるとまずい会話も録音されているんだ」
「なんだか察しがつくわ」
「後で詳しく話すけどサニーが思っている以上に、誰かに聞かれるとまずいんだ」
「そう、とりあえず早く市役所に行きましょう」
「ああ」
スリーページとサニーは市役所へ向かって走った。
市役所に着くとそこは、がらんとしていて何らかの手続きや申請をする者の姿はなく、静まり返っていた。
受け付に行くと若い女性が無表情で突っ立っていた。
「あの、昨日身ぐるみ剥ぎ殺しに襲われまして、そのとき装備品の殆どを使ってしまいまして、その、装備品を貰うことって出来ますか? 異常事態に出くわしたのが初めてなもので動揺しております。なんとかなりませんでしょうか」
若い女性は大げさに困った顔をし、一瞬下を向いて考え込んだがすぐに無表情に戻った。
「映像データ、音声データ、など何か証拠になる物をお持ちですか?」
「はい、音声データがあります。身ぐるみを剥ぐように要求され脅されたところから、戦闘が始まったところまでですが」
「では、そのデータをこちらのコンピューターに送って下さい」
「はい」

スリーページはゴーグルをかけた。
ゴーグルのモニターは所有者の声に反応する機能も付いており、映像データや、録音データの交換もスムーズに行えた。ゴーグルを使った映像データや録音データの送信方法だが、まず、ゴーグルで送信先の端末の認証をする。
認証方法はいたって簡単。ゴーグルを通して端末を見ると認証コード画面がゴーグルのモニターに表示され、端末から認証コード入力が要求されるので適当なコードを入力する。
認証コードは市役所の受付デスクの小さいモニターに表示される。
表示された数字を声に出して発音することで、手続する者のみが簡単にゴーグルの端末内で認証することが出来る。入力が完了すると認証先の端末のアドレスがゴーグルに表示され認証先端末にデータを送信することが出来るようになる。
後はゴーグルのモニターから送りたいデータを選択して、認証先の端末のアドレスに送信するだけだ。
手続き後は自動でアドレスが変わりアドレスにデータを送れない仕組みになっている。
コンピューターの解析と完璧なセキュリティで、重大なウィルス犯罪やサイバー犯罪は今のところ起きていない。

「yzyzx10」
「この音声データを167098675468098@市役所へ送信」
スリーページの音声データは市役所のコンピューターへ送信された。
若い女性は無表情でコンピューターの画面を覗き、解析が終わるのを待った。
音声データの編集があったものの、解析は正常に終わった。
「解析の結果装備品の再配布が認められましたので、書類にサインを下さい。こちらの券を指定の武器ショップにお持ちになり、担当の方へお渡しください。ゴーグルはすでにお持ちのようですので、ゴーグルは再配布の対象になりません。ご了承ください」

券の裏には再配布対象になる装備品のチェック欄が記載されていた。
「はい」
スリーページはサインをして券をぐしゃっと握った。
「ありがとうございました」
若い女は最後の挨拶も無表情だったが気にせず二人は走った。
「妙に早かったわね」
サニーはあの若い女性のように無表情で言った。
「ああ、なんとかなったな。この近くで市の指定する武器ショップってどこかあった?」
「この近くだと駅の近くのギアギアしかないわ」
「やっぱり市役所の近くはないか。僕あそこの店員苦手なんだ」
「わかる」
「とにかく急ごう」
「ご飯は?」
「忘れてないさ」
「・・・・・・」
サニーはじーっとスリーページの顔を見つめた。
「疑っているのか?」
「ううん、別に?」
サニーは明らかに疑っていた。
「トゥーキータウンに着いたらすぐに飯だ。ヴァーチータウンじゃないぞ? トゥーキータウンだ」
「当り前よ」

サニーは空腹時イライラの感情をコントロールしにくくなる。
そのことをスリーページは理解していた。サニーがイライラしているときは最低限会話を慎んだほうが良い。
何故なら例のジョークの頻発を食い止めることが出来るからである。

二人はギアギアまで無言で走った。
ギアギアの近くに着くと二人はパスワード式販売機で飲み物を買った。購入システム以外のシステムは先程の市役所で行った認証方法とほぼ同じで販売機をゴーグルで覗きゴーグルに表示された認証コードを入力する。
「htsx9870」
認証後販売機は購入者の個人番号の入力を要求してくるので、ゴーグルの設定画面から個人番号画面を開き番号を確認し、個人番号を入力する。個人番号は認証後自動で別の番号に切り替わるので悪用される心配はない。
「s1560r49003498」
個人番号の入力が完了すると紙幣や硬貨を販売機に投入することが出来る。
 何故飲み物を購入するのに認証コードや個人番号が必要なのかと言うと、正規の住民登録審査や移民申請手続きが完了している者に1年単位で装備品が市から配布される。
完了していなくても5年以上定職に就くと会社から支給されるが、過去に犯罪歴のある者に装備品は支給されない。つまり過去に罪を犯した者は販売機で飲み物を買うことすら許されないのだ。

しかしそれ以上に、スラムでは個人番号の取得は容易ではない。住居を構えているか、結婚をしているか、定職に就いて10年以上経過しているか等々の条件がかなり厳しい。全ての条件を満たした者だけが個人番号を取得出来る。取得した者の配偶者や扶養家族も個人番号を取得出来た。
認証コード入力者と、認証コードと個人番号入力者とで購入出来る商品に差が出た。
認証コード入力者は、水、季節の木の実のしぼり汁、ヤシの実ジュース、薫りも味もないホットコーヒーなどが購入可能である。認証コードと個人番号入力者は、軽食、各種プロテインジュース、季節のフルーツジュース、ミルク、各種コーヒー、各種スープ、酒、疲労回復薬、調整剤、各種エナジードリンク、認証コード入力者が購入可能な商品などが購入可能である。
販売機に限らず、個人番号取得の有無で取得していない者と格差が生じることは珍しくなかった。
スリーページは硬貨を入れ疲労回復薬を選択した。

「サニーはどれにする?」
「バナナミックスフレーバーのプロテインジュース」
サニーは機嫌悪そうに言った。
「よし」
スリーページはジュースを選択して購入ボタンを押した。
「悪いな、こんなくだらないことに付き合わせて」
「くだらなくはないわよ。丸腰でヴァーチータウンをうろつく方がよっぽどくだらないわ」
「面白い。でもいきなり遠くからスナイプされない限りは誰にも負けない自信があるね」
「その自信は特別な力と関係しているのかしら?」
「うん、その話は飯を食うときにしよう」
「わかったわ。でも、どんな力なのかくらいは教えて。良いでしょう?」
「炎を操れるんだ」
スリーページはサニーの耳元でとても静かにぼそっとつぶやいた。
「凄い! 自由自在に? 信じられないわ」
いつもおとなしいサニーも今回ばかりは驚いた様子だった。
ジュースを飲んだサニーの機嫌は幾分かましになったとスリーページは思った。
「サニーのおかげだよ。ありがとう」
「私のおかげ?」
「ああ、神様ってやつ。あれのおかげなんだ」
スリーページはあのときのサニーの様子を再現しながら言った。
「馬鹿にしているわね」
サニーは銃の安全装置を解除した。
「ば、馬鹿にしているわけじゃないんだ。本当にあのイメージのおかげで僕は死なずに済んだんだ。本当に!」
スリーページは、やってしまったと思い、必死で言訳した。
「真似する必要はないわよね?」
サニーは銃をスリーページに突き付けながら言った。
「悪かった。サニーの言う通り真似する必要はなかったな。ごめん」
スリーページは真剣に言った。
「さっさとギアギアに行くわよ」
ジュースを飲み干し銃を下したサニーはそう言うとスリーページを置いてさっさとギアギアに向かった。
バナナミックスフレーバーのプロテインジュースを選択したサニーがなんとなく怖かった。
「あのジョークで万が一のことが起きない保証はどこにもないのに」
スリーページは一人でつぶやき、ギアギアに向かった。

サニーはギアギアの入り口の前で待っていた。
ギアギアに入るやいなやアルコールと違法薬物の依存者で、同性も異性も大大大好きだというボディービルダーの男性店員ワンノックが現れた。
「あらやだ、サニーちゃんにスリーちゃんじゃない! 久しぶりね。スレイグちゃんは一緒じゃないの?」
「ああ、スレイグは行方不明なんだ」
「やだ、心配ね。何もなきゃ良いけど」
「装備品を受け取りに来たんだ。市から貰った再配布の券もちゃんとある」
「再配布とは珍しいわね。何かあったの?」
「簡単に説明すると、昨日身ぐるみ剥ぎ殺しと戦闘になってね。手持ちの装備品全部使っちゃったんだよ。それで脅されたところや戦闘になったところの音声を録音しておいたんだ。証拠になると思ってね。さっき市役所で申請したら再配布してくれるって言うから来たってわけ」
「市の連中が再配布をね・・・・・・」
ワンノックはそれを聞いて俯いた。
「ほら、私達急いでいるのよ! さっさと装備品よこしなさい」
サニーはイライラしていた。
「青臭いこと抜かさないで頂戴! 券を渡されて装備品渡せりゃとっくに渡しているわ。書類にサインやらなにやら必要なのよ。それが大人のやりとりなの。わからないでしょうけど」
ワンノックはサニーのイライラにイライラで応じた。
「チッ、だったらその書類をさっさと出せよ」
「スリーちゃんこの子どうしちゃったの? 異常よ」
「さっさと出した方が身のためだと思う。この国の女のジョークは怖いからね」
「ああ、それもそうね。下手したら殺されかねないわ」
「あんた達それくらいにしておきなさいよ」
サニーは怒っていた。それを察した二人は手続きに集中した。書類にサイン、住所等々記入し、スリーページは装備品を受け取った。
「試着室借りるよ」
「ええ、自由に使って」

スリーページは試着室に入ると急いでヘルメットを被りジャケットを羽織って防弾仕様のつなぎを着た。
爆弾セットはつなぎの背中に装着出来る仕様になっており着脱可能。
二丁の拳銃は左右のホルスターにあらかじめセットされておりベルトと一体型。
機関銃はロングストラップが付いており肩から掛けることが出来た。その他にマガジンが沢山入ったドラムバッグ、鉈があった。スリーページは沢山マガジンを持ち歩くことを嫌い、鉈を持ち歩くことも嫌った。
普段なら持ち歩かないが今回は仕方なく持ち歩くことにした。
サニーとワンノックはお互いに顔を合わせなかった。
「ところでサニーちゃん。あなたスリーちゃんとはどうなの? 順調?」
「は、はぁ? どういう意味? それ」
 サニーが動揺すると人間が飼いたい人間を解体というような残酷な歌詞の曲が流れ、店内に響いた。
「付き合っているのかどうか聞いてるのよ青臭いわね!」
「馬鹿じゃないの? ふ、普通、従妹とは付き合わないわよ。常識でしょ? 薬物のせいでそんなこともわからなくなったわけ?」
サニーは堪らずワンノックの方を向いて言った。
「ああ、やだやだ、青臭い。超青臭い。恋愛に常識も非常識も存在しないの。通用しないの。好きになったらもう逃れられないの。そもそも人を好きになるということは非常識なの。常識じゃないの。常識じゃないことが起きたらあなたはそれをなかったことに出来るかしら? あるいは無視出来る? 出来ないわよ。たとえ法を犯しても対処するしかないの。それ以外の方法で問題が解決するならその程度の異常なのよ。本当の異常じゃないのわからないでしょうけど」
「わかるわよ」
サニーはぼそっとつぶやいた。
「え?」
ワンノックは聞こえなかったのかサニーに聞き返した。
「一般人の私には到底わからないわ」
「嫌悪、嫌悪。嫌だわ一般人。響きが嫌! 一般人」
「異常者にはわからないでしょうね」
「わかりたくもないわ! こっちから願い下げよ」
ワンノックは呆れて倉庫の方に姿を消した。
「お待たせ。あいつなんか怒っていなかったか?」
「気のせいよ。それより早く出ましょう」
「ああ、あいつが戻ってくるとまた面倒だからな」
二人はワンノックが倉庫から戻ってくる前にギアギアから退散した。
「あいつと何を話していたんだ?」
「スレイグのことよ」
「ああ、スレイグか。あいつら妙に仲良しだったな」
「ええ、早く駅に行きましょう。ここから早く消えたいわ」
「ようやくトゥーキータウンに向えるな。飯どこで食べようか?」
駅に向かいながら二人は食事を何処でとるのか話した。
「駅の中にあるファイブモーモーの焼き肉が良い。食べ放題の安い肉を沢山食べたい」
「そうしようか。ランチは安いしね」
「ディナーも良いけどランチにはエビがあるのよ。あの安いエビ結構いけるのよね」
「わかる。キノコも良いよな。ディナーにもエビもキノコもあるけど、ランチとちょっと違うんだよな」
「ええ、質がね。でも安い方がやけに美味しく感じるのよね」
「そうそう」
サニーは食べ物の話になると決まって目をキラキラ輝かせた。
食べることに生き甲斐を感じているのだ。それについてもスリーページは理解していた。
スリーページはサニーと食べ物の話をするのが好きだった。
「デザートもバイキングで済ませる?」
「悪いけど私あそこのデザート苦手なのよね」
「立ちくらみや片頭痛が起きるからな」
「薬漬けなのよ。絶対」
「間違いないだろうな。でもたまに、あの強烈な立ちくらみや片頭痛を欲することがないか? 体が欲しているんだよ」
「薬漬けだからそうなるの」
「そうかもしれないな。中毒になる寸前なのかもしれない」
「デザートはコンビニショップ、ユーユーが良いわ。ベリーキャンディーベリーチョコバナナのクリームトッピングのクレープが美味しいの」
「それ甘過ぎない? 頼んだことないけど」
「スリー兄貴もたまには冒険が必要よ。チョコクリームなんて頼むのはいい加減やめなさい」
「僕が思うにサニーこそベリーキャンディーベリーチョコバナナのクリームトッピングのクレープを食べるのなんてやめるべきなんだ。どちらかと言うと。ほら、カロリー的に」
「余計なお世話よ。ちゃんとその分のカロリーは運動で消費しているわ」
「うん、でもチョコクリームは美味しいんだ。わかってくれ」
「理解出来ない」

ヴァーチータウン駅の構内は人で溢れていた。
改札を抜けるにはゴーグルを持ってゲートを通過する方法しかない。
そのため沢山の利用者がゲート前に列を作った。
過去に犯罪歴のある者でもゴーグルがあれば乗れてしまうので以前から問題になっているのだが法整備は一向にされない。
過去に犯罪歴のある者がゴーグルを不正入手して受ける恩恵というのは、電磁力電車に乗れるということだけだ。
ゴーグルには暗証番号が設定されている。
仮に不正で突破しても不正利用防止装置が付いており、コードの入力に限っては持ち主にしか出来ない。
そのため政府はこの問題に全く関心がない。この問題を解決しようとすると、とんでもない額の金が国のためではなく、国民のために消し飛んでしまうのは目に見えているので関心を示さないのだ。
それに加え、今まで大きな犯罪が起きていない。
何故ならテロ、ハイジャック、殺し等々の犯罪行為をひとたび起こし騒ぎになってしまうと、厳しい規制や法整備がみるみる進み、ゴーグルの恩恵を受けることが出来なくなってしまう。
そのため、過去に犯罪歴のある者達の暗黙の了解で厳しく抑圧されていたからだ。一般の利用者からすると良い迷惑であった。

「トゥーキータウンに着くのは恐らく2時30分過ぎかしら」
「そうだろうね。出発時刻と到着時刻くらい表示してほしい」
「時計すらないのよ?」
「いくら早く着くからって、その他の対応やサービスが酷すぎる。せめて正確な到着時刻は把握しておきたい」
「今更政府に何かを求めるのは無駄よ」
「うん」
サニーは未成年なので認証やら、個人番号の照会やら、少々手間がかかったが二人はゲートを通過して電磁力電車が待つホームへ向かった。
「ここのホームのにおい大嫌い」
「でもヴァーチータウンを象徴していると思う」
「不吉や吐き気の象徴よ」
「早く乗車した方が良さそうだ」
サニーは我先にと電磁力電車に乗り込んだ。
「トゥーキータウンまで直行です。トゥーキータウンまで直行です。ご乗車になりお待ちください。ご乗車になりお待ちください」
車内アナウンスは発車するまで流れ続けるのでかなり耳障りだ。
それに、なんの前触れもなく突然ドアが閉まり発車するので利用者は乗車するまで気が抜けない。
「よし、運がよく直行だった!」
「だめ、私気分が悪くなってきた。スリー兄貴肩を貸してくれる? 少し眠るわ」
「きっとプロテインジュースのせいだ。脳にまで効果が出てしまったんだ」
「不安にさせないで。ますます気分が悪くなるわ」
「ごめん」
目を閉じているサニーの顔は苦しそうだった。
サニーが目を閉じてすぐに電磁力電車のドアが閉まった。
 電磁力電車から見える窓の外の風景は、夢で見るようなとぎれとぎれの粗い走馬燈を見ているかのようだった。スラム、工場地帯、役割不明のタワー、空を覆うスモッグ、トンネル、建設が中断された橋。
それぞれが一瞬一瞬目に焼き付いては消え、焼き付いては消え、感情の中に溶け込み深い思考へ誘った。
「トゥーキータウン。トゥーキータウン。トゥーキータウン。トゥーキータウン」
トゥーキータウンに着くと耳障りなアナウンスは待っていましたと言わんばかりに泣き喚いた。
利用者にさっさと降りやがれ! と言っているかのようだった。
「サニー着いたよ」
「え、もう着いたの?」
「電磁力だからな。それより早く降りよう。いつ閉まるかわからない」
「ええ」
二人は急いで電磁力電車から飛び出した。
飛び出したと同時に電磁力電車の扉は締まり、何人かが扉に挟まれたまま電磁力電車は猛スピードで走り去った。
「トゥーキータウンの空気は新鮮だね」
「この町も大概だけど、ヴァーチータウンよりよっぽどまし」
「ホームも綺麗だしね」
ホームには家庭ゴミやたばこの吸い殻が散乱していた。
二人は息を合わせたかのようにファイブモーモーのある方へ向かった。
「ファイブモーモーの制限時間は60分だったよね?」
「ええ、たったの60分。気合い入れないと元が取れないわよ」
「サニーが言うとジョークに聞こえないな」
「半分ジョークだけど半分マジよ? 元を取る気で食べないと店に対して失礼よ」
「そうなのか? 逆に失礼にならないか?」
「元を取ると宣言しておいて全然食べない人や、元を取る気満々の家族連れは失礼にあたるけどね」
「ずいぶん極端だな。勉強になる。よし二人で元を取ろう!」
「スリー兄貴は元を取ると宣言しておいて全然食べない人に該当するから、元を取るなんて簡単に宣言しない方が良い。失礼になるから」
「でも殺されはしないだろ?」
「店の人間が誰も殺さなかったら私が殺すわ」
「それだったらまあ良いか」
「なんで良いのよ」
「良い」
サニーは何故だか照れた様子だった。
「顔が赤いぞ? あのプロテインジュースってそんなに強力だったっけ?」
「うるさい。久しぶりに飲んだから耐性がなくなっていたのよ」
「薬物で気分が悪くなった人間の言訳みたいだ」
「その状態となんら変わりはないわ。プロテインか薬物かの違いだけよ。薬物なんてやったことないけど」
「プロテインでそうなるとはね」
「私だって動揺しているの。それ以上不安にさせないで」
「ごめん」

ファイブモーモーは駅の中にあるレストランの中で一番人気の店舗だ。
地下の古代円形闘技場を幾度となく改修、修繕を繰り返した店内はとても広く、透き通るブルーが綺麗な人工ビーチ、ちょうど良い暖かさが心地よい人工太陽、生い茂る樹木、本物の草花にも引けを取らない造花とホログラムの美しさが高級感を演出し、1年中リゾート気分が楽しめた。
制限時間がある焼き肉屋でリゾート気分を味わうということに対して疑問を抱く人間も多いが、一度この癒し空間に足を踏み入れてしまうと他のレストランには行けなくなってしまう魅力があった。
それに加え、60分980円というランチ価格、充実したメニュー、水着を着た美しい女性スタッフ、全てにおいてファイブモーモーは圧倒的魅力を誇った。

そんな圧倒的魅力を誇るファイブモーモーだが、社長自らがコマーシャルに出演し一時期話題になった。社長が消費者金融から金を借りてファイブモーモーへ行き散財。
その後、ありとあらゆるところで取り立て業者の待ち伏せと執拗な取り立てに遭い、破産。最終的に自ら命を絶つという過激で狂った内容のコマーシャルだ。
「借金してでもファイブモーモー。取り立てされてもファイブモーモー。待ち伏せされてもファイブモーモー。破産してでもファイブモーモー。命絶ってもファイブモーモー」
過激な内容とは相反するコミカルな掛け声と演出、ラストシーンの社長のファイブモーモー! という盛大な断末魔が評判になった。
評判になりすぎたあまり、本当に借金を抱え込んだ者や、行きたくても行けないことが原因で薬物中毒になった者や、無銭飲食をしたあげく地下の労働施設に送られ、果てには自らの命を絶った者が現れ、社会問題へと発展し伝説となった。
現在は料金先払い制にし、年に一度最下層民を対象とした炊き出しや慈善活動を行っている。
消費者金融で金を借りる場合厳しい審査が新たに設けられたこともあってか以前ほど問題にはならなくなったのだが、今なお熱狂的な支持者が増えつつある。
サニーは熱狂的な支持者だった。

店舗の入り口に番号札を待って並んでいる者が数名いた。
「嘘でしょ? 並んでいる」
「休日でもないのに」
「いらっしゃいませ。こちらの番号札をお持ちになって最後尾にお並び下さい」
店員は忙しそうに言った。
「混んでいるみたいですが無銭飲食でもあったんですか?」
スリーページは店員に聞いた。
「電気系統の故障で一時、火が使えなくなったんです」
「そうでしたか。すみません忙しいところ」
「こちらこそ申し訳ありません。4番目なので10分も待たないで入れると思います。今しばらくお待ちください」
「ありがとうございます」
スリーページが店員に一礼すると店員は忙しそうに店内へ消えた。
二人はしばらくの間無言だった。
「なんだか厳しく躾されている飼い犬の気持ちが少しわかった気がするわ」
サニーは飼い主の歩調に合わせて駅の構内を歩く飼い犬を寂しそうに見つめ、切ない声で言った。
「うん」
「お腹がすきすぎると自分が自分じゃなくなるみたいな感覚に陥ることがあるの」
「今はどう?」
「わからない。わからないけど大声で何かを叫びたい気分なの」
「欲望のコントロールは難しいからね」
「コントロールは出来るわよ。でも、もう一人の自分が心の中にいて発狂するの。冷静な私はそれを傍観と言うか、静かに受け止めるんだけど、心の中の発狂がずっと続くと、自分が異常者みたいで不安になるの」
「コントロール出来るなら問題ない。コントロール出来なくなったら色々考えれば良い。無理に答えを出そうとするとどんどん苦しくなるよ」
「スリー兄貴は私が急に叫んだりしても嫌いにならない?」
「叫びって、お腹すいた! とか、肉が食いたい! みたいな叫び? それとも、お前ら全員殺してやる! とか、そういう叫び?」
「わからないけどとにかく叫びよ」
「実際に聞いてみないとわからないが、嫌いになんかならないよ」
「絶対?」
「絶対」
「約束よ?」
「うん」
「1番から4番までのお客様、お待たせいたしました。前の方に続いてゆっくりと店内にお入りください。いらっしゃいませ!」

店員がいらっしゃいませと言うと、店内の従業員全員がそれに続きいらっしゃいませと吠えた。
その叫びは古代の戦士さながら、当時の熱気を彷彿とさせた。
店員達は日々売り上げや、過酷な労働条件と命がけで戦っていた。
彼らにとって接客とは戦いそのものであり、生き甲斐でもあった。
そのことを考えると、戦う相手が違うだけで当時と今とでさほど変わりがなかった。
大きな違いがあるとするなら女性が戦っているという点だ。しかも水着で。年中。

「料金は先払いです。お手持ちのゴーグルで認証と個人番号の入力をお願いします。現金でお支払いのお客様はその後、券売機で券を購入しゲートをお通り下さい」
二人は認証と個人番号の入力を済ませ、券売機で券を購入し、ゲートを通過した。
「さあ、元を取るわよ」
サニーがそう言うと店員や客はサニーを一瞥した。
「なんだかいつもと様子がおかしくないか?」
スリーページは不安になった。
「言ったでしょ? 半分マジだって。場合によっては失礼にあたるからスリー兄貴も頑張って沢山食べて」
「え、僕まで? とにかく誠意が伝わればそれで良いんだろ?」
「店員の受け止め方次第ね」
「一体僕らは何に挑戦しているんだ・・・・・・」
スリーページはぼそっとつぶやいた。
二人が席に着くとすぐさま鉄板は自動で熱を帯び始めた。
そしてタイマーが動き出し、戦いの火ぶたは切って落とされた。
「兄貴は豚と鳥の肉を持ってきて! トレーは大よ」
「わかった」
スリーページは大急ぎで大のトレーに肉を沢山乗せた。
スリーページは大のトレーに乗っている肉を見ただけで空腹が満たされるような感覚に陥った。
サニーは大のトレーを片手で二枚持ち牛肉や大量のエビや野菜をトレーに沢山乗せていた。それを見たスリーページは目の前が真っ暗になりそうだったが、なんとか堪えた。
先に席に戻ったスリーページは肉を焼き始めたが、勿論ビーチを眺めて癒される余裕なんてなかった。
「肉で鉄板を覆いつくすのよ。とにかく焼けるだけ焼くの!」
「火が通りにくくなるんじゃないか?」
「そんなこと気にしていられないわ。60分よ? 命がけなんだから」
そう言うとサニーは自分の持ってきた野菜や肉を沢山入れた。
「これで蓋をして一気に過熱よ」
蓋を持つサニーは猛獣と戦う騎士や、アマゾネスのようだった。
「その蓋って使って良いのか? 使っているやつを見たことがないぞ」
「良いのよ。私も普段は使わないけど」
「本当だろうな? しかし、これじゃあ蒸し焼きじゃないか」
「かなりの高温になるから問題ないわ。こうすると2、3分で火が通るの」
2、3分が経過し蓋を開けると、肉も野菜も丁度よく焼きあがっていた。
「少し水気がある気もするが、なかなかどうして、これはこれで美味しそうだ」
「水気なんて放っておけばすぐに飛んでしまうわよ。早くいただきましょう」
「ああ、いただきます」
「いただきます」
おしぼりで手を拭いた後二人は備え付けのタレをあらかじめ用意された小皿に用意し、大皿にトングを使って肉を盛り、備え付けの割りばしを取り出し勢いよく食べ始めた。
食べているうちに水気が飛んで、野菜が焦げ始めたのでスリーページは火力を弱めた。
「今私最高に幸せ」
「ああ、凄く美味しいね」
スリーページは沢山食べられるかどうか心配だったが、食べ始めると闘争心に火がつき、気が付くと自分が持って来たトレーの肉は殆どなくなっていた。
「よし、肉以外の物も取ってくるよ。言ってくれれば取りに行くよ?」
「そうね、じゃあ酸味の効いたご飯とトマトマリネをお願い」
「わかった」

サニーは恐らく酸味の効いたご飯の上にタレを沢山絡めた肉を沢山盛り、更に肉の上にトマトを乗せて食べるつもりだ。仕上げに塩コショウで味の調整もするはずだ。
不覚にも美味しそうだと感じスリーページの腹が鳴った。
その瞬間、なんとなく自分のセンスが試されているような気分になった。
面白い! 勝負してやろうじゃないか。そうスリーページは思った。
スリーページは食事が並んでいるウィンドウを一通り見て回り、思考を凝らした。
サニーが酸味の効いたご飯なら僕は焼き飯で勝負だ。
エビと鶏肉に塩コショウをふり、しっかりと焼く。そして焼き飯に混ぜ込み焼き飯の香ばしさを引き立てる。
その上にピクルスとフライドエッグを乗せ、焼き肉のタレを少しかけよう。
スリーページは完璧だと思った。
スリーページは酸味の効いたご飯を茶碗に盛り、トマトマリネをボウルに乗せそれをトレーに乗せた。
そして焼き飯を茶碗に盛り、ピクルスとフライドエッグをボウルに乗せそれをトレーに乗せた。
スリーページは慎重にトレーを持って席に戻った。
目線はトレーの方に集中していた。
「持ってきたよ」
スリーページは茶碗やボウルをテーブルに置いた。

スリーページはサニーが座っている席の隣奥に1312スレイグが腰を掛けていることに気が付き、お互い目と目が合った。
「よう! 相棒。元気か?」
そう言うとスレイグは薬瓶から白い粉のようなものを人差し指に乗せ、その人差し指を鼻の奥に突っ込んだ。
「飯がまずくなるから近寄るなって言ったんだけど、どうしてもスリー兄貴と話がしたいって言うのよ」
サニーはため息をつきながら言った。
「どうぞ、どうぞ俺にはお構いなく。お食事を続けて下さい」
スレイグは薬物を摂取したりアルコールを過剰に摂取すると気味の悪い丁寧語で話す癖があった。
「一体どうしたんだ? たまたま居合わせたってことではないだろ? 目的を言えよ」
「俺ずっと行方不明だっただろ? それには理由があったんです」
「もったいぶるな」
「落ち着いて下さい。順を追って説明するから」
そう言うとスレイグはにやけながら深く深呼吸をした。

そして急に真顔になった。
「俺はお前らとつるまなくなってすぐに政府が直接業務を委託している、ヴェックスグループという裏会社の社員になった。その会社は違法な物、例えば、薬物とか、武器とか、生き物とか、骨董等々を秘密裏に輸入する会社だ。それに加えて、税金の取り立て、暗殺、警備、違法労働施設や人員の斡旋、拷問、処刑業務等々も行っている。いわゆるなんでも屋だ。なんで俺がそんなところで勤め始めたのか気になるだろうが、なるべく手短に話したいので割愛させて頂きます。
 そんなこんながあって裏会社で働いていくうちに俺はマンドナに行くことになった。俺の担当は違法兵器の輸入だったが、別のやつが担当していたのはマンドナ製のロボットの輸入。正直ションベンがちびりそうになったぜ。戦闘タイプではなかったが、それでもメジェイに壊滅的な被害をもたらすことが出来る代物だ。そんなマンドナ製のロボットをドロドロに溶かしてぶっ壊したやつがいる」
スレイグはスリーページをにらみつけた。
「それをスリー兄貴がやったって言うの?」
サニーはスレイグをにらみつけて言った。
スレイグは黙ったままスリーページをにらみつけた。
「ああ、俺がやった。でもなんでお前みたいな下っ端がそんなことまで知っているんだ?」

「待って兄貴その前にちゃんと説明して!」
昨日スリーページの身に起こった一連の出来事を知らないサニーは声を荒げた。
「俺も興味がある、ありますね」
スレイグは小さな声で言った。
「僕は昨日マンドナのロボットに殺されるところだった。僕を殺す目的は特になかった。ただ殺すことがやつの生き甲斐だったんだ。僕はやつに殺される直前意識を失って、気が付いたらやつは溶けていた。ドロドロにね」
スリーページは嘘をついてめんどうくさそうに説明した。
「身ぐるみ剥ぎ殺しの正体はマンドナのロボットだったのね。そのロボットを例の力で倒したってわけね」
「例の力?」スレイグはサニーをにらみつけた。
サニーは言ってはいけないことを言ってしまったという様子でスレイグから目を背けた。
「サニー、こいつは政府の人間なんだ。人間を人間と思わない連中の掃きだめでネズミや甲虫のように死肉をむさぼり食いながら暮らす、ろくでもない人間なんだ。僕達みたいなスラムの人間をチーチーチーチー鳴き喚いて、毎日嘲笑っているんだ。人を簡単に殺す連中を信用するな。昔の親友でも」

スレイグはマンドナのロボットのように笑ったあとネズミの真似をした。
「ママに習っていなかったようだから忠告しておくよ。政府に関わりのある人間をなめない方が良いぞ。ここには市の暗殺者や銃を所持している者もいる、言葉を慎んだほうが良いですよ?」
スレイグは言った。
「ふん、やっと正体を現したな。僕もお前に忠告しておく。俺をなめないほうが良いぞ」
スリーページは拳を輝かせ、スレイグを静かににらみつけた。
「な、マジになるなよ! 冗談です冗談。俺のジョーク懐かしいだろ?」
スレイグは慌てながら言った。
「次にくだらないことを言ったらサニー以外の全員を一瞬で消す。言葉を慎めよ? スレイグ」
「面白いジョークですね。なあ? サニー」
恐れをなしたスレイグは助けを求めるかのようにサニーに言った。
「気やすく話しかけるな! いかれ野郎」
サニーは泣きながら言った。

「スレイグお前のようなやつがなんで僕がロボットを壊したことを知っていたんだ? それになんで市の連中と待ち伏せていた? 目的をはっきりさせろ」
スリーページは言った。
「俺は突然政府に呼び出された。それでお前があのロボットを壊したことを聞かされた。なんで俺じゃないといけなかったのかはわからない。が、俺はお前のことをよく知っているし、政府的にも俺は扱いやすかったんだと思う。政府が直接制裁しても良かったんだろうが、下手に手を出して壊滅的な被害をこうむる恐れだってあるだろ? あのロボットを溶かしたんだ。恐れるのも無理はない。それに今回の件をマンドナの連中に知られるわけにはいかない。
 本来今回の件は政府が直接手を下すべき事案です。が、お前がメジェイにもたらす被害の規模が未知数なのと、マンドナに今回の不祥事が発覚し問題になることを政府は極端に恐れている。政府が責任から回避するために市やヴァックスグループが政府の身代わりとして急遽雇われたのだと俺は思う。俺が言うのもなんだが相当まともじゃない。目的の話に移ろう。被害が出ずに、マンドナから責任を追及されずにこの事態を収束し問題を解決する方法を提案する。拒否しないでくれ。戦争になったらお互い得しないからな」
スレイグは言った。

スレイグはサニーの皿に乗っている肉を口にし、吐き出し、スレイグはサニーのおしぼりで口を拭こうとした。
しかし、サニーに思い切り頬を叩かれたので自分の着ている服で口を拭った。
「僕は殺されるべきだったのだと、お前も政府の連中も言いたいのだろうな。だが、こうして生きている。殺されたくなかった。力のことをもっと詳しく聞かないのか?」
スリーページは言った。
「お前は死ぬべきだった! 昨日。それに今回の政府の対応に俺は納得していない。破壊した張本人と戦争してでも戦うべきだし、家族やサニーを人質にすれば余裕でお前を殺せると俺は思うよ。対応がぬるすぎる。でも俺の言うことに耳を貸さなかった。弱者に対していつも強気なくせに、こういうときは低姿勢。胸糞悪い話です。力のことを聞く必要はないです。お前は事実溶かしているんだ! あのロボットを。そんなことより、これから俺が提案する話を聞きやがれ」

スレイグの発言に対してスリーページはなんの感情も示さなかった。
「そうか。でもなんでマンドナにばれたらまずいんだろう」
スリーページは静かにつぶやいた。
「そんなこと俺が知るか。とにかくあのロボットは昨日ヴァーチータウンの地下の核実験施設で粉々にし、残骸を地中に埋めた。メジェイを守る貴重な核だ。もったいない! 証拠を隠滅し行方不明ということにする。後はお前をどうにかしないといけないんだ。そこでお前に、お前の存在を抹消し、国外へ永久的に追放する提案をする。お前がいるとやっかいなんだ」
スレイグは怒った様子で言った。
僕を消して行方不明にする? 雑すぎるし何より狂っている。とスリーページは思ったが黙っていた。

「・・・・・・」
「ここに似たスラム国のデセンデン、麻薬島レロホッチッ、そして異能者の国エムジェイこの中から好きな国を選べ」スレイグは怒鳴りながら言い、地図をスリーページに見せた。
スリーページとサニーは顔を見合わせた。
「エムジェイにする」
「ふん、俺がお前に合う国をピックアップした。感謝しろ。エムジェイは特別な力がないと入国出来ない国だが、お前ならうまくやれる。今日の夜22時にミー・ナトのボウリング場の入り口で待っています。今夜22時過ぎの船でエムジェイを目指す。わかったな?」
「ああ、サニーも連れて行くが構わないな?」
「構わないが入国は出来ないぞ」
「試すだけなら構わないだろ?」
「何を言っているんだ? 試したところでどうにもならないですよ。まさか・・・・・・」
「思い違いだ。サニーは普通の人間だ」
「いかれ野郎」
「お前よりはましだ」
「遅れたらただでは済まないからな」スレイグはそう言いうと二人の前から姿を消した。
大勢の人間がファイブモーモーから消えた。
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