転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ

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冒険者学校入学編

37.シリウス対ロゼ

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「これから一年、諸君の担任教官を務めるディアッカ・オーディナルだ、よろしく。Sクラスである諸君は、今年の受験者の中では上位の能力を持つ者達だ。しかし個の能力の高さと冒険者として優秀かは別物だ。諸君には優れた冒険者、具体的にはSランク冒険者を目指して成長して行ってもらいたいと思う」

 Sクラスの六名の生徒の前で話しはじめたディアッカ教官は、エアさんの実戦試験の試験官をしていた人だった。
 背中に剣を背負っており、体に内包された気力や立ち振舞からかなりの使い手であることが窺えた。

「さて、諸君にはこれから共に協力しながら学んで行って欲しい。そのために互いの事を知ることは非常に重要だ。しかし、ただ自己紹介をするのではつまらないだろう?」

 ニヤッと笑みを浮かべるディアッカ教官に、生徒一同が息を飲んだ。

「諸君には模擬戦を行ってもらう。一対一で戦い、勝った者同士でまた戦ってもらう。どうだ、面白いだろう? 互いを知るには拳を交えるのが一番ってものだ」

 ディアッカ教官はどうやら脳筋らしい。嫌いじゃないけどな。

「さて、初戦の相手だが…… 希望があれば聞こう。なければ適当に俺が決める」

 ディアッカ教官が皆に問いかけると、真っ先に手を挙げた者がいた。
 燃えるような赤い髪の小さい少女であった。
 あの子十二歳超えてるのか? というかどこかで会ったことあるような……

「シリウス・アステールとの戦いを希望」

 そしてその少女はあろうことか僕との戦いを希望していた。

「ほぅ、ロゼ・クリムゾン、理由を聞いてもいいか?」
「燃やしたい」
「ええぇぇっ!? なんで!?」

 なぜ初対面の少女に燃やされなくてはならないのか。おかしい。
 いや、どこかで会った気はするんだが。
 記憶がないだけでどこかで恨みを買っていたのだろうか。

「はっはっはっ! 面白い! よし、ロゼの相手はシリウスに決定だ」

 納得できない……

「他に希望者はいるか? ……いないな、なら俺が適当に決めるぞ。エアとムスケル、アリアとランスロットで戦ってもらおうか」

 皆特に不満はないようで、まばらに返事が返っていく。
 いや、これが普通である。
 普通の人はいきなり燃やしたい相手を指定することなどしないのだから。

 ディアッカ教官に連れられて訓練場に着くやいなや、ロゼさんがとてとてと闘技場に上がっていく。

「シリウス・アステール。上がってきて」

 表情は完全に無表情であるが、早く戦いたくて仕方ないようだ。

「はっはっはっ! よし、初戦はロゼ対シリウスだ。ルールはなんでもありだ、勝てば良い。実戦試験と同じく何をしても元に戻るからな、殺す気で戦え」

 身の丈程もある杖を持ち、闘技場に佇むロゼさんの正面に立つ。
 ロゼさんの周りを渦巻く魔力は凄まじい熱量を持ち、その赤い髪も相成りまるで炎の化身のようであった。

「よし。では、始めろ!」

 ディアッカ教官が始まりの合図を出した瞬間、熱量を持っていた魔力が発火し、炎の渦が発生した。
 そして渦を巻いていた炎は無数の槍の形を象りはじめる。

「シリウス・アステール、覚悟。『炎槍雨フレイムレイン』」

 無数の炎の槍がこちらに向け射出される。
 とりあえず回避に専念して、様子を見よう。

雷光付与ライトニングオーラ

 身体に雷属性の魔力が付与され、周囲からバチバチという放電音が鳴り始める。
 更に『練気』により気力を身体に充満させ身体能力を引き上げ、炎の槍を回避していく。

「……むぅ。『爆炎ブレイズボム』」

 炎の槍の中に小さな火の玉が混ざったと思った瞬間。

―――ズガァァンッ ズガァァンッ ズドォォンッ

 それらの火の玉が爆発を始め、それを咄嗟に『風障壁ウインドバリア』で防ぐ。
 流石にこの量の爆発は避けられない。
 様子を見ようと思っていたがそうも言っていられないな。
 思い切って地を蹴り、ロゼさんに迫る。

「『反炎爆カウンターブレイズ』」

 ロゼさんが炎の球に包まれるが、構わず斬りつける。

「ハァッ!」

 高速の抜刀斬りがその炎の球に触れた瞬間、大爆発が起こる。

―――ズガァァァァンッ

 斬りつけた瞬間にバックステップを踏んだお陰で『風障壁ウインドバリア』を貫通する熱気に肌を焼かれながらも大きな負傷を負うことはなかった。
 一方、爆煙が晴れると脇腹の裂傷を押さえたロゼさんが立っていた。

「……やっぱり、強い。でも、負けない」

 一見無表情であるその目には、強い意志の炎が灯っていた。
 ロゼさんは杖を前に掲げ、魔力を注ぎ始めた。

「使って」
「? 何をですか?」
「試験の最後に使っていた上級魔術」

 一体どういうことだろう。ロゼさんの意図が読めず戸惑う。

「あなたの魔術に勝ちたい」

 ……そういうことか。
 僕の魔術と正面から打ち合って戦いたい、そして勝ちたいと。
 そう思ってくれているってことか。

「受けて立ちましょう」

 そんなの、正面からぶつかり合うしかないじゃないか!
 両手を掲げ、魔力を集中させる。

―――ボッボボボッ

 圧縮されていく、炎の塊。

―――バチバチバチィィッ

 激しさを増す、放電音。

 二人の魔力が十分に高まった瞬間、ぶつかり合う二人の視線。

「『真紅焔滅クリムゾンフレア』!」

「『雷極砲アブソリュートスパーク』!」

 極光と真紅の焔球がぶつかる。

 爆炎と眩い光が支配する空間に、視界が戻ってくる。
 結界の外では、スッキリした表情でロゼさんがへたり込んでいた。

「……完敗……」

 闘技場から退場させられたロゼさんが立ち上がった。

「私は今まで魔術で負けたことがなかった。でも、シリウスには全く歯が立たなかった」
「いや……ギリギリでしたよ。ロゼさんもとても強かったです」
「……ありがとう」
「こちらこそありがとうございました」

 そうしてロゼさんと握手をすると、まばらな拍手が聞こえてきた。

「ふむ、シリウスの勝ちだな。よし、次はエアとムスケル、闘技場に上がれ!」

 戦いの余韻もなく、ディアッカ教官は次の戦いを指示する。
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