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冒険者学校入学編

31.セントラル冒険者学校

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 セントラル冒険者学校、それはこのアルトリア国の中で最難関と言われる冒険者学校である。
 入学試験にて剣術、魔術、もしくはその両方の素質が一定基準を超えている者しか入学は許されない。
 そして、セントラル冒険者学校の入学試験に落ちた者は、他地方の学校の転入試験に回されることになる。
 セントラルを諦めた者はそうして他地方の学校へ行き、どうしても諦められない者は来年に再受験するらしい。
 異世界でも受験戦争があるなんて、ちょっと驚きだ。

 そしてそんな国内トップの冒険者学校は、勿論設備も最高であった。

「凄い…… どれだけの敷地があるんだろう?」

 学校の外周の壁が遠くまで続いている。
 そして奥には、この世界では珍しい高層の校舎が建っていた。

「訓練場がいくつもあるらしいし、魔物が発生する森も所有しているらしいわよ。それも合わせたら、凄まじいことになるでしょうね」

 思わず呟いた独り言にエアさんが返してくれる。
 そう、僕らは同じ宿のよしみで一緒に試験を受けに来ていた。

「改めて凄い学校ですね。これだけの受験生がいるのも頷けます」

「私たち結構早く来たつもりなのに受験番号986って、どれだけのライバルがいるのよって嫌になっちゃうわね……」

 恐らく二千人くらいはいるのではないだろうか?
 日本では通勤ラッシュで慣れてはいたが、こちらの世界ではあまり人混みがなかったので、あまりの人の多さに試験が始まる前から疲れてしまった。
 隣のエアさんも心なしかぐったりとしているようだ。

 訓練場の中で人混みの中試験開始を待っていると、男の怒声が聞こえてきた。

「おい貴様、今俺様にぶつかってきたな! この服は九十万ゴールドもするんだぞ! 土埃を付けてくれたな、どうしてくれる!?」
「ご、ごめんなさいっ…… こ、このハンカチで拭いていただけないでしょうか……」
「このゲルリッツ子爵家のザンド様の服を、貴様の汚い布切れで擦るだと? ふざけるな!! 仕方ない、貴様の身体で払ってもらおうか。今すぐ受験を取りやめて俺様の奴隷になれ」
「えっ!? そ、そんな、無理です……!」

 なんだあの理不尽な男は?

 金髪の吊り目の男が、水色のロングヘアーの女の子の腕を捕まえて、受験会場から引きずり出そうとしていた。
 男は子爵家を名乗っているため、貴族の諍いに手を出したくないのか、はたまたライバルが減るためか、皆目線を逸らしていた。

「黙って俺様の者になれ、乳女が。素直にすれば可愛がってやるぞ」
「い、いやァ……」

 何かがへし折れるような音が響き、当たりが静かになる。
 あまりの酷さに見ておれず、男の手首に手刀を放ち男の手を女の子の腕から強制的に解いたのだ。
 そして、手首を抑えて涙目になっている男と女の子の間に体を滑り込ませる。

「……こんな人混みで、人にぶつからないなんて不可能ですよ。ちょっとぶつかったくらいで奴隷になれとか、貴方、正気ですか?」
「き、貴様ッ!! 俺様が誰だか分かってるのか!?」
「貴方が何様か知りませんが、器の小さい男ってことだけは見ていて分かりましたよ」

 理不尽な上司の命令を受けても怒ることなんてなかった温和な僕だが、流石にこいつは見逃せなかった。

「ゲルリッツ子爵家のザンド様だぞ!! 貴様の首など一瞬で飛ばせるぞ!!」

 ザンドが剣を抜き、斬りかかってくる。
 蝿が止まりそうな遅さだ。
 こんな実力でセントラル冒険者学校を受験しようと思ったのか?

「そうですか。では、僕の首が飛ばされる前に貴方の首を飛ばしておきましょうか?」

 『練気』により気力を高めてザンドに向けて放ち、威圧する。
 剣を抜いても上手く手加減できそうにもないし、何より試験官に目を付けられたくないからな。

「あば…… ば…… お、おまおま……」

 幼児の頃から気力の鍛錬をしていた僕の気力の量は相当なものになっていた。
 その気力を威圧として一身に浴びたザンドは、膝をガクガクとさせ顔を青くさせていた。

「この子に、謝れ」

 威圧を解くことなく、ザンドに命令する。
 ザンドは威圧に耐えきれず、遂に地面に蹲り、更には漏らしてしまった。

「あ、ご、ごめん…… なさ、い…… もう、しません…… ごめんなさいぃぃぃっ……」

 ザンドは謝りながら受験会場から走り去ってしまった。
 そして静まりかえる空気。

 ……気まずい!!

「えっと、じゃあ、僕も行きますね、失礼しました!」

 何もなかった風に立ち去りたかったのだが、後ろから裾を引かれ、阻止される。

「あの…… あ、ありがとうございました!! 私、アリアって言います! その、お名前を教えて貰えませんか!?」
「あー、大丈夫でしたか? 変な奴に引っかかって災難でしたね。僕はシリウスです」
「シリウス様…… このご恩は忘れません……!」
「いや、様付けはちょっと…… そんな大したことじゃないので気にしないでください。では、お互い試験頑張りましょうね」
「はい!! 頑張ります!!!」

 そうして人の目を避けるようにそそくさとその場から離れる。
 エアさんの元に戻ると、何故かジト目でこちらを見ていた。

「貴方って問題事に首を突っ込むのが趣味なの?」
「本当は平穏に過ごしたいんですけどね…… あんなの放っておけないじゃないですか?」

 エアさんはちょっと困った顔をしながらそっぽを向いた。

「……まぁ、そこがあなたの良い所だとも思うけどね」
「ありがとうございます」

 ツンデレな雰囲気を醸し出すエアさんと話をしていると、訓練場の中に声が響いた。

『それでは、筆記試験会場へ移動していただきます。係員の案内に従って移動してください』
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