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1章 We love, because He first loved us.
手荒い挨拶6
しおりを挟む暴れまくりものは投げる。
発狂し、捕まえられるほどにひどく声を荒げた。
嘘だろ…
この拘束紐結構厚みがあるのにどうやって切ったんだ。
引きちぎったようにも見えて何かで切り込みを入れた跡が何箇所かある。一回で切るのが難しかったのか狙いが定まっていなかった。
「佐久眞先生、最後に病室にいたのいつか覚えてる?」
「20分くらい前です。」
「その時は変わりなかったんだよね。」
「はい、寝ていたので様子だけ見てすぐ戻りました。」
「わかった。佐久眞先生は院内探してて。俺は監視カメラ見ておくから」
「はい!お願いします!」
流石に前にいた空き病室にはいないだろう。
なら食堂か、子供達の遊び場フリースペースくらいしか自由に入れる場所は無い。
本当にどこ行ったんだ…!
もっと患者のことを注意して見ておくべきだった。
自分の不甲斐なさに力んだ拳を、冷静にならなければと深呼吸して力を抜く。
焦りながら院内を2周目する頃、曲がり角にある大部屋に戻る見慣れた影を見つけた。
あれはもしかしてユイトかな?
この時間に起きていることも多いし、望みは薄いけどあの子を見てないか声をかけてみよう。
【佐久眞先生side 終】
2度目の脱出。
手足の拘束は紐が厚くて手で切れたりできるものじゃなかった。
何度か様子を見てくる看護師のポケットに、ハサミが入っていることに気づいてから、ワザと暴れて気を引き、抱え込むようにして抑える看護師のポケットからどさくさに紛れて奪い取った。
ベット下、敷布団とスプリングの間に隠し、何度もやってくる大きい男の目を掻い潜ってちまちまと切っていく。
小さめの鋏だったから切るのに苦労して、何度も刃を当てて最後は引きちぎるようにして外した。
片手が取れたらあとは簡単。
あいつらが来ないうちに素早く手足の拘束を解き、こっそりとナースステーションにでる。
夜だからか人が少なくて、看護師が二人、銀色のカートに何やら準備をしていてこっちに背を向けていた。
───チャンスだ!!
僕は一目散に…逃げたいのを我慢して、音が鳴らないようにそーっと屈んで暗い方に逃げた。
前に逃げた空き病室の前を通り、さらに奥へ進む。
たくさん病室があってここがどこだかわからない。
まっすぐ進んで突き当たり左右に伸びる廊下を左に曲がろうとした時だった。
「うわっ」
「びっくりしたー…ごめん大丈夫?」
自分と同じくらいの男の子がラフなスウェットを着て立っていた。
暗くて顔は見えないけど耳のピアスが鈍く光る。
突然現れた彼に叫んでしまいそうになったが寸前のところで回避した。
「…どうしたの?」
返事をしない僕に訝しんでいるのがわかる。
このまま会話を続けてあいつらに気づかれたら困る。
周囲を警戒しながら、前に立つ彼が焦ったくて、無視して横を通り過ぎようとした。
小走りで彼を避けながら曲がろうと左へ顔を向ける。
横目で見えた彼がこっちを振り返っていた。
パシッ!
「あ、わかった!寝れなくて暇なんでしょ。」
彼が僕の手を掴んでいる。
急すぎる距離感の詰めかたに不安が募る。
「それか、先生から逃げてる?」
言葉があんまりわからないはずなのに、何か確信をつかれたようなひんやりしたものが、体を走る。
慌てて掴まれた腕を無理やり剥がそうと手をかけてみるが、ズルズルと彼に引き摺られてどこかの病室に入ってしまった。
「オレの病室603の真ん中な。6人部屋だけどまだ4人しか入ってないんだ。」
そう言って向かって左側、カーテンが乱雑に開けられているベッドに連れてくる。
「この時間結構起きちゃってさ、寝つきが悪くてケータイばっか見て余計寝れないんだよな。だからちょっと話し相手して?」
「…」
何を言っているかわからないし、急なことについていけない。
「先生から匿ってあげるから」
それよりも僕にはここから脱出するという目的がある。
ここで時間を浪費したく無い。
そう思って一言彼に何か言おうと口を開けるが、
「他の奴ら寝てるから静かにな」
いう前にしーっとジェスチャーをされ、それはそっちのことだろうと思ったが伝えられなかった。
ベッドに上がれよという彼のいう通りに、シングルベッドの上に2人。狭いけど子供だからまだ余裕はある。
一言も話さない僕に彼は弾丸トークを繰り広げた。
そろそろもういいかな…
「あ、今つまんないって顔したなー笑」
何の話もわからないが愛想笑いで誤魔化した。
タッタッタ…
バッと振り返る。
すぐ近くの廊下を誰かが小走りで向かってくる。
さっきまでの態度と違い急に真剣な顔になった僕を見て彼は目を見開いている。
これだけで事情はわかったというように、彼は僕をベッドの陰に隠れさせ、サイドの明かりを落とした。
「様子見てくるから待ってて」
彼は一度僕の方を振り返ってドアから出て行った。
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