手折られた天使の黙示録

大和菫子

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1章 We love, because He first loved us.

手荒い挨拶3

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「佐久眞先生!?大丈夫ですか!」

「イテテ…はぁ噛まれちゃった」
「消毒しましょう」

「…それよりも逃げたあの子探さなきゃ」

「さっき國吉先生呼びましたし、他の看護師も探してくれてますから。」

わぁ、なんて早い判断だ。

鋭い眼光で役に立たない自分が出る幕はないと牽制し、患部の消毒とガーゼを貼ってくれた。





【國吉先生side】

「國吉先生、どこにいるか見当はついているんですか?」


「まぁ、大体は。佐久眞先生の傷はどうだった?」

「歯形に沿ってちょっと血が滲むくらいでした。」

「じゃあ全治1週間くらいかな笑
ちゃっかり洗礼受けちゃったな」

「呆然としてましたよ。」

一回や二回噛まれたくらいでショック受けてて大丈夫でしょうか…と本気で心配しだすうちの看護師は優秀だ。

「フッホント君、厳しいね。」

「よく言われます笑」












そんな話をしながらズンズンと奥の空き部屋の方へ向かっていく。

「大体逃げ込むところは人気のないところ。
そして暗くて狭い場所って決まってるから」


「なんですか、逃げたペット探すみたいな事言って」

看護師が持っていた懐中電灯をつけて部屋を照らす。







いた。


一番奥左手のベッド。
前に見た時とカーテンの位置が違う。


「あの奥にいるね」
「逃げるかもしれないからドア閉めて前に立っててくれる?」

「?…はい」




コツ、コツ、コツ…

別に恐怖を与えようと思って、わざと足音立ててゆっくり歩いたわけじゃないが、心なしかワクワクしてしまう。




──バッ‼︎

勢いよくカーテンを開く。


やはりそこにいた。

小さく縮こまっている患者とバチっと目が合う。




「…見つけた」


【國吉先生side終】










っ!!

びっくりした。

いきなりカーテン開けられて固まる事数秒。


ハッと思い出し、再び逃げようと体当たりで道を作る。

細身だし、さっきのでかいヤツより余裕でかわせるはず。



「ククッ、いくら佐久眞先生より細いからって露骨すぎだろ。」





そう言って(なんと言ったかはわからないが)
体当たりした瞬間、足を引っ掛け、バランスを崩した僕の右肩から背中にかけてこの男の腕が伸びる。

後ろから腕を掴まれて、背中でまとめられた。

動きを制するように抱き止められ、また噛まないようにと、後ろ髪を仰反るように軽く引っ張って頭を支えられる。



「子供に負けるほど弱くないよ」





均一に左右に引かれていく口の端を見つめながら、不安定な体勢で抱きしめられる。

今までにないシチュエーションに動揺が隠せない。





だんだんと知らない腕に囲われて動けない恐怖が募り、目の前がチカチカとフラッシュバックする。

っ離せ“Let go” !」



ジタバタと暴れようにも一向に腕が解けない。

この体勢のせいで息がしづらいし、
焦点が合わない視界に気分も悪くなってくる。


目の前のこの男を睨んでないと気を失ってしまいそうだ。





「…君、英語喋るんだね」
「どのくらい日本語わかる?」

少し見開かれた目に好奇心を含んでこっちをみてくる。



「……」

なんとなく言いたいことはわかる気がするけど言いたくない。







「…うーん、どうするか…」





そう思案している男の長考をさえぎるように、廊下からさっきのでかい男の声が響いた。

「國吉先生ー!どこですか!?」

「あれ?ここなんで開いてない?誰かいますかー!」
ドンドンっ



「あー、忘れてた。看護師さん開けてあげて。」



ガチャン、鍵を開けると現れたさっきの男。
 
「佐久眞先生、シーですよ!」
今夜中です!と腕時計を指しながらプリプリと怒られている。



慌てて口を閉じるもすぐに、変な体勢で捕まっている僕を見て「あ!さっきの子、先生見つけたんですね!」

「佐久眞先生!静かに!」




また怒られている。もしかしてこの人ポンコツ…?


捕まえていてるこっちの男も微妙な顔をしていた。





いや、待て。
大人しくこの流れを見ている場合じゃない。

あの男の登場で気分が悪かったのがいくらかマシになったものの、この後のことを考えなければ。



状況が悪い。
敵が3人に増えてしまった。

こういう時、
よくあるのが殴って弱ったところに、薬でおかしくさせて部屋に放置されるのが多かった。

もしくは無理やり実験室に連れて行かれてそのまま壊されるか。




ここの把握もできてない時に最悪の捕まり方をしてしまった。


今ならもう一度逃げられるか。


移動する時にはこの拘束も緩んでいるだろう。

ドアから出た瞬間を狙う。
ここしかもうチャンスがない。






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