手折られた天使の黙示録

大和菫子

文字の大きさ
上 下
7 / 21
1章 We love, because He first loved us.

手荒い挨拶1

しおりを挟む


2度目の目覚め。


飛行機で目が覚めた時とは違う、白い清潔なシーツが張られたベッドで横になっていた。




部屋は電気が消されていてうす暗い。

右側の壁は上半分ほどがはめ殺しの窓になっていて、傾斜のつけられたブラインドからは、向こう側に誰かがいるのか、隙間から影が動いているのが見えた。







周りを見渡しだんだんはっきりしていく思考によって、もうすでに日本の研究所にいるんだとわかった。



どうしようもない絶望感と沈む気持ちに体もつられ、血の気が引いていく感覚がする。



手足に血が巡らず鉛のように重くなった体に耐えきれずゆっくりと目をつむった。


途端にうまくいかない呼吸を抑えようと、口の端から息が漏れる。ぐるぐると巡る後悔が頭を支配していた。




今まで考えたくなくて無視していたこと。


なんであの時逃げなかったんだろう?

車椅子に乗せられた時、なんでおとなしく運ばれてしまったのだろう?

何度もチャンスはあったのに僕は逃げる選択を選ばなかった。




どうせもう無理だからと割り切っていた。
イギリスの研究所ではそうしていた。





誰かに助けてもらえるかもしれない。
このおかしくなった体を元に戻せるかもしれない。

日本に帰ることで何か変わるかもしれないと期待していた自分がいたのも事実で。

助けてもらえるってなんだろう?
もう元には戻らないのに。

今更後悔しても遅いと目の前の現実が突きつけられる。



もっと早く逃げればよかった。

そうしたらちょっと欠陥があるただのdomでいれたのに。



















考えることに疲れ、身じろぎもできずに天井をボーッと眺めていると、完全には閉じられていないブラインドの奥から、なにやら音が聞こえる。


ピッピッピッと研究所で聞いたことがある電子音が時折鳴り、ゴロゴロとカートを押す音。


前の研究所の方が激しい音や怒声があちこちで聞こえていてうるさかったけど、暗くて物寂しい雰囲気が前の研究所と似ていて落ち着かない。





いつの日か、連日の実験のせいでひどい体調不良に苛まれていたとき、ここに似た部屋で放置されていたっけ…


あの時もひとりでいたけど、まだ仲間がいたから少々酷い目にあっても気丈でいられた。


なんなら今の方が孤独で気が休まらない…




嫌な記憶しかない前の研究所のことをわざわざ思い出してしまうような部屋で、一人静かにしているからか些細な物音でさえ過敏に拾ってしまう。

気になって聞こえなくていいものまで聞こうとして、余計に怖くなる。





もうやめて無視しておこうと思うのに、気づけば窓に視線が張り付いていて体がこわばっていた。



いつ誰がくるのか、何をされるのか。

物音が近づいてこないか、変わった音が鳴ったりしないか、聞こえる声が自分のことを話していないか。


急にドアが開いたりしないで。
影がこっちに気づきませんように。


自分の呼吸の音でさえ気づかれそうで、さらに小さく息を殺していた。








しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

絶対服従執事養成所〜君に届けたいCommand〜

ひきこ
BL
少数のDomが社会を支配する世界。 Subと診断された者にはDomに仕える執事となるため英才教育が施され、衣食住が保証され幸せに暮らす……と言われているのは表向きで、その実態は特殊な措置によりDomに尽くすべき存在に作り変えられる。 Subの少年ルカも執事になるほかなかったが、当然そこには人権など存在しなかった。 やがてボロボロに使い捨てられたルカと、彼のことをずっと気にかけていた青年との初恋と溺愛とすれ違い(ハッピーエンド)。 ◆Dom/Subユニバース設定の世界観をお借りしたほぼ独自設定のため、あまり詳しくなくても雰囲気で読んでいただけるかと思います。ハードなSM的描写はありません。 ◆直接的な描写はありませんが、受け・攻め どちらも過去にメイン相手以外との関係があります。 ◆他サイト掲載作に全話加筆修正しています。 ※サブタイトルは試験的に付けており、変更の可能性があります ※表紙画像はフリー素材サイトぴよたそ様よりお借りしています

朔の生きる道

ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より 主人公は瀬咲 朔。 おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。 特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

処理中です...