手折られた天使の黙示録

大和菫子

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1章 We love, because He first loved us.

籠から籠へ3

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國吉先生side




空港の国際線、第3ターミナルの到着出口付近で落ち合う約束をしてからすでに1時間。



「しつれいですが國吉先生ですか」

てっきり出口から出てそのまま引き渡しするのかと思っていたが、まさか後ろから声をかけられるとは思ってなかった。




「はい、小児ダイナミクス科の國吉です。」

そう答えると首にかけている身分証を見せつつ、内ポケットから病院の名刺を渡す。


向こうは名刺を一瞥し、懐のポケットにいれた。




「わたくしエージェントのルシアン・レクスフォードです。どうぞよろしく。」


黒スーツに夜の空港内で奥が透けないサングラスをつけているこの男。

金髪に高身長でやけに目立つ。

それでいて日本語も申し分ないレベルだ。

連絡を取り合う中でも思ったがなんだか気になる、というより醸し出す雰囲気と異様な笑みがどうもチグハグで一致しない。



電話越しにも感じた胡散臭さがもろに出ているという印象だ。








挨拶を交わす後ろで、スーツの男たちに囲まれて見えなかったが、車椅子に乗って頭からすっぽりブランケットをかけられている子どもが目に入った。


手はだらんと膝におろされ、体が右に傾いている。
熟睡しているのか、前に倒れないように浅く座っているようだった。




黒スーツの隙間からかろうじて見えた、黒い7分丈ズボンからのぞく足首は細く、煌々と照らされた灯りで青白く見えた。



視線が車椅子の子どもに移ったのが分かったのか、イギリスから日本へ来る途中の詳細をエージェントが話し出す。

聞いたところ、問題なく申し送り通り安定して来れたみたいだ。




ただ一つ気になることを聞く。





「このブランケットはなんです?」

「あぁ、視線が気になるかと思いましてね。無駄に患者を刺激して暴れられると余計に到着が遅れますから。」


合理主義なのか一度到着が遅れているからなのか、本人が望んだのならまだしも、フードを被らせるとかあるだろ…



黒スーツの軍団にブランケットかぶっている車椅子の子供の絵面が悪すぎる。


どうみてもブランケットで見えないように死体を運んでいるようにしか見えないし、良くて誘拐の現場だ。





現に今もちらちらと視線が痛い。





仲間だと思われたくないので、さっさと引き取ろう。


「とりあえず無事に着いてよかったです。あとはこちらで」

車椅子に近づき後ろのハンドルを掴もうと手を伸ばした時、エージェントがガッと腕を掴んできた。

つかむにしては強めの力で握られ少し痛い。



「なんです?」

なんだこの手は?離せ、という本心をこの一言に含ませイラついたように言うが、どちらかというと戸惑いの方が大きい。


早く退散したいのに、本当になんなんだこの男は。





「いえ、病院まで同行するようにと言われてますので」

「聞いてないですし、ここまでで結構ですよ」

そんな話は一切出てない。
護送計画書にもなかったはずだがどういうつもりだ。





「これは誰の指示ですか?ここはもう日本ですよ。
イギリスとは状況が違いますし、あなたたちができることはもうないです。」


予定外の介入でイライラしているのを隠さずに突き放すように言う。

一緒についてきた看護師がこの状況に後ろでオロオロしているのが見えた。




「それは言えません。ただこの患者は元はこちらで治療していました。預かり先の環境は確認しておかないといけない。」




預かり先だと?


この患者は今後うちで診ていく。


先方との連携が取れるのであればそうするが、カルテや研究内容さえも知らされていないんだぞ。

丸投げの責任を負わされるのはこっちなんだ。



「中途半端に関わりを持とうなんて思わないでくれ」

そう言って最初からソリの合わないこいつを冷たい目でいなした。





 

数秒この男と睨み合う。



無駄だと分かって諦めたのか、こっちを見ながらため息をつかれた。


「そんなこと言わないでくださいよ、國吉先生。」


「こっちも立場ってものがあるんですよ。少しは汲みとってもらえませんか。」


「これも患者のためです。依頼者にいい報告がしたいだけですよ。Dom/Subのための最新施設に文句なんか言いません。」


作戦変更、とでもいうように攻めの種類を変えてきた。





「部外者は立ち入り禁止だ。」


「いいえ、関係者です。」











先生、そろそろもう…

後ろから気配を消していた看護師が耳打ちで催促する。




「はぁ、わかりました。ついてくるなら勝手にどうぞ。ただし院内は許可がないと入れないですし、許可を取るんならそちらで勝手にお願いします。」


「ええ、もちろんそうします。」


張り付いた笑顔に意図の読めないサングラスの奥は、目に光も何もなかった。




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