手折られた天使の黙示録

大和菫子

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1章 We love, because He first loved us.

籠から籠へ2

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國吉先生side

一度空港に迎えに行ってから丸一日、エージェントから再び病院に連絡が入った。




エージェントが所属しているチームには精鋭揃いの兵と医師がいる。

国に縛られずどこにも所属しない完全なる私兵軍団。

特別に編成された、世界中を飛び回る新進気鋭の軍事組織。


Dom/Subに関連する紛争や国際機関に協力したり、Domによる世界的組織に取り入り、政治に介入しているなどとの噂がある。





正直に言うと、のらりくらりと何をしているかわからない。
いまだに信用に値するかどうか決めかねる部分がある。



患者の運搬に医師がいるチームを使うのは絶対条件。

この条件を提示したとき、真っ先に浮かぶような有名な非営利団体に頼むものだと思っていたが、蓋を開ければこれだ。


政府とイギリスの間でどのように決められたかはわからないが巻き込まれる患者はたまったものじゃない。




無事に着いてそのまま縁を切れたら大団円ってところか。







昨日用意した救急バックの中身を点検しながら、エージェントからの申し送りによると患者の体調は概ね良好。

到着時に一度目を覚ましたが、薬を飲ませてまた眠らせてある。Sub性の発現なし、発熱なども無し、精神面にも問題はなし。



使った薬からして起きるのは8時間後くらいか。


夜中に起きて薬の影響で暴れる可能性があるし、今日は仮眠する時間が取れそうにないな。


もし暴れても俺は非力だからな、新人の佐久眞先生に盾になってもらおう。


こう言う時は骨の1本や2本折る覚悟で行かなければならないが、適任がいれば丸投げしている。


度胸も技量もまだまだだが、タッパだけは十分にある先生はここで活躍してもらおう。








そうこう考えているうちに送迎車にたどり着く。


今から迎えに行って引き渡してもらい、病院まで往復2時間、急な入所だか準備は出来ている。



深夜帯だからスタッフが少ないが、鶴見先生が学会から一度戻ってきてくれるから、朝まで保たせてなんとか乗り越えなければ。


佐久眞先生の心の準備がまだそうだが、今頃天満先生と初日の流れをチェックしてもらっているはずだ。







sub用抑制剤や鎮静剤が入っている赤い救急バックを棚に置き、送迎車に乗りこんだ。

シートベルトを締め運転手に出してもらう。



ワンボックス車に患者が乗るストレッチャー、普通の救急車よりは物が少なくて広々としている。


窓にかかるカーテンは外が見えないように、厚めの生地で目隠しされていて日光も夜のライトも遮る。



今日の休憩は期待できないから、少しでも寝て回復しておこう。



座り心地の悪い簡易イスにお尻が痛くなりそうだと思いながら、足を組んで寝る体制をとった。






 


佐久眞先生side

えーと、さっき國吉先生が出発したから最低でも戻ってくるのに2時間はかかるとして、ベッドの準備はほぼ出来てるし、あとは初日の検査をいくつかオーダーして、問診表、同意書の説明と…ってこれどうするんだっけ?


入院のしおり?聖フィリア学園入所の手引き?
これどこからどこまで説明するんだ…




いつも看護師さんが用意しててくれたから大まかな治療の説明くらいしかしてなかったけど、やること多くないか。

患者も来てすぐにこんな説明されてもわかんないだろ…



初の担当患者で入所の説明からするなんて初めて。
何をどうすればいいのかわかんねぇ…



と言うか親御さんに同意書書いてもらうの、今回はパスって言われたけどいいのか?


なんだか訳アリっぽい感じを先生の特別待遇ぶりから感じる。

最近は世界各地で起こる第二性関連の事件が多い。
それと何か関係あるんだろうか。


まぁ、入所頑固拒否してくる面倒な親を説得するより何倍もマシだ。




言われた通り保護者欄は全部空欄で提出しよう。


用意した書類や冊子を病院のロゴが入った茶色のA4封筒に入れておく。


よくよく考えれば深夜の入所ってできることあんまりないんじゃないか?

薬で眠ってるらしいし、患者の現在の状態でさえなんの情報もない。


國吉先生が患者はイギリスから来るから、薬の切り替えで何か影響が出るかもって言っていたけど、事前準備できる情報が全くもって足りない。

考えれば考えるほど訳わかんなくなってきた。

やっぱり俺足手纏いすぎる…天満先生帰らないでくれ…





コンコンッ
「佐久眞先生ー、どう準備進んでる?」

ナースステーション奥の部屋で慣れない事務作業してるオレに軽く聞いてくる先生。


「天満先生、今日は帰らないでください!」


「何言ってんの笑、今日は國吉先生が迎えで抜ける数時間、穴埋めにきただけなんだから先生が帰ってきたら俺も帰るよ。」

「それより治療計画見たけど短期じゃなくて年単位の長期で出してね。たぶん控除認定すぐ出ると思う。」

「え?なんで出るってわかるんですか?」

「国がわざわざお金だして帰らせるくらいの患者だよ?最初に手を出したんだから最後まで面倒見るはず。」


そっか、確かにそうだな。

「わかりました。修正します。」

「うん、よろしく。あぁ、そうだ、もし患者が暴れたりしたら体張って止めてねー。國吉先生細身だから本気で暴れられたらたぶん抑えられないと思う。」

「…はい、盾になれと言うことですね笑」


そんな気はしていたからまぁいいけど、子供とはいえ力強いんだよなぁ。
脛とか蹴られたら痛いし。



心配事が増えて胃がキリキリしてきた。


はぁ、無事に朝をむかえられますように…
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