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1章 We love, because He first loved us.
籠から籠へ1
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いつの間にか寝ているうちに日本に着いたらしい。
飛行機でだいたい17時間と空港での出入国の手続き、丸一日近く僕は記憶がなかった。
commandのおかげなのか、離着陸の振動にさえ気づくことなく眠りこけていた。
一緒にいたはずのサイモン先生は隣にいなくて、代わりにブラックスーツに防弾チョッキを着ているボディーガードらしい人が、5.6人周りを取り囲うようにいた。
体格のいい見知らぬ大人に囲まれるだけで、研究所にいた時を思い出して息が詰まる。
緊張でだんだん口が乾いてくるし、雰囲気にのまれそうだ。
本当は座り心地も寝心地もいいはずのプライベートジェット機の深く沈みこむシートが、柔らかい拘束のように感じる。
少しでも身じろぐことさえ許さないと、見えない圧でおさえこまれている感覚。
高級な革のシートは足がつかないくらい沈み込んで、余計に動けない。
近くの窓を見れば景色は止まっていて、すでに到着していることに気づいているはずなのに、周りのスーツの男たちは誰一人動かず、声も出さない。
シートのはるか後ろの方では誰か電話をしているのか、話し声が聞こえる。聞き耳を立ててみるが内容はわからなかった。
じっとしつつ、刺激しない様に大人しくして、
そのままたっぷり30分は待っただろうか。
後ろで電話していた男がこちらに来て号令をかける。
急に両腕を取られ宙ぶらりんになりながら、いつの間にか用意されていた車椅子に乗せられた。
頭の上からバサっと毛布がかけられる。
取り払おうと瞬間的に毛布を掴んだ手を押さえられ、手すりに戻された。
背後から電話をしていた男の声が耳元で囁く。
「大人しくしていろ。」
「このまま何事もなく俺たちに仕事を終わらせてくれ」
この一言が重く響く。
びっくりして固まった体とは正反対に、頭はあれやこれやとフル回転でさっきの意図を推し量る。
その合間にゆっくりと進み出す車椅子。
前が見えないまま車椅子に乗るのって怖いんだな…と考えが一つまとまった僕は、思考停止して出た車椅子の感想に自分で呆れて力が抜けた。
ゆっくり背もたれに体を預けて彼の言う通り、大人しくする事にして、突然くる振動に舌を噛みそうになりながら、車椅子の手すりを握りしめた。
毛布の隙間からこっそりと見た、僕の小さめなバックパックはスーツの男のうちの1人に持たされていた。
僕の荷物はパスポートと連絡用に持たされた端末、着替え、餞別が少し。
あとは他の子からもらった手紙。
預けていた少しの荷物でさえ返してもらえず、車椅子に乗ったまま少し粗い介助でどこかへと連れて行かれる。
ここまで来てようやく、自分は自由の身になったわけでもなく、研究から逃れたわけでもない、監視の場所がたんにかわっただけだと思い知った。
研究所で言われた言葉が反芻する。
「実験が終われば元に戻れると思っているだろうが、そんな甘いことがあるか。
少しでも使える部分があればしゃぶってても貪り尽くすに決まっているだろう?
お前のような優秀で使い勝手のいい実験体はそうそう手に入らないからな。
壊したおもちゃはもう戻らないんだ。いくら取り繕ったってキズ跡は残る。
いい加減諦めて籠の中の鳥として生きればいいんだ。」
最後の実験の後、
気を失ってからすぐ、あの施設と同じ地域に小さい診療所を構えているサイモン先生が、噂を聞きつけ助けに来てくれた。
面識はなかったけど、優しい雰囲気から眉間に刻まれた皺が心配からくるものだとすぐにわかった。
サイモン先生は大柄の体格にブラウンチェックのズボンにサスペンダー、白髪にメガネとすごくカントリーな格好をして、60は超えるみために似合わず、向かってくる研究者たちを投げ飛ばし、いまだ痛みと薬のせいで動けない僕を運んでくれた。
他に兵もいたのか、あっという間に制圧し、施設は運用停止に追い込まれたらしい。
この後、今いる子供達と僕はサイモン先生の家で引き取られることになったが、30人以上いる子供全員は難しかった様だ。
身元と家がわかる子は政府の事情を知る人間が迎えに来て早々に連れ帰って行った。
残った子供達の中で少しでも実験の影響が伺えるものは他の病院に入院。
残った子たちはとりあえずサイモン先生の家で過ごすらしい。
僕はあれからずっと体調が悪くて、サイモン先生の診療所にいたけど、とうとう僕にも日本大使館から帰国命令が来た。
別れの日、
サイモン先生や他の子供たちと会うのもこれで最後だ。
みんなには感謝してる。
他の子供達がいなければ僕はとっくに心が折れて自殺でもしていただろうから。
サイモン先生も助けに来てくれて僕たちを救ってくれた。
療養していた時もタバコで若干、しわがれた声でcommandを放ち落ち着かせてくれた。
副作用や禁断症状が出ても対処の方法を教えてくれた。
──サイモン先生には元気で長生きしてほしい。
そう思えるくらい今までで一番、人として時間を過ごせたと思う。
日本に帰って僕はどうなるのだろう?
今度は本当に一人だ。
飛行機でだいたい17時間と空港での出入国の手続き、丸一日近く僕は記憶がなかった。
commandのおかげなのか、離着陸の振動にさえ気づくことなく眠りこけていた。
一緒にいたはずのサイモン先生は隣にいなくて、代わりにブラックスーツに防弾チョッキを着ているボディーガードらしい人が、5.6人周りを取り囲うようにいた。
体格のいい見知らぬ大人に囲まれるだけで、研究所にいた時を思い出して息が詰まる。
緊張でだんだん口が乾いてくるし、雰囲気にのまれそうだ。
本当は座り心地も寝心地もいいはずのプライベートジェット機の深く沈みこむシートが、柔らかい拘束のように感じる。
少しでも身じろぐことさえ許さないと、見えない圧でおさえこまれている感覚。
高級な革のシートは足がつかないくらい沈み込んで、余計に動けない。
近くの窓を見れば景色は止まっていて、すでに到着していることに気づいているはずなのに、周りのスーツの男たちは誰一人動かず、声も出さない。
シートのはるか後ろの方では誰か電話をしているのか、話し声が聞こえる。聞き耳を立ててみるが内容はわからなかった。
じっとしつつ、刺激しない様に大人しくして、
そのままたっぷり30分は待っただろうか。
後ろで電話していた男がこちらに来て号令をかける。
急に両腕を取られ宙ぶらりんになりながら、いつの間にか用意されていた車椅子に乗せられた。
頭の上からバサっと毛布がかけられる。
取り払おうと瞬間的に毛布を掴んだ手を押さえられ、手すりに戻された。
背後から電話をしていた男の声が耳元で囁く。
「大人しくしていろ。」
「このまま何事もなく俺たちに仕事を終わらせてくれ」
この一言が重く響く。
びっくりして固まった体とは正反対に、頭はあれやこれやとフル回転でさっきの意図を推し量る。
その合間にゆっくりと進み出す車椅子。
前が見えないまま車椅子に乗るのって怖いんだな…と考えが一つまとまった僕は、思考停止して出た車椅子の感想に自分で呆れて力が抜けた。
ゆっくり背もたれに体を預けて彼の言う通り、大人しくする事にして、突然くる振動に舌を噛みそうになりながら、車椅子の手すりを握りしめた。
毛布の隙間からこっそりと見た、僕の小さめなバックパックはスーツの男のうちの1人に持たされていた。
僕の荷物はパスポートと連絡用に持たされた端末、着替え、餞別が少し。
あとは他の子からもらった手紙。
預けていた少しの荷物でさえ返してもらえず、車椅子に乗ったまま少し粗い介助でどこかへと連れて行かれる。
ここまで来てようやく、自分は自由の身になったわけでもなく、研究から逃れたわけでもない、監視の場所がたんにかわっただけだと思い知った。
研究所で言われた言葉が反芻する。
「実験が終われば元に戻れると思っているだろうが、そんな甘いことがあるか。
少しでも使える部分があればしゃぶってても貪り尽くすに決まっているだろう?
お前のような優秀で使い勝手のいい実験体はそうそう手に入らないからな。
壊したおもちゃはもう戻らないんだ。いくら取り繕ったってキズ跡は残る。
いい加減諦めて籠の中の鳥として生きればいいんだ。」
最後の実験の後、
気を失ってからすぐ、あの施設と同じ地域に小さい診療所を構えているサイモン先生が、噂を聞きつけ助けに来てくれた。
面識はなかったけど、優しい雰囲気から眉間に刻まれた皺が心配からくるものだとすぐにわかった。
サイモン先生は大柄の体格にブラウンチェックのズボンにサスペンダー、白髪にメガネとすごくカントリーな格好をして、60は超えるみために似合わず、向かってくる研究者たちを投げ飛ばし、いまだ痛みと薬のせいで動けない僕を運んでくれた。
他に兵もいたのか、あっという間に制圧し、施設は運用停止に追い込まれたらしい。
この後、今いる子供達と僕はサイモン先生の家で引き取られることになったが、30人以上いる子供全員は難しかった様だ。
身元と家がわかる子は政府の事情を知る人間が迎えに来て早々に連れ帰って行った。
残った子供達の中で少しでも実験の影響が伺えるものは他の病院に入院。
残った子たちはとりあえずサイモン先生の家で過ごすらしい。
僕はあれからずっと体調が悪くて、サイモン先生の診療所にいたけど、とうとう僕にも日本大使館から帰国命令が来た。
別れの日、
サイモン先生や他の子供たちと会うのもこれで最後だ。
みんなには感謝してる。
他の子供達がいなければ僕はとっくに心が折れて自殺でもしていただろうから。
サイモン先生も助けに来てくれて僕たちを救ってくれた。
療養していた時もタバコで若干、しわがれた声でcommandを放ち落ち着かせてくれた。
副作用や禁断症状が出ても対処の方法を教えてくれた。
──サイモン先生には元気で長生きしてほしい。
そう思えるくらい今までで一番、人として時間を過ごせたと思う。
日本に帰って僕はどうなるのだろう?
今度は本当に一人だ。
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