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甘くて苦い攻防戦
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ハートを模したケーキ皿に乗ったフレンチトーストを見て、茜はごくりと息を呑んだ。
「まぁったくもう、どうしてアタシがチャラ男なんかと相席しなきゃなんないのよ」
「嫌だったら帰ってもらってもいいんだけど? やだねぇ、口先ばっかの人間は」
「その言葉クーリングオフしてあげるわ。本当に全身ペラペラのクセに面の皮だけはブ厚い男なんだから。そもそもねぇ、アタシと茜ちゃん一緒に食事をするはずだったのよ」
「あーそうだったの? それは悪い事をしたかなぁ」
「そう思うなら、さっさと帰るかお店変えてくれない? スイーツ苦手なんでしょ」
「せっかく久しぶりに茜ちゃんとお休みブッキングしたんだよ、そんな勿体無い事できるはずないじゃん。オネエサマはいいよね、週に一回は茜ちゃんと顔を合わせられて……本当に、羨ましいなあ」
「ふふんっ、そうよ。この可愛い姪っ子ちゃんを朝から晩までをアタシは思う存分堪能して……」
「あ、あのっ!」
向かい合わせに座った叔父と夫の延々と続きそうな口論を、なるべくスルーしていた茜だが、叔父の話がおかしな方向へ進みそうになったのを切っ掛けに、声を上げた。示し合わせたかのように二人の視線が茜へ向けられ、思わずびくりとする。いつもヘラヘラ笑っている夫の双眸はその時、瞳孔が開いていた……。
「どうしたの、茜ちゃん」
「どしたの、ルビーちゃん」
同時に問いかけられ、茜は一瞬怯んだ。しかし、滅多にない機会を掴んだのだから、今言わずにどうするんだ。自らを奮い立たせるようにフォークを握る手に力を込める。
「キースさん、それ食べないなら私に頂戴」
そして勇気を出して、夫の前に置かれた、一口しか食べられていないベーコンとホウレン草のキッシュを指した。甘い物は好きだが、食べ続けるとしょっぱい物が欲しくなる。気まずい沈黙が流れたのは一瞬で、夫はにっこりと満面の笑みを浮かべ、その皿を妻の前に差し出す。
「何だったら、俺が食べさせてあげてもいいよ。ほら茜ちゃん、あーんして、あーん」
「ちょっとやめてよねアンタの店じゃないんだから! ルビーちゃん、そんな事をしなくても追加で注文して良いから!」
「え、じゃあ、この黒蜜きな粉プリンっていうのを……」
「……今日は特別よ。すみませぇん、そこの店員さぁん!」
「ええっ、ほ、ホントに良いの?」
「アタシのも食べていいわよ」
「茜ちゃんフルーツ入ったお菓子苦手だけど?」
「乗ってるの避けたらいいんでしょ」
いつもは栄養バランスがどうのコレステロールがどうのと小難しい事を言って、甘い物は週に一個と言う叔父の言葉に、茜は驚いて眼を丸めた。実際に店員に注文をしてくれている様子を見ると、思わず頬が緩む。スイーツの食べ比べは、一度はやってみたいと思っていたものだ。
「あーあ、物で関心を釣るなんて、本当に卑怯なオジサン」
「ふん、アンタにだけ言われたくはない。あとオネエサマとお呼びなさい」
「四十路近い男が何言ってんの?」
未だに延々と続きそうな二人の口喧嘩をBGMに、茜は「早く食べたいなぁ」とプリンを持った店員の姿が見えるのを心待ちにしているのだった。
彼女の身内の喧嘩は、この食事会が済んでも、あらゆる意味で終わりそうにない。
「まぁったくもう、どうしてアタシがチャラ男なんかと相席しなきゃなんないのよ」
「嫌だったら帰ってもらってもいいんだけど? やだねぇ、口先ばっかの人間は」
「その言葉クーリングオフしてあげるわ。本当に全身ペラペラのクセに面の皮だけはブ厚い男なんだから。そもそもねぇ、アタシと茜ちゃん一緒に食事をするはずだったのよ」
「あーそうだったの? それは悪い事をしたかなぁ」
「そう思うなら、さっさと帰るかお店変えてくれない? スイーツ苦手なんでしょ」
「せっかく久しぶりに茜ちゃんとお休みブッキングしたんだよ、そんな勿体無い事できるはずないじゃん。オネエサマはいいよね、週に一回は茜ちゃんと顔を合わせられて……本当に、羨ましいなあ」
「ふふんっ、そうよ。この可愛い姪っ子ちゃんを朝から晩までをアタシは思う存分堪能して……」
「あ、あのっ!」
向かい合わせに座った叔父と夫の延々と続きそうな口論を、なるべくスルーしていた茜だが、叔父の話がおかしな方向へ進みそうになったのを切っ掛けに、声を上げた。示し合わせたかのように二人の視線が茜へ向けられ、思わずびくりとする。いつもヘラヘラ笑っている夫の双眸はその時、瞳孔が開いていた……。
「どうしたの、茜ちゃん」
「どしたの、ルビーちゃん」
同時に問いかけられ、茜は一瞬怯んだ。しかし、滅多にない機会を掴んだのだから、今言わずにどうするんだ。自らを奮い立たせるようにフォークを握る手に力を込める。
「キースさん、それ食べないなら私に頂戴」
そして勇気を出して、夫の前に置かれた、一口しか食べられていないベーコンとホウレン草のキッシュを指した。甘い物は好きだが、食べ続けるとしょっぱい物が欲しくなる。気まずい沈黙が流れたのは一瞬で、夫はにっこりと満面の笑みを浮かべ、その皿を妻の前に差し出す。
「何だったら、俺が食べさせてあげてもいいよ。ほら茜ちゃん、あーんして、あーん」
「ちょっとやめてよねアンタの店じゃないんだから! ルビーちゃん、そんな事をしなくても追加で注文して良いから!」
「え、じゃあ、この黒蜜きな粉プリンっていうのを……」
「……今日は特別よ。すみませぇん、そこの店員さぁん!」
「ええっ、ほ、ホントに良いの?」
「アタシのも食べていいわよ」
「茜ちゃんフルーツ入ったお菓子苦手だけど?」
「乗ってるの避けたらいいんでしょ」
いつもは栄養バランスがどうのコレステロールがどうのと小難しい事を言って、甘い物は週に一個と言う叔父の言葉に、茜は驚いて眼を丸めた。実際に店員に注文をしてくれている様子を見ると、思わず頬が緩む。スイーツの食べ比べは、一度はやってみたいと思っていたものだ。
「あーあ、物で関心を釣るなんて、本当に卑怯なオジサン」
「ふん、アンタにだけ言われたくはない。あとオネエサマとお呼びなさい」
「四十路近い男が何言ってんの?」
未だに延々と続きそうな二人の口喧嘩をBGMに、茜は「早く食べたいなぁ」とプリンを持った店員の姿が見えるのを心待ちにしているのだった。
彼女の身内の喧嘩は、この食事会が済んでも、あらゆる意味で終わりそうにない。
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