4 / 7
腹ごしらえ【購買】
しおりを挟む
「あっ」
「む……」
三時間目が終わった休み時間。いつものように購買に並んだ夏都華は、そこで珍しい人物に出会った。普段なら昼食までは何も食べたりはしないであろう。音楽総合部の部長の秋燈である。
「アキじゃないの、珍しいわね」
「まあな。それより、お前のクラスは前の時間は体育だったのだろう?随分と早く着替えるんだな」
「あー、まあ着替えんのは早い方……って何で知ってんのよ?」
「春猫がわざわざ言いにきたんだ」
「あいつ、ほんっと目聡いわ……」
夏都華のすぐ前に並んだ秋燈は、この時間に生徒でごった返す購買に慣れていないのだろう。時おり眉間に皺を寄せているのが判った。はっきり言って奇妙だというのが率直な感想だ。
「アキが早弁ってイメージでもないんだけど……」
「今日はたまたまだ。本来なら食べなくてもいいのだが、生憎次の時間に小テストがあるのでな」
腹が減っては戦はできぬとか、そういった類なのだろう。夏都華は勝手に結論付けて「さすがアキね」とだけ答えておいた。その答えに秋燈は少しだけ眉を顰めたが、別段気にした様子もなく続けた。
「数学だからな」
「数学ねぇ……アタシのクラスも明日あるわ、そういえば」
「木栄月が中々捻った問題が出題されていたと言っていたぞ」
「やばー、ただでさえ赤点ギリギリ凌いでるのに……ハルにでも聞くか」
「やめておけ。陽炎の説明は高度すぎて分からん。鷦鷯辺りが適任だろう」
そう秋燈は言い切る。いざ教えを請おうと思うと、これが厄介なのだ。何しろ説明がとても難しい。要領を得ているのだが、とにかく言い回しが独特すぎるのだ。
「意外ねぇ、アキがそう言うなんて」
「何だ、俺は事実を言ったまでだぞ」
「ああごめん。まあ、ハルの説明は難しいってのはこの前にショータがさんざんぼやいてたからね。アタシはまだ聞いた事はないけど、少しは解るわ」
「……炎天堂が?」
「ええ、何でも先週だったっけ? アイツのクラスも数学の小テストだったらしくてね、このままじゃ追試だ! とか騒いでヒバリに泣きついてたの偶然見かけたの」
「あいつが春朝に泣きつくとは、珍しい事もあるものだな。梅桜の方が適役だろう」
「アタシも最初そう言ってやったんだけど、あいつ「梅桜は教えてもらってる途中に鬼になるんスよ!」とか言いやがって、結局あずきになったわけ」
「やれやれ……」
まあ春朝なら、要領よく付け焼刃でも大丈夫なように教えるだろうな。秋燈は要領の良い後輩を思ったのか、ため息をつきつつもそう呟いた。
「アキぃ、アンタ列の先頭よ」
「む」
いつの間にか並んでいた列の先頭にきてしまった事を。秋燈は気づかなかったらしい。購買のガラスケースに入った食品を一通り眺めた。
「で、何を買うの?」
「ふむ……適当に……クリームパンか」
「(似合わない!)」
「何だ」
「いや、アンタだったらおにぎりでも買うのかと思って」
「ないのだから仕方ないだろう。おかしなやつだな」
顔をうつむけて必死で笑うのを我慢している同級生を無視し、秋燈はさっさとクリームパンを注文していた。
「む……」
三時間目が終わった休み時間。いつものように購買に並んだ夏都華は、そこで珍しい人物に出会った。普段なら昼食までは何も食べたりはしないであろう。音楽総合部の部長の秋燈である。
「アキじゃないの、珍しいわね」
「まあな。それより、お前のクラスは前の時間は体育だったのだろう?随分と早く着替えるんだな」
「あー、まあ着替えんのは早い方……って何で知ってんのよ?」
「春猫がわざわざ言いにきたんだ」
「あいつ、ほんっと目聡いわ……」
夏都華のすぐ前に並んだ秋燈は、この時間に生徒でごった返す購買に慣れていないのだろう。時おり眉間に皺を寄せているのが判った。はっきり言って奇妙だというのが率直な感想だ。
「アキが早弁ってイメージでもないんだけど……」
「今日はたまたまだ。本来なら食べなくてもいいのだが、生憎次の時間に小テストがあるのでな」
腹が減っては戦はできぬとか、そういった類なのだろう。夏都華は勝手に結論付けて「さすがアキね」とだけ答えておいた。その答えに秋燈は少しだけ眉を顰めたが、別段気にした様子もなく続けた。
「数学だからな」
「数学ねぇ……アタシのクラスも明日あるわ、そういえば」
「木栄月が中々捻った問題が出題されていたと言っていたぞ」
「やばー、ただでさえ赤点ギリギリ凌いでるのに……ハルにでも聞くか」
「やめておけ。陽炎の説明は高度すぎて分からん。鷦鷯辺りが適任だろう」
そう秋燈は言い切る。いざ教えを請おうと思うと、これが厄介なのだ。何しろ説明がとても難しい。要領を得ているのだが、とにかく言い回しが独特すぎるのだ。
「意外ねぇ、アキがそう言うなんて」
「何だ、俺は事実を言ったまでだぞ」
「ああごめん。まあ、ハルの説明は難しいってのはこの前にショータがさんざんぼやいてたからね。アタシはまだ聞いた事はないけど、少しは解るわ」
「……炎天堂が?」
「ええ、何でも先週だったっけ? アイツのクラスも数学の小テストだったらしくてね、このままじゃ追試だ! とか騒いでヒバリに泣きついてたの偶然見かけたの」
「あいつが春朝に泣きつくとは、珍しい事もあるものだな。梅桜の方が適役だろう」
「アタシも最初そう言ってやったんだけど、あいつ「梅桜は教えてもらってる途中に鬼になるんスよ!」とか言いやがって、結局あずきになったわけ」
「やれやれ……」
まあ春朝なら、要領よく付け焼刃でも大丈夫なように教えるだろうな。秋燈は要領の良い後輩を思ったのか、ため息をつきつつもそう呟いた。
「アキぃ、アンタ列の先頭よ」
「む」
いつの間にか並んでいた列の先頭にきてしまった事を。秋燈は気づかなかったらしい。購買のガラスケースに入った食品を一通り眺めた。
「で、何を買うの?」
「ふむ……適当に……クリームパンか」
「(似合わない!)」
「何だ」
「いや、アンタだったらおにぎりでも買うのかと思って」
「ないのだから仕方ないだろう。おかしなやつだな」
顔をうつむけて必死で笑うのを我慢している同級生を無視し、秋燈はさっさとクリームパンを注文していた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
とある高台夫婦の事情(5/19更新)
狂言巡
大衆娯楽
某地の高台に建てられた屋敷には、一妻多夫な三組の夫婦が共同生活している短編連作です。まだそこまで浸透はしていないものの『面倒な手続きを乗りきれば複数人で婚姻してもオッケー!』という法律が存在する世界観です。
黒蜜先生のヤバい秘密
月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
高校生の須藤語(すとう かたる)がいるクラスで、新任の教師が担当に就いた。新しい担任の名前は黒蜜凛(くろみつ りん)。アイドル並みの美貌を持つ彼女は、あっという間にクラスの人気者となる。
須藤はそんな黒蜜先生に小説を書いていることがバレてしまう。リアルの世界でファン第1号となった黒蜜先生。須藤は先生でありファンでもある彼女と、小説を介して良い関係を築きつつあった。
だが、その裏側で黒蜜先生の人気をよく思わない女子たちが、陰湿な嫌がらせをやりはじめる。解決策を模索する過程で、須藤は黒蜜先生のヤバい過去を知ることになる……。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
桜のように散りゆく君へ
桜蛇あねり
ライト文芸
俺、大樹(たいき)と彼女の美桜(みお)は毎年、桜が満開になる時期に合わせて、桜を見に来ている。
桜が好きな美桜は、綺麗に咲いて、綺麗なまま散っていく桜のようになりたい、といつもつぶやいていた。
桜のように散りたがりな君と、散らせたくない俺の物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
うちの使用人は口は悪いが意外と優しい
桃乃いずみ
ライト文芸
名家の跡取りとして高校に通う大上大地(おおがみだいち)。彼には、使用人として仕えてくれる後輩、冴木紗倉(さえきさくら)という幼馴染がいた。
大地には学生生活を送る中で一つの悩みがあった。
「はぁ、彼女が欲しい」
そんな彼の悩みに、代々大上家に仕える家系、冴木家に産まれを持つ紗倉は、使用人兼付き人として大地の悩みに応える。
「いきなり何言ってるんすか先輩。正直キモいっす」
ただ、口は悪かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる