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見てんじゃねーよ
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四季学園の掃除当番のポジション決めは、早い者勝ちというのが暗黙のルールだった。大まかに分けると箒と雑巾がけ。早くに箒をゲット出来ている者は、手が雑巾臭くなって荒れたりする事もない。なので、掃除の時間数分前になると用具箱の前に陣取っておくのがセオリーだといえた。
そんなルールを知らず、それでいて掃除はサボりたいという考えを持ち合わせていない不知火明歌にとっては、雑巾だろうが箒だろうが天秤にかけることさえ思いつかない。邪魔にならないように前髪を上げた彼女は嫌そうな顔をすることもなく雑巾を手にとって、水道まで濡らしに教室から出ていった。そんな様子を、一部始終見ていた竜胆という少年。
本来なら掃除当番自体サボるのだが、明歌と一緒に居られるようになってからはこうしてイヤイヤながら掃除をしている。何せ月に一回の日直当番で被るのは無謀な賭けに近いからだ。
竜胆は本来楽したい派である。だから部活の時以上に俊敏な動作で箒をゲットしていた。その一方で、明歌に箒を渡して自分が雑巾をしようかと思う気持ちも、ある事にはあった。
しかし、やはりなるべくなら自分がしたくない仕事は避けたいという本音の方が強かった。明歌自身辛そうな表情をしているということもなかったので、自分を楽にさせることにしたのだった。
しかしその後、自分に甘い性格が命取りとなる。明歌が雑巾がけをしているのは、別にいい。だが夢中になりすぎて、雑巾をかけるたびにスカートがいちいち捲れてしまいそうになっているのだ。
彼女はタイツではなくニーハイを履いているのでうっかり、なんて事になれば見える。さすがの竜胆も、目を見開き何もないのにむせこんでしまう。明歌はその様子に全く気付いているような様子もなく。竜胆は掃除をいつも以上にそっちのけで、明歌のスカートが完全にめくれてしまわないかハラハラしながら見守ることしか出来なかった。
それが自分だけなら、まだよかったのだ。どうやら周りの男子どもも気づいてしまったらしい。自分のことはさておき。そんないやらしい目で癖毛の彼女を舐めるように見るんじゃないと竜胆は敵意むき出して、他のオオカミどもを睨みつける。
「明歌」
だが何の抑制力にもならないと知った竜胆は、諦めるように明歌を呼んだ。
「何だ、竜胆?」
カンカン帽を被った下から覗く大きな目に見つめられながら、本当はなるべくならやりたくない仕事だけど、竜胆は己に言い聞かせる。
「それ貸せ。俺がやるから」
「え、どうしてだ?」
確かに普段から素っ気なく、いつも雑巾がけをしない人間が、したいなんて言うのは不思議に映るだろう。しかし、お前のパンツが見えそうで心配やねんボケ、なんて答えるのは正直かもしれないが、言われた方からすればストレートな変態発言だ。それに、下手したら明歌を傷つけてしまうかもしれない。
「……とにかく貸せ。あんたは、コレやっとけ」
これ以上会話はしているとボロがでると思った竜胆は、強引に明歌から雑巾を取り上げて、彼女には箒を渡した。結局明歌は何がなんだかよくわからない様子だった。おそらく、向けられる好意に恐ろしく鈍感なことに定評のある彼女が、このことに気づいて竜胆に感謝をすることは無いだろう。でも何故か、竜胆は満足感でいっぱいになった。
男子どもの舌打ちは無視して、いつもは手につく雑巾の臭いが嫌で嫌でしょうがなかったのだが、この時ばかりはこの臭いに不思議と嫌悪感は抱かなかった。
(どんな逆境に立たされても、どんな危機に襲われても、その補正を持つ者は最終的に試練を乗り越え心身ともに成長する……恋心補整は強力なのです!)
そんなルールを知らず、それでいて掃除はサボりたいという考えを持ち合わせていない不知火明歌にとっては、雑巾だろうが箒だろうが天秤にかけることさえ思いつかない。邪魔にならないように前髪を上げた彼女は嫌そうな顔をすることもなく雑巾を手にとって、水道まで濡らしに教室から出ていった。そんな様子を、一部始終見ていた竜胆という少年。
本来なら掃除当番自体サボるのだが、明歌と一緒に居られるようになってからはこうしてイヤイヤながら掃除をしている。何せ月に一回の日直当番で被るのは無謀な賭けに近いからだ。
竜胆は本来楽したい派である。だから部活の時以上に俊敏な動作で箒をゲットしていた。その一方で、明歌に箒を渡して自分が雑巾をしようかと思う気持ちも、ある事にはあった。
しかし、やはりなるべくなら自分がしたくない仕事は避けたいという本音の方が強かった。明歌自身辛そうな表情をしているということもなかったので、自分を楽にさせることにしたのだった。
しかしその後、自分に甘い性格が命取りとなる。明歌が雑巾がけをしているのは、別にいい。だが夢中になりすぎて、雑巾をかけるたびにスカートがいちいち捲れてしまいそうになっているのだ。
彼女はタイツではなくニーハイを履いているのでうっかり、なんて事になれば見える。さすがの竜胆も、目を見開き何もないのにむせこんでしまう。明歌はその様子に全く気付いているような様子もなく。竜胆は掃除をいつも以上にそっちのけで、明歌のスカートが完全にめくれてしまわないかハラハラしながら見守ることしか出来なかった。
それが自分だけなら、まだよかったのだ。どうやら周りの男子どもも気づいてしまったらしい。自分のことはさておき。そんないやらしい目で癖毛の彼女を舐めるように見るんじゃないと竜胆は敵意むき出して、他のオオカミどもを睨みつける。
「明歌」
だが何の抑制力にもならないと知った竜胆は、諦めるように明歌を呼んだ。
「何だ、竜胆?」
カンカン帽を被った下から覗く大きな目に見つめられながら、本当はなるべくならやりたくない仕事だけど、竜胆は己に言い聞かせる。
「それ貸せ。俺がやるから」
「え、どうしてだ?」
確かに普段から素っ気なく、いつも雑巾がけをしない人間が、したいなんて言うのは不思議に映るだろう。しかし、お前のパンツが見えそうで心配やねんボケ、なんて答えるのは正直かもしれないが、言われた方からすればストレートな変態発言だ。それに、下手したら明歌を傷つけてしまうかもしれない。
「……とにかく貸せ。あんたは、コレやっとけ」
これ以上会話はしているとボロがでると思った竜胆は、強引に明歌から雑巾を取り上げて、彼女には箒を渡した。結局明歌は何がなんだかよくわからない様子だった。おそらく、向けられる好意に恐ろしく鈍感なことに定評のある彼女が、このことに気づいて竜胆に感謝をすることは無いだろう。でも何故か、竜胆は満足感でいっぱいになった。
男子どもの舌打ちは無視して、いつもは手につく雑巾の臭いが嫌で嫌でしょうがなかったのだが、この時ばかりはこの臭いに不思議と嫌悪感は抱かなかった。
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