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告白/転機
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二回生になり、進路について考えていた蓮美の前に、予想外の選択肢が現れた。ネットで評判になっていた個展に見に出かけた時、スタッフと客が凄まじい口喧嘩を入口で繰り広げていたので諦めた。それから併設されたカフェで雇用主とバッタリと出会ったのだ。本来、雇用主と従業員がプライベートで出会うなど通常ならば気まずいし、相手もプライバシーの為に見て見ぬふりをする事だろう。相手だって、せっかくのオフに仕事は持ちこみたくない可能性は高い。だが、蓮美は気にせず軽く会釈をした。向こうもそういう方なのか、カフェに誘ってくれた。
そして真面目に付き合ってほしいと言われた。それでいて、「考えてみてほしい。おじさんでダメなら引く」という笑顔付きで。そこでようやく蓮美は『裕福な家庭の専業主婦』という選択肢がある事に気が付いた。この発想はなかった。今の時代には合わないが『永久就職』という選択肢もあったのだ。当然嫁入りというのも、それはそれで多難と苦労の連続であるだろうが、お金があれば色々解決できる事はあるだろう。
どうして、あれほど年上でイケメンなエリート社長が小娘を気に入ったのかは謎だ。男はいつまでも若い女が好きだというから、それなのかもしれないし、真面目に付き合いたいというならトロフィーワイフにしたいのか。泥棒を捕獲する際にちょっとアレな発言と行動をしてしまった時は笑ってすませてくれたのだが、そういう感性が気に入られたとすれば、変な女が好みなのかもしれない。スマートで知的、容姿も整っていて会社経営者。なかなかの優良物件だ。
そんな人物に交際を申し込まれるなど、モテキならではか。それに、恋愛感情かどうかは判らないが、嫌いなタイプではないと思う。社会的距離の取り方も上手く、それでいて温厚な態度。人柄ではなく技術で優しくするというのは、感情に左右されない分、職業人としては尊い事だと思う。習得したい。
「アホかぁ、アルバイトのガキンチョに引っかけようなんてヤツがマトモなはずあるかいな。ロリコンなんとちゃうか」
バミューダは吐き捨てるように言った。それはそうだろう。まともな男なら一介の従業員(しかも女子大生)に手を出そうとするはずもない。お茶をしても「この世界の生活に慣れた?」で留まる。でもなぁ……と思わないでもない。上手くやる事が出来そうな気がしなくともない。何より長期間同じ室内にいて耐えられる。それが大きい。
今までモテた事なんて皆無だったし、ちょっと青春的な事に憧れないわけでもない。恋愛とかすごくアオハルの生き方っぽいではないか。女慣れしていそうだし、遊びであったとしても楽しいかもしれない。恋愛経験がないから想像でしかないが、嫌ならばお断りすればいい。色々奢ってくれそうだ。逆に考えると女に不自由しなさそうで、社会的地位のある大人が発覚すれば醜聞になるような女学生に秋波を送る理由というのが見当もつかない。婚活しなくても縁談の方がやってくるだろうし。
それよりも、露骨に不機嫌そうな目の前の隣人の態度が気にかかった。今まではふらっと隣の部屋に帰って来ては蓮美の部屋にも寄って去っていく。いつ来るかなんて判らないし、どこの誰かも知らない。気まぐれによりつく野良猫に餌でもやっているようだ。彼はどうも銃火器やら危ない薬が出てきそうな仕事に関わっている可能性が高い外国人で成人男性だ。どこにだって行ってしまえるし、詮索はよそう。
余った冷ご飯と、賞味期限が一日過ぎたキムチで作った即席チャーハンを渋い顔をしながら食べているのが可愛いと思う。本当は構いたいが、食事中は流石に控えなければ。それにベタベタされるのが好きでないようなので寂しいと考えていたところで向こうから口を開いたと思ったら、この渋面と解りやすく不機嫌な言葉だ。――これはもしかして、心配或いは嫉妬してくれているんじゃ……。
そこに思い当たって蓮美のテンションは跳ね上がった。大学生が四十路の社会人男性と付き合うとなったら、渋面の一つもしたくなる話だが、他人の事などどうでも良さそうなバミューダが「頭蓋骨の中お花畑やな」と嘲笑で済まさずに忠告をするという事に意味がある。腹を充たして尚、不機嫌そうにしている隣人が更に可愛く思えてきた。
そして真面目に付き合ってほしいと言われた。それでいて、「考えてみてほしい。おじさんでダメなら引く」という笑顔付きで。そこでようやく蓮美は『裕福な家庭の専業主婦』という選択肢がある事に気が付いた。この発想はなかった。今の時代には合わないが『永久就職』という選択肢もあったのだ。当然嫁入りというのも、それはそれで多難と苦労の連続であるだろうが、お金があれば色々解決できる事はあるだろう。
どうして、あれほど年上でイケメンなエリート社長が小娘を気に入ったのかは謎だ。男はいつまでも若い女が好きだというから、それなのかもしれないし、真面目に付き合いたいというならトロフィーワイフにしたいのか。泥棒を捕獲する際にちょっとアレな発言と行動をしてしまった時は笑ってすませてくれたのだが、そういう感性が気に入られたとすれば、変な女が好みなのかもしれない。スマートで知的、容姿も整っていて会社経営者。なかなかの優良物件だ。
そんな人物に交際を申し込まれるなど、モテキならではか。それに、恋愛感情かどうかは判らないが、嫌いなタイプではないと思う。社会的距離の取り方も上手く、それでいて温厚な態度。人柄ではなく技術で優しくするというのは、感情に左右されない分、職業人としては尊い事だと思う。習得したい。
「アホかぁ、アルバイトのガキンチョに引っかけようなんてヤツがマトモなはずあるかいな。ロリコンなんとちゃうか」
バミューダは吐き捨てるように言った。それはそうだろう。まともな男なら一介の従業員(しかも女子大生)に手を出そうとするはずもない。お茶をしても「この世界の生活に慣れた?」で留まる。でもなぁ……と思わないでもない。上手くやる事が出来そうな気がしなくともない。何より長期間同じ室内にいて耐えられる。それが大きい。
今までモテた事なんて皆無だったし、ちょっと青春的な事に憧れないわけでもない。恋愛とかすごくアオハルの生き方っぽいではないか。女慣れしていそうだし、遊びであったとしても楽しいかもしれない。恋愛経験がないから想像でしかないが、嫌ならばお断りすればいい。色々奢ってくれそうだ。逆に考えると女に不自由しなさそうで、社会的地位のある大人が発覚すれば醜聞になるような女学生に秋波を送る理由というのが見当もつかない。婚活しなくても縁談の方がやってくるだろうし。
それよりも、露骨に不機嫌そうな目の前の隣人の態度が気にかかった。今まではふらっと隣の部屋に帰って来ては蓮美の部屋にも寄って去っていく。いつ来るかなんて判らないし、どこの誰かも知らない。気まぐれによりつく野良猫に餌でもやっているようだ。彼はどうも銃火器やら危ない薬が出てきそうな仕事に関わっている可能性が高い外国人で成人男性だ。どこにだって行ってしまえるし、詮索はよそう。
余った冷ご飯と、賞味期限が一日過ぎたキムチで作った即席チャーハンを渋い顔をしながら食べているのが可愛いと思う。本当は構いたいが、食事中は流石に控えなければ。それにベタベタされるのが好きでないようなので寂しいと考えていたところで向こうから口を開いたと思ったら、この渋面と解りやすく不機嫌な言葉だ。――これはもしかして、心配或いは嫉妬してくれているんじゃ……。
そこに思い当たって蓮美のテンションは跳ね上がった。大学生が四十路の社会人男性と付き合うとなったら、渋面の一つもしたくなる話だが、他人の事などどうでも良さそうなバミューダが「頭蓋骨の中お花畑やな」と嘲笑で済まさずに忠告をするという事に意味がある。腹を充たして尚、不機嫌そうにしている隣人が更に可愛く思えてきた。
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