19 / 31
暗中模索4
しおりを挟む
同級生が告白されている場面に出くわす。あまりある事じゃないのだが、実際にないわけでもない事だ。
「お疲れさん」
「うん、疲れた」
放課後の部室棟裏というおあつらえ向きなスポットで、天を仰ぐ黒髪の少女。神風青空は土生川シラノの友人の夕陽の従兄妹でにして天空学園女子トップクラスの変わり者。しかし、上級生を中心に一定数、妙な人気があるのだ。
「今の誰じゃ? 初めてみる顔じゃな、二年か?」
「そう。はぁ、本当に疲れた……疲れさせて逃げるなら最初から告白なんてしないでほしい」
「そう言いなさんな。こっちこそ邪魔したんかのう?」
「別に。向こうは嫌な顔してたけど。で、誰のホームラン?」
「ウチの一年じゃ。柏木がフォームの指導してやったら緊張でフッ飛ばしたらしい」
「へえ、あんなのでもエース様のご威光ってあるんだ」
「まあな」
苦笑しつつボールを拾い上げる。たまたまシラノが休憩中だったので取りに来たのだが、ちょうどよかったのだろう。一年にでも行かせていたら、とてもこの空気に入れなかったろうから。
「今度は何を言ったっちゃ? 男の方が顔を真っ赤にしとったのが気になる所なんじゃが」
「私の事が好きなら、ここで今すぐ合体できるかって聞いた」
一瞬、頭を抱えたくなったのは無理もないと思いたい。
「好きな子に真正面からそがな事言われたらヒクぜよ、普通。第一、本気にされたらどうする気じゃ」
「頑張ってお相手する。それくらい直結しててほしい」
「呆れるほど即物的な話じゃのう」
「『貴方が好きだからヤらせてください』。その方がいっそ純愛だと思わない?」
その場でくるりと一回転して、見上げてくる、その顔には悪意も計算もない。だから始末が悪く、しかし男心を沸き立たせるのかもしれない。生憎とシラノの心に訴えるものはないのだが。いや、観察対象として非常に面白い事は確かだが、それ以上は関わりたくないのが本音だ。
「最近よう一緒に帰っちょる弾丞さんに聞かせて反応を見てみたいのう、そのセリフ」
「……先輩はちょっと。でも赤鋼先生には言ってみた」
「それまた大胆な話っちゃ。何て答えとった?」
「『俺は現状、君の遺伝子は入用じゃないのと手の掛かる妹の世話が忙しいから遠慮しとくわ』」
拝のだらけた口調を真似たそれに、シラノが思わず吹き出す。
「は、ははっ、それは傑作ぜよ」
「うん。やっぱ面白い、先生。夜空姉さんが懐くのが解る気がする」
青空の口端が上がる。珍しくご機嫌上昇中だ。
「なら思い切って好きになってみたらどうじゃ?」
「これが、そういうんじゃないわけ。世の中、ホレたハレたじゃ割り切れない」
ドエライ女に気に入れられたもんじゃのう、暴力の権化と名高い弾丞さんも。どこかに羨望を感じながら、シラノはこの変わり者との交流が愉しいのだ。
「お疲れさん」
「うん、疲れた」
放課後の部室棟裏というおあつらえ向きなスポットで、天を仰ぐ黒髪の少女。神風青空は土生川シラノの友人の夕陽の従兄妹でにして天空学園女子トップクラスの変わり者。しかし、上級生を中心に一定数、妙な人気があるのだ。
「今の誰じゃ? 初めてみる顔じゃな、二年か?」
「そう。はぁ、本当に疲れた……疲れさせて逃げるなら最初から告白なんてしないでほしい」
「そう言いなさんな。こっちこそ邪魔したんかのう?」
「別に。向こうは嫌な顔してたけど。で、誰のホームラン?」
「ウチの一年じゃ。柏木がフォームの指導してやったら緊張でフッ飛ばしたらしい」
「へえ、あんなのでもエース様のご威光ってあるんだ」
「まあな」
苦笑しつつボールを拾い上げる。たまたまシラノが休憩中だったので取りに来たのだが、ちょうどよかったのだろう。一年にでも行かせていたら、とてもこの空気に入れなかったろうから。
「今度は何を言ったっちゃ? 男の方が顔を真っ赤にしとったのが気になる所なんじゃが」
「私の事が好きなら、ここで今すぐ合体できるかって聞いた」
一瞬、頭を抱えたくなったのは無理もないと思いたい。
「好きな子に真正面からそがな事言われたらヒクぜよ、普通。第一、本気にされたらどうする気じゃ」
「頑張ってお相手する。それくらい直結しててほしい」
「呆れるほど即物的な話じゃのう」
「『貴方が好きだからヤらせてください』。その方がいっそ純愛だと思わない?」
その場でくるりと一回転して、見上げてくる、その顔には悪意も計算もない。だから始末が悪く、しかし男心を沸き立たせるのかもしれない。生憎とシラノの心に訴えるものはないのだが。いや、観察対象として非常に面白い事は確かだが、それ以上は関わりたくないのが本音だ。
「最近よう一緒に帰っちょる弾丞さんに聞かせて反応を見てみたいのう、そのセリフ」
「……先輩はちょっと。でも赤鋼先生には言ってみた」
「それまた大胆な話っちゃ。何て答えとった?」
「『俺は現状、君の遺伝子は入用じゃないのと手の掛かる妹の世話が忙しいから遠慮しとくわ』」
拝のだらけた口調を真似たそれに、シラノが思わず吹き出す。
「は、ははっ、それは傑作ぜよ」
「うん。やっぱ面白い、先生。夜空姉さんが懐くのが解る気がする」
青空の口端が上がる。珍しくご機嫌上昇中だ。
「なら思い切って好きになってみたらどうじゃ?」
「これが、そういうんじゃないわけ。世の中、ホレたハレたじゃ割り切れない」
ドエライ女に気に入れられたもんじゃのう、暴力の権化と名高い弾丞さんも。どこかに羨望を感じながら、シラノはこの変わり者との交流が愉しいのだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
その奇蹟に喝采を(4/6更新)
狂言巡
ライト文芸
Happy birthday. I always hope your happiness. A year full of love.
誕生日にまつわる短編小説です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
元婚約者様の勘違い
希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。
そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。
しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。
アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。
カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。
「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」
「そんな変な男は忘れましょう」
一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる