青春は甘くない

狂言巡

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懊悩呻吟

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 思うんだ……。もし誰にも干渉されなかったら、どんなにいいだろうって。一喜一憂する空しさがなくなったら、どんなに楽だろうって。僕達は温かい、安らかな夢を見て眠り続ける。その幸せを思うんだ。でもね、ときどき……それは本当に幸せなのかなって余計虚しくなって。僕は違うってわかってるんだ。わかってるけど理解できない。辛いのに。哀しいのに。痛いのに。疲れるのに。苦しいのに。嫌いなのに。どうしてこれが幸せだとわかってるの?
 傷付くじゃないか。泣きたくなるじゃないか。投げ出したい。忘れたい。消えてしまいたい。生まれてこなければよかったかもしれない。そうすれば、強くなくていいし、弱くなくていいし。何もなくていいし。僕の存在がない世界。何もない世界。それでよかった。そう思ったら泣けてきた。自分の考えに自分で傷ついてる。バカだなと思って自嘲する。
 風が吹いて、僕の頭上の木の葉が揺れて舞い散った。僕も、僕の座っているベンチも、地面も全て覆い尽くす。だんだん赤や黄色や茶色に染まって、溶けて、全部一緒くたになって……。目を閉じれば自身の消え行く感覚に浮遊した。原子単位で拡散し、空気の分子に紛れて行く。

「儚いのは仕方がないわ。『人』の『夢』……なんだもの」

 生きるには、強さが必要不可欠だ。夢を持つ強さ。未来の夢。描いた夢がどんな現実になっても、それを受け入れること。……どうせ、受け入れるしかないんだけれど。僕は泣かずにいられただろうか。夢は儚いと、たったそれだけで割り切れたの?
 今の君は氷のようだと言われた。泣くならちゃんと泣けって。僕が泣いてる? おかしいな。ただ、やけに晴れ渡った頭上の青空を眺めていただけだったのに。太陽の光とか、控えめに浮いている白い雲、一面の空色。眩しくて、滲んで、ぼやけて。溶けていく躯。溶けていく声。溶けていく空気。後悔はしていないでしょ? やれるだけの事はやったよね? 頑張ったのを知ってる。みんなそうだった。だから儚くて仕方がないとか言わないで。こういうとき、泣けないのは一緒。泣いてしまえば楽になるかもしれないのにね。僕は泣かなかった。
 学校に戻ったら、ああ、ホントに、僕達負けちゃったんだな、終わっちゃったんだなって思って、だから空を見上げた。見渡す限りの青空を。それがいけなかったのかな? それともよかったのか。慰めるために言ったの? 苦笑しながら、儚くて仕方がないって。

「梅ちゃん……部屋、貸してくれないかな?」
「……棗ちゃん」

 まだ泣いる人間が突然押し掛けて勝手に入ってきて、迷惑だっただろうね。もしかしたら一人で泣いていたかもしれないのに。

「ヒバリがさ、うるさいんだ……」
「…………」
「泣きたいときは思いっきり泣けって……僕は泣きたいわけじゃないのに」
「……そう、どうぞ入って」

 とにかく静かになりたくて、でも温かいところにいたくて。よくわからないけどそんな気分だった。

「……泣いているの?」

 思い出したのかもしれない。そういう記憶を。それまでの記憶を。それからの記憶を――。

「……泣いてないよ」
「棗ちゃん……」
「……ごめん、もう少し、大丈夫だから」

 誰にも干渉されなかったら寂しいよね。喧嘩してごまかされてもいいと思うんだ。いろいろ悩んでも、同じ悩みを持ったり悩みを話せる対象がいるのなら。生きるのは楽しい事だってわかってる。人の夢は儚いと言ったね? でも未来はいつも側にあるんだ。儚いとは思わない。むしろ頑なで、現実になった未来はどうしたって変わらない。
 儚いんじゃなくて、短いんだよ、夢を見る時間は。短いけれど元からなかったように消えたりしない。そういう現実として残るんだ。嘘でも言わないで。それは余計に自分を傷付けるだけ。ホントは解ってるんだよね? だからあの夜、泣いてたんだ。みんな気付いてなかったみたいだけれど。
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