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切磋琢磨5
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「俺はこのグループの歌は嫌いだ」
そんな零彦のぶっちゃけ発言で、とあるカラオケの一室のテンションは一気に下がった。
「ちょっとちょっと!? テーリってばあの点数出しておいてそーいうこと言っちゃうわけー?」
坂口世永の言うあの点数とは、本日の最高得点を塗り替えてしまったもの。簡単とも言えるほどに歌いきってしまったわけだが。
「定吏くんこの曲得意よね」
「歌い方に特徴ねぇし地味だしちょうどいいんじゃねぇ?」
「地味は余計だ!」
「そんな事よりもオレのツッコミを聞いてよーっ! オレなんていてもいなくてもおんなじなのかよー」
言うが早いか。世永はテーブルに突っ伏す。ちょうど彼の一番近くにいた美浦伊織は仕方なしにその背中を慰めるように叩く。今一番に正論を発していたのは世永だという事に本人のみが気付いていないのだろう。
「歌いやすいから歌ってるだけだ」
「そんな軽々しく言うとか! このグループ大好きなヒト多いんだよー?」
尚も力説しようとする世永を織田一之助の質問が遮る。
「テメェもそのうちの一人かよ?」
「え、違うけど」
世永以外からため息が吐き出される。そうなのだ。基本的に世永も他の三人同様、それぞれ方向性は違うが世間一般から思い切りはみ出している事に変わりはない。
「ねーねーテーリはさー、このグループの曲の何が嫌いなのー?」
「歌詞」
「いや、織田には聞いてないし」
「歌詞ね」
「今後の参考にしとくけど、せっかく会話に混ざってもらって嬉しいけど、ミーラにも今は聞いてないから」
「歌詞……だな」
「結局歌詞なのー?!」
運悪く耳元で世永の叫びを聞いてしまった伊織が音源を退かそうとするが、世永が伸ばした二本の腕がそれを阻む。向かいの席で一之助はケチャップをつけないままフライドポテトを三本まとめて食べている。
「だってどう考えても歌詞だろ?」
再度零彦が口にした言葉に、世永は釈然としないらしい。
「なんでー? 皆で平和に暮らそーぜってやつでしょ?」
なんでどうしてと食い下がる世永に一之助の質問がまた入り込む。
「テメェはそういう歌詞が好きなのかよ?」
「え、違うけど」
まるで時間が戻ったようだと一之助は愚問だったと眉を顰めた。
「だってそれって、結局は綺麗事だろ?」
「はいっ?!」
「そうやってあからさまな歌詞で歌って、でもそれでこの世がじゃあそうしましょうと同意して世界中全ての国から武器を無くして、話し合いましょうって。歌ったところで実現しているか?」
「してねぇな」
珍しく一之助が相打ちを打っている。零彦は、やや呆れた表情で世永のぽけっ面を見ている。
「なってないならそれはただのエゴだろ? 自分はいい事を皆に伝えているんだっていうエゴだろ? だから聞いていてウンザリする」
だから嫌いだと、授業を終えようとする教師のように、零彦が言い切る。
「そだねー」
世永が反論を諦めたところで、場違いな曲が流れ始めた。
「え、なにこれ……?」
メロディーは某有名ヒーロー幼児向けアニメの……。
「何だ美浦、今日はボーカロイドじゃないのか」
零彦はいつの間にか席に戻っている。
「たまには別ジャンルも悪くないわ」
「テメェの趣味はわかんねぇ」
一之助は呆れとも感心ともつかない表情を浮かべている。
「ミーラが歌うの? っていうかこれってア●パ●マンじゃん!? 今オレらのの話の中身聞いてた?」
世永の悲鳴にも近い驚きの声が響いた。この次に一之助が薬で小学生になった高校生の漫画の主題歌を入れたのを世永だけは知るよしもなかった。
そんな零彦のぶっちゃけ発言で、とあるカラオケの一室のテンションは一気に下がった。
「ちょっとちょっと!? テーリってばあの点数出しておいてそーいうこと言っちゃうわけー?」
坂口世永の言うあの点数とは、本日の最高得点を塗り替えてしまったもの。簡単とも言えるほどに歌いきってしまったわけだが。
「定吏くんこの曲得意よね」
「歌い方に特徴ねぇし地味だしちょうどいいんじゃねぇ?」
「地味は余計だ!」
「そんな事よりもオレのツッコミを聞いてよーっ! オレなんていてもいなくてもおんなじなのかよー」
言うが早いか。世永はテーブルに突っ伏す。ちょうど彼の一番近くにいた美浦伊織は仕方なしにその背中を慰めるように叩く。今一番に正論を発していたのは世永だという事に本人のみが気付いていないのだろう。
「歌いやすいから歌ってるだけだ」
「そんな軽々しく言うとか! このグループ大好きなヒト多いんだよー?」
尚も力説しようとする世永を織田一之助の質問が遮る。
「テメェもそのうちの一人かよ?」
「え、違うけど」
世永以外からため息が吐き出される。そうなのだ。基本的に世永も他の三人同様、それぞれ方向性は違うが世間一般から思い切りはみ出している事に変わりはない。
「ねーねーテーリはさー、このグループの曲の何が嫌いなのー?」
「歌詞」
「いや、織田には聞いてないし」
「歌詞ね」
「今後の参考にしとくけど、せっかく会話に混ざってもらって嬉しいけど、ミーラにも今は聞いてないから」
「歌詞……だな」
「結局歌詞なのー?!」
運悪く耳元で世永の叫びを聞いてしまった伊織が音源を退かそうとするが、世永が伸ばした二本の腕がそれを阻む。向かいの席で一之助はケチャップをつけないままフライドポテトを三本まとめて食べている。
「だってどう考えても歌詞だろ?」
再度零彦が口にした言葉に、世永は釈然としないらしい。
「なんでー? 皆で平和に暮らそーぜってやつでしょ?」
なんでどうしてと食い下がる世永に一之助の質問がまた入り込む。
「テメェはそういう歌詞が好きなのかよ?」
「え、違うけど」
まるで時間が戻ったようだと一之助は愚問だったと眉を顰めた。
「だってそれって、結局は綺麗事だろ?」
「はいっ?!」
「そうやってあからさまな歌詞で歌って、でもそれでこの世がじゃあそうしましょうと同意して世界中全ての国から武器を無くして、話し合いましょうって。歌ったところで実現しているか?」
「してねぇな」
珍しく一之助が相打ちを打っている。零彦は、やや呆れた表情で世永のぽけっ面を見ている。
「なってないならそれはただのエゴだろ? 自分はいい事を皆に伝えているんだっていうエゴだろ? だから聞いていてウンザリする」
だから嫌いだと、授業を終えようとする教師のように、零彦が言い切る。
「そだねー」
世永が反論を諦めたところで、場違いな曲が流れ始めた。
「え、なにこれ……?」
メロディーは某有名ヒーロー幼児向けアニメの……。
「何だ美浦、今日はボーカロイドじゃないのか」
零彦はいつの間にか席に戻っている。
「たまには別ジャンルも悪くないわ」
「テメェの趣味はわかんねぇ」
一之助は呆れとも感心ともつかない表情を浮かべている。
「ミーラが歌うの? っていうかこれってア●パ●マンじゃん!? 今オレらのの話の中身聞いてた?」
世永の悲鳴にも近い驚きの声が響いた。この次に一之助が薬で小学生になった高校生の漫画の主題歌を入れたのを世永だけは知るよしもなかった。
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