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暗中模索3
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アカペラの歌が聞こえる。
メロディはポップなノリなのに、歌詞はエログロという、寝覚めに最適とは絶対言えない歌だ。確か前に後輩が好きだとか言ってた、アニメのオープニングだかエンディングだかの主題歌。
寝起きの薄ぼんやりとした頭でも歌っているのが後輩だと判ったから、その歌自体にさしたる興味は無いが、歌う声に耳を傾けていた。多分サビだろう部分を歌い終えた時に魔女の手が久秀の頭を撫で、少しの間を空けた後、今度は子守唄っぽいのを歌い始めた。
細いが結構柔らかな腿に沈めたままの頭と共に、再び微睡み始めた思考も今一度沈めてしまおうか。
「先輩いつまで寝たふりしてるつもりですか? もう夕ごはんの用意したいから、退いてほしいんですけど」
気付いてたのか。しかし、ぴたりと止んだ子守唄の代わりに降ってきた台詞の割にその声には微塵も険は無く、頭を撫ぜる手もそのままだ。
「じゃあ何で歌っていたんだい」
「少しでも長く、先輩が眠っててくれればなと思いまして」
「……ちぐはぐだな」
「ちぐはぐですよ」
細められた瞳に、ああやめてくれないかと。勘違いを、してしまうじゃないか。
この不気味なほど穏やかな非日常が、いつしか日常に摺り変わるかもしれない。
彼女が息をしている世界を汚している自分が、彼女に愛されている。とんだ、馬鹿な勘違いを。
「……青空君」
「何ですか?」
自分の手が冷えているのか、彼女の体温が高いのか。頬を撫ぜるために触れさせた手が熱い。
「今、幸せかい?」
「まあ人並みに」
手を重ねられ、いよいよもって火傷しそうだと思った。
(僕はね。君が泣いたら笑うんだ)
(君が笑ったら、君が泣くまで嗤うんだ)
(早く泣き止んで、その滑稽なほど倖せそうな笑顔を、ボクに見せてよ。ボクがいつか、泣き出せるように)
(非日常は非日常のまま、世界は拒絶し続ける)
(嗚呼せめて)
(彼女から両手いっぱいの憎悪をくれたなら)
メロディはポップなノリなのに、歌詞はエログロという、寝覚めに最適とは絶対言えない歌だ。確か前に後輩が好きだとか言ってた、アニメのオープニングだかエンディングだかの主題歌。
寝起きの薄ぼんやりとした頭でも歌っているのが後輩だと判ったから、その歌自体にさしたる興味は無いが、歌う声に耳を傾けていた。多分サビだろう部分を歌い終えた時に魔女の手が久秀の頭を撫で、少しの間を空けた後、今度は子守唄っぽいのを歌い始めた。
細いが結構柔らかな腿に沈めたままの頭と共に、再び微睡み始めた思考も今一度沈めてしまおうか。
「先輩いつまで寝たふりしてるつもりですか? もう夕ごはんの用意したいから、退いてほしいんですけど」
気付いてたのか。しかし、ぴたりと止んだ子守唄の代わりに降ってきた台詞の割にその声には微塵も険は無く、頭を撫ぜる手もそのままだ。
「じゃあ何で歌っていたんだい」
「少しでも長く、先輩が眠っててくれればなと思いまして」
「……ちぐはぐだな」
「ちぐはぐですよ」
細められた瞳に、ああやめてくれないかと。勘違いを、してしまうじゃないか。
この不気味なほど穏やかな非日常が、いつしか日常に摺り変わるかもしれない。
彼女が息をしている世界を汚している自分が、彼女に愛されている。とんだ、馬鹿な勘違いを。
「……青空君」
「何ですか?」
自分の手が冷えているのか、彼女の体温が高いのか。頬を撫ぜるために触れさせた手が熱い。
「今、幸せかい?」
「まあ人並みに」
手を重ねられ、いよいよもって火傷しそうだと思った。
(僕はね。君が泣いたら笑うんだ)
(君が笑ったら、君が泣くまで嗤うんだ)
(早く泣き止んで、その滑稽なほど倖せそうな笑顔を、ボクに見せてよ。ボクがいつか、泣き出せるように)
(非日常は非日常のまま、世界は拒絶し続ける)
(嗚呼せめて)
(彼女から両手いっぱいの憎悪をくれたなら)
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