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コールコール
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(最近な、ウチ、よく後ろから肩を叩かれるんよ)
なのに、ふり返っても誰も、何も居ないのだ。
これが、人通りのある廊下や庭とか大浴場の中などの場合ならいい。でも背後が壁とか窓とか、シャワー室に入っている時に肩を叩かれた感触があった時は、彼女でもやっぱり怖かった。
(一番最悪なんは前に鏡があるときや。気のせいにもでけへんがな)
だからと言って、その他に何をされるというのは、別にない。
ただ、ぽんと軽く肩を叩かれるだけ。それだけなのでまあ最近そこいら中に妖怪や幽霊がうようよ出るようになった魔麟学院の中では、こんな程度の事はまだ序の口だろう。
(先日の事件なんかは、ウチのアニキを含む一級生(高等部三年生)の先輩達が謎の大怪我負って、ちーとの間安静にせざるを得んっちゅー大騒ぎやった。ウチはその事件の犯人は幽霊や妖怪やの仕業やと思っとる)
(その事をアニキに聞いてみたら苦笑いでごまかされてもたけど、でこに薄っすらと嫌な感じの汗浮かんだの見たさかい、やはり妖怪や幽霊の類の仕業に間違いあらへん)
「アヤネ」
ふいに呼び掛けられて顔を上げてみれば、同級生のイワンの顔があった。
「なんや?」
そう問えば彼は親指で廊下を指さして、
「さっき廊下でたまたま会ったアンナ先輩に、お前に至急医務室に来るように伝えてくれと頼まれた」
「なにかあったらしいぞ」
イワンに礼を言ってから、とりあえず保健室に向かう事にする。
医務室に向かう廊下を早足で歩いていた時。
また、トントン。肩を叩かれた。いつもの事なので放っておく。暫らくそうしておけば、いつか叩くのを止める(諦める?)のを既に経験済みだったからだ。
トントントントントン。
ちょっと気にはなるが、振り返ったところで良い事は無いだろうし、やっぱりちょっと怖いし、何しろそんな暇は無い。
(なんか今日はちいとばかししつこい気ぃするけど、きっともうちっとすれば止まるやろ)
トントントントントントントントントントン。
あくまで軽い感じに肩を叩かれ続けている間に何人かとすれ違ったが、誰一人としておかしな顔をしなかった。つまり、自分の肩を叩いているものは姿が見えないらしい。
トントン。
医務室のドアまで後三歩の距離を切ったとき時、ようやく肩を叩かれるのが止まった。
内心ホッとして保健室の戸を開けようとした、その時。
ひゅう。
どこからか吹き込んできた風が廊下を吹き抜けた。外は寒かったはずなのにその風はやけに生暖かくて、背筋がぶるりと一震え。
『ふ り か え れ』
一瞬、何が起きたのか理解らなかった。生暖かい風と、医務室からにおったキツイ薬のにおいに気を取られていてから。
するりと、隙間風のようにさりげなく耳元で言われた声に気付かずに、そのまま戸を開けてしまうところだった。
「え」
すぐに振り返ったものの、背後には誰の姿も気配も見付けられなかった。だからと言って安心など出来ない。
(あんなん、誰かのちょっとした悪戯のつもり、なんかとちゃう)
だって今の声は、おかしかった。
「どうして……」
男や女、子供に大人、それに老人。とにかく大勢の人間が声を揃えて一斉に言ったような声だったからだ。そんな声、一人じゃ出せるわけがない。
ひゅうっと背筋が冷え、思わず耳をおさえる。
(なんで、あんな声が)
言われた言葉からして、今まで自分の肩を叩いていたものには、間違いない。
だとしたら、それだけ大勢の何かに付き纏われていたという事だ。いや、付き纏われていたのではなく、現在進行形で付き纏われているのだろう。
振り返ったら、何がいるのか。何が見えるのか。それとも何かあるのか。
現時点ではちっともよく分からないが、なんにせよ気持ちが悪いのに変わりはない。
(サホんトコで行ってお払いしてもらおかな)
家が神社で自身も巫女でもある友人を思い出しながら、いつもより勢いよくドアを開けた。
なのに、ふり返っても誰も、何も居ないのだ。
これが、人通りのある廊下や庭とか大浴場の中などの場合ならいい。でも背後が壁とか窓とか、シャワー室に入っている時に肩を叩かれた感触があった時は、彼女でもやっぱり怖かった。
(一番最悪なんは前に鏡があるときや。気のせいにもでけへんがな)
だからと言って、その他に何をされるというのは、別にない。
ただ、ぽんと軽く肩を叩かれるだけ。それだけなのでまあ最近そこいら中に妖怪や幽霊がうようよ出るようになった魔麟学院の中では、こんな程度の事はまだ序の口だろう。
(先日の事件なんかは、ウチのアニキを含む一級生(高等部三年生)の先輩達が謎の大怪我負って、ちーとの間安静にせざるを得んっちゅー大騒ぎやった。ウチはその事件の犯人は幽霊や妖怪やの仕業やと思っとる)
(その事をアニキに聞いてみたら苦笑いでごまかされてもたけど、でこに薄っすらと嫌な感じの汗浮かんだの見たさかい、やはり妖怪や幽霊の類の仕業に間違いあらへん)
「アヤネ」
ふいに呼び掛けられて顔を上げてみれば、同級生のイワンの顔があった。
「なんや?」
そう問えば彼は親指で廊下を指さして、
「さっき廊下でたまたま会ったアンナ先輩に、お前に至急医務室に来るように伝えてくれと頼まれた」
「なにかあったらしいぞ」
イワンに礼を言ってから、とりあえず保健室に向かう事にする。
医務室に向かう廊下を早足で歩いていた時。
また、トントン。肩を叩かれた。いつもの事なので放っておく。暫らくそうしておけば、いつか叩くのを止める(諦める?)のを既に経験済みだったからだ。
トントントントントン。
ちょっと気にはなるが、振り返ったところで良い事は無いだろうし、やっぱりちょっと怖いし、何しろそんな暇は無い。
(なんか今日はちいとばかししつこい気ぃするけど、きっともうちっとすれば止まるやろ)
トントントントントントントントントントン。
あくまで軽い感じに肩を叩かれ続けている間に何人かとすれ違ったが、誰一人としておかしな顔をしなかった。つまり、自分の肩を叩いているものは姿が見えないらしい。
トントン。
医務室のドアまで後三歩の距離を切ったとき時、ようやく肩を叩かれるのが止まった。
内心ホッとして保健室の戸を開けようとした、その時。
ひゅう。
どこからか吹き込んできた風が廊下を吹き抜けた。外は寒かったはずなのにその風はやけに生暖かくて、背筋がぶるりと一震え。
『ふ り か え れ』
一瞬、何が起きたのか理解らなかった。生暖かい風と、医務室からにおったキツイ薬のにおいに気を取られていてから。
するりと、隙間風のようにさりげなく耳元で言われた声に気付かずに、そのまま戸を開けてしまうところだった。
「え」
すぐに振り返ったものの、背後には誰の姿も気配も見付けられなかった。だからと言って安心など出来ない。
(あんなん、誰かのちょっとした悪戯のつもり、なんかとちゃう)
だって今の声は、おかしかった。
「どうして……」
男や女、子供に大人、それに老人。とにかく大勢の人間が声を揃えて一斉に言ったような声だったからだ。そんな声、一人じゃ出せるわけがない。
ひゅうっと背筋が冷え、思わず耳をおさえる。
(なんで、あんな声が)
言われた言葉からして、今まで自分の肩を叩いていたものには、間違いない。
だとしたら、それだけ大勢の何かに付き纏われていたという事だ。いや、付き纏われていたのではなく、現在進行形で付き纏われているのだろう。
振り返ったら、何がいるのか。何が見えるのか。それとも何かあるのか。
現時点ではちっともよく分からないが、なんにせよ気持ちが悪いのに変わりはない。
(サホんトコで行ってお払いしてもらおかな)
家が神社で自身も巫女でもある友人を思い出しながら、いつもより勢いよくドアを開けた。
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