アベック奇談

狂言巡

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元カノ

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 朝起きると「責任とってよ」と腹を膨らませて押しかけて来た元カノが血まみれで転がっていた。腹は凹んでいる。まず思い浮かんだのは、今は亡き祖母の口癖。

『――虎に喰われたくないなら、嘘ついちゃいけねぇぞ』





 幼馴染の部屋に泊まりに来た。部屋でのんびりしていると、咽び泣く女の声がする。ベランダで煙草を吸っていた幼馴染が振り返る。

「大丈夫、三十分だけだから。アイツ時間に厳しかったからさ」





 好奇心で元カノを占ってもらった。

「貴方の恋人は地獄にいます」

 霊能者は何とも言えない表情のまま付け足す。

「厄介な方に好かれましたね。先回りしたようです。死んでも貴方の傍に居たいようで」





 ずーっとついてくる女達に思わず溜め息が出る。人違いだよ、俺が殺したのは元カノ一人だけだ。





 断捨離してたら元カノが忘れていったらしい日記帳を発見。開くと帳面な字体で全ページに『赤ちゃんを弱火で煮込みます』





 デパートや遊園地が苦手だ。風船が怖いから。風船が好きだと言ってた元カノと同じ顔で笑いかけてくるから。





 どんなに暑くても眩しくても外から丸見えでも、カーテンは閉められない。白いカーテンだったのもまずかったな、殴った俺と暴れた元カノの影が沁みついているから。





 何故だ。車、電車、バイク、船、飛行機……どんな乗り物を使っても、いつの間にか戻ってきてしまう。元カノを殺して隠した廃倉庫がある、この商店街に……。





 何度も『死んでやる詐欺』されたらどうせ次も嘘っぱちだと思うじゃないか。電車に乗るたび、扉の外で元カノが睨みつけてくる。





 道端で気を失ったふりして救急車呼ばれたら結婚してやるなんて気まぐれで言ったら、マジでやった。けど十分もしない間に通り掛かったワゴン車が連れて行った。それ以来、あんな馬鹿なコト真に受けた時間帯になると元カノが道に倒れている。





 姪っ子は可愛いが最近一緒に遊ぶのが憂鬱だ。持ってる人形の顔がどれも元カノそっくりで、全然区別がつかない。





 よくない霊ってのは左肩に憑くもんらしい。元カノが行く先々で天井に貼りついてるのはどういう意味があるんだろうな。
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