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掌中のステッラ
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「ちょっと若葉借りるわね」
「アッハイ」
そろそろ休憩に行くかと考えていた若葉を、友人の網走がひったくるように連れて行った。
「何だろ?」
「若葉さんまた網走さんをダシにファンクラブから何か貢がせたんじゃないですか」
「あーかもねー」
人気のない廊下にて……。
「もー何なのよ!」
「最近淡島ちゃんから煙草の匂いするって話したわよね」
「あー」
「同じ匂い、見つけたの」
「ほほう?」
「喜秋さん」
「へ?」
「雑賀課長の息子さん」
「え、アンタそんな接近する程仲良かったの?」
「違うわよ! 張り込みしている時に、彼が煙草吸いに出てきて、ちょうど私風下になる場所にいたの」
「でもそれだけじゃねぇ、」
「あとね香水、いつもと甘めだったじゃない? 最近違う時あるでしょ」
「まあ……」
親しい仲だし、確認を取るくらいなら問題ないだろう。
華の金曜日、退勤後の居酒屋で、カマをかけた。
「今ルームシェアしてます」
「「はい?」」
良くも悪くも素直な後輩は基本、嘘はつかないし見栄を張らない。上司のそのまた上司の息子と、宅飲みだけじゃなくて連泊する仲になっていたのか。世間では同棲に値するのではないか。朗らかな笑顔でトンデモ発言が落とされ、思わず言語がバグる。
「週何日も互いの家に泊まるん面倒になってきたさけ、ルームシェアにしたら楽でしょて喜秋くんが。特に問題もなかったんでルームシェア決めました」
そう、後輩は昨日の夕食を語るような何でもない口調で続けた。
「えーと……うん。そうね。助かるわよね」
「めっちゃ楽ちんですわぁ、家事は分担できますし。ご飯もやっぱ一人で食べるより二人のが美味しいし作り甲斐ありますし、気心知れちゃーるからずっと同じ場おっても喋らんでも気楽ですし。部屋は分けちゃーるんで一人になりたい時は一人になれますし。ぶっちゃけお互い忙して月の半分は一人暮らし状態ですけど。ベッドは奮発してデッカいやつ買いまして。二人で寝ても十分スペースあるんですよ」
「うんうん……うん?」
ベッド、二人で、スペース……。うんうん頷くだけの機械と化していた網走と若葉の思考が止まる。年季の入ったブリキのように鈍い動きで淡島の方を見れば、まだいつもの笑みを浮かべていた。
「……大の大人二人寝られるくらいベッド買ったのね……」
「はい、おかげで寝室のほとんどベッドに占領されましたわ」
「奮発したのね……」
つまり二人が住む家には、ほぼベッドで埋められた寝室と各々の部屋があるのか。広いな。そもそも、自分用の部屋あるのに寝室まで作る必要あるのか。別々で寝れば良いだろうに。お泊まりの時はアレか、床で寝たら体痛めるからとか何とかの理由で同衾していた可能性さえある。そもそもお互いが持ってた寝具あるんなら一緒に寝る意味なんてなくないか。寝室に対する疑問が尽きないが、口には出さない。雉も鳴かずば撃たれまい。余計な事は言わないに限る。好奇心が刺激されるが、焦りは禁物だ。
「そーいえば、巨大ハムはどしたの?」
「え、あれハムスターだったの? カピバラかと思ってた」
以前合コンに参加させた時、酔った勢いで取った抱き枕だ。それだけ広いのなら置きやすかろう。
「ハムちゃんですか? 抱っこして寝ようとすると喜秋くんに取り上げてまうんですよねぇ、ネズミ苦手なんかなぁ……」
「「やっぱクロね」」
「白のジャンガリアンですけど?」
「アッハイ」
そろそろ休憩に行くかと考えていた若葉を、友人の網走がひったくるように連れて行った。
「何だろ?」
「若葉さんまた網走さんをダシにファンクラブから何か貢がせたんじゃないですか」
「あーかもねー」
人気のない廊下にて……。
「もー何なのよ!」
「最近淡島ちゃんから煙草の匂いするって話したわよね」
「あー」
「同じ匂い、見つけたの」
「ほほう?」
「喜秋さん」
「へ?」
「雑賀課長の息子さん」
「え、アンタそんな接近する程仲良かったの?」
「違うわよ! 張り込みしている時に、彼が煙草吸いに出てきて、ちょうど私風下になる場所にいたの」
「でもそれだけじゃねぇ、」
「あとね香水、いつもと甘めだったじゃない? 最近違う時あるでしょ」
「まあ……」
親しい仲だし、確認を取るくらいなら問題ないだろう。
華の金曜日、退勤後の居酒屋で、カマをかけた。
「今ルームシェアしてます」
「「はい?」」
良くも悪くも素直な後輩は基本、嘘はつかないし見栄を張らない。上司のそのまた上司の息子と、宅飲みだけじゃなくて連泊する仲になっていたのか。世間では同棲に値するのではないか。朗らかな笑顔でトンデモ発言が落とされ、思わず言語がバグる。
「週何日も互いの家に泊まるん面倒になってきたさけ、ルームシェアにしたら楽でしょて喜秋くんが。特に問題もなかったんでルームシェア決めました」
そう、後輩は昨日の夕食を語るような何でもない口調で続けた。
「えーと……うん。そうね。助かるわよね」
「めっちゃ楽ちんですわぁ、家事は分担できますし。ご飯もやっぱ一人で食べるより二人のが美味しいし作り甲斐ありますし、気心知れちゃーるからずっと同じ場おっても喋らんでも気楽ですし。部屋は分けちゃーるんで一人になりたい時は一人になれますし。ぶっちゃけお互い忙して月の半分は一人暮らし状態ですけど。ベッドは奮発してデッカいやつ買いまして。二人で寝ても十分スペースあるんですよ」
「うんうん……うん?」
ベッド、二人で、スペース……。うんうん頷くだけの機械と化していた網走と若葉の思考が止まる。年季の入ったブリキのように鈍い動きで淡島の方を見れば、まだいつもの笑みを浮かべていた。
「……大の大人二人寝られるくらいベッド買ったのね……」
「はい、おかげで寝室のほとんどベッドに占領されましたわ」
「奮発したのね……」
つまり二人が住む家には、ほぼベッドで埋められた寝室と各々の部屋があるのか。広いな。そもそも、自分用の部屋あるのに寝室まで作る必要あるのか。別々で寝れば良いだろうに。お泊まりの時はアレか、床で寝たら体痛めるからとか何とかの理由で同衾していた可能性さえある。そもそもお互いが持ってた寝具あるんなら一緒に寝る意味なんてなくないか。寝室に対する疑問が尽きないが、口には出さない。雉も鳴かずば撃たれまい。余計な事は言わないに限る。好奇心が刺激されるが、焦りは禁物だ。
「そーいえば、巨大ハムはどしたの?」
「え、あれハムスターだったの? カピバラかと思ってた」
以前合コンに参加させた時、酔った勢いで取った抱き枕だ。それだけ広いのなら置きやすかろう。
「ハムちゃんですか? 抱っこして寝ようとすると喜秋くんに取り上げてまうんですよねぇ、ネズミ苦手なんかなぁ……」
「「やっぱクロね」」
「白のジャンガリアンですけど?」
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