後輩のラブ事情(5/21更新)

電話

　ポケットの中で、存在を主張するように震えた物体。ストラップが引っ掛かってしまいながらも何とか取り出して画面を確認する。相手はもたついている間に想像した人物。すぐに出ないと、不機嫌になる彼の第一声は、きっと――。
　ピッ。

「「おせぇ」」

　ビンゴ。思わず笑ってしまった淡島に、一瞬は呆気に取られていただろう彼の機嫌は更に降下を辿っているはず。この辺で笑いを収めて彼のご機嫌取りに精を出していかないといけない。まあそれは、とても簡単な事なのだが。

「すみません、先輩やったらこう言いはられるんやろなぁて思いまして」
「……くだんねぇ事してんじゃねぇよ」
「はい、ごめんなさい。先輩からのお電話ほんま嬉して、ついはしゃいでまいました」
「……そーかよ」

　解り難いけれど、少しトーンの上がった声。ご機嫌は上昇中。後もうちょっと、だろうか。

「あの、先輩」
「あ？」
「会いたい、です」

　ちょっと甘えたように。先輩がコレに弱いのは知っているから。

「……来い」
「え？」
「会いたいならうちに来いっつってんだよ」
「よろしいんですか？」
「よくなきゃ誘うわけねぇだろうが」

　クックッと、先輩独特の声を押し殺したような笑い声。

「じゃあ今から遊びに行かさせて頂きます」
「あぁ」

　低くて優しい声。いつもの先輩。電話越しで、顔が見えなくたって、その声だけで。彼に愛されていると、解るから。