光芒の食卓(12/28更新)

狂言巡

文字の大きさ
5 / 26

カレー

しおりを挟む
 テーブルを挟んで、世界中の女性を虜にする眩しい笑顔が向けられる。狭い独身者向けアパートの中で見るには、キラキラし過ぎていて、眩暈がしそうだ。今日の夕飯は、カレーだ。本格的なスパイスを使った物ではなく、市販のルウで作る、じゃが芋が入った、フツーの家庭的なカレーライスだ。ヒカルの好みで、ポテトサラダと福神漬けも添えられている。ウィステリアは「このピクルス変わってて美味しいね」と言いながら、スプーンで全部ぐちゃぐちゃに混ぜて食べている。両親か祖父母に「やめなさい、行儀悪い!」と怒られそうな楽しみ方だ。

「……ウィステリアくん、毎日うちに食べに来るけど、私の作るのは大体日本料理でしょ。飽きない? 母国の料理食べたいんじゃないの?」
「会食やランチなんかでは、母国や他の国の料理も食べてるし。それに、ヒカルのごはん、美味しいよ」
「ああ、そう……」

 まさか、偶然入った店でお喋りしただけのイケメンが、毎日ヒカルの家に食べに来るようになるとは思わなかった。初めてウィステリアを夕食に招待したのは、もう一ヶ月前の事だ。いや、招待したと言うより『ウィステリアが強引に押しかけてきた』が正しいの経緯だが。それから毎日……仕事や付き合いで外食する時以外は、毎日ウィステリアはヒカルの家にやって来て、一緒に夕飯を食べている。

「一緒に暮らそうよ」

 一ヶ月前ウィステリアがそう言った時、ヒカルはビックリし過ぎて暫らく声も出せなかった。固まっているヒカルを見て、声を上げて笑って言う。

「返事は保留にしとこう。ちゃんと考えてね」

 片目を瞑ってウィンクした。それから一ヶ月、返事はまだしていない。ウィステリアも、特に返事を求めたりしない。キスも、あの日以来一度もしてこない。質の悪い冗談なのか、本気なのか判らない。ただ一緒にテーブルを挟んで向かい合い、食事を摂っているだけだ。なのでアレは現実だったのかさえ、判断がつかなくなってきていた。

「明日のごはんは何なの?」
「カレーうどんだよ。明後日はカレードリア」
「えっ、何でカレーが続くの」
「日本人にとって、カレーはそういうものなの。作りたくない日の為にたっぷり作って、何日もかけて食べるんだよ」
「シュトーレンみたいだね……美味しいけど毎日……?」
「嫌なら無理に来なくてもいいよ、別に」
「毎日カレーでもいいよ!」

 ヒカルがちょっと意地悪く笑うと、ウィステリアは躰を乗り出して手を伸ばし、ヒカルの右手を包み込むようにして引くと、指輪に唇を押し当てるようにキスをした。サンドイッチが好きだってインタビューで答えていたくせに。

「……っ!」
「あー顔が真っ赤だ、ヒカル。可愛い」
「とっ、突然こういう事するのやめてよ。心臓によくない」
「じゃあ、次から言ってからするね。ヒカルちゃん、キスするよ」

 言うなり、ウィステリアは椅子から立ち上った。テーブルに片手をついて体を伸ばし、ヒカルの肩を引き寄せて口づけをした。ウィステリアはすぐに離れ、ニヤッと笑う。

「ごちそうさま。また明日ね、ヒカルちゃん」

 それだけ囁いて、あっさり帰って行った。ああいうのが、モテ男の駆け引きなのか。一瞬でインパクトを与え、躊躇いなくサッと引く。残された方は、いつまでもその余韻に引きずられてしまう。
 この調子じゃ、毎日一緒に食事をしているうちに、何だかなし崩し的に生活を共にさせられそうな気がする。そう思うと、怖いような嬉しいような、期待に震えて背筋がゾクゾクするような、何とも言えない初めての感覚をヒカルは覚えるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...