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感情シェア【学生時代】
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――こうして一緒にいるのに、どうしてそんなに寂しそうなの?
――何が、恐ろしいというの。
隣の世鷹は、今すぐにでも泣き出しそうな顔を隠すかのように斜め下向きで。普段のぴしりと決まっている背中がしゅんと丸くなっている。だから今日は背中がやけに小さく見えた。復讐に囚われがちだけど、いつも真面目でしっかり者な小夜君。こんなマイナスな感情なんて滅多に表に出そうとしない。
いやいや、たとえ見せたとしても、平凡な自分じゃ気付かないくらい小さな動きしかとらない世鷹が、こんな姿を自分に見せるのはもちろん初めての事だった。少しは信頼されているかもしれないと思うと嬉しくなるのだけれど、しかしそれ以上の不安が圧しかかる。それは、まるで何か得体の知れないものに追い詰められた果ての行動のようで。しかもその原因はたぶん、自分にあるのだろう。
その背中が黒猫に自分から気付けと言われているような気がして、思わず言いかけた言葉をぐっとのみこんだ。だって、あからさまにこんな態度とるなんて……。どうしていいか判らず、かといって理由が何であるかだなんて見当もつかない。何か悪い事しただろうか。迷惑をかけたか、変な事を言って気に障ったのか。テストで赤点は取ってないし、世鷹の兄達はピンピンしていて、百々先輩みたいな悪戯をしかけた覚えはないけれど……。
ぐるぐる頭を回してみても、自分の限界なんてすぐきてしまう。世鷹の思考が読めない。じいっと下を向いている世鷹の顔は少ししか見えないのに、泣きそうな顔をしているのはわかる。その目線は、空でまるで励ますかのように星屑が瞬いているのさえ気付けない。……怒っているならこんな態度はとらないだろうし、じゃあ何で……あっ。
一つだけ、行き当たる理由を見つけた。明確なものではないけれど、でも彼が泣いてしまう理由なんて、人でもなんでもどんなものだってそうそうかわらないのだ。
「世鷹先輩、」
真っ直ぐな背中は、かわらない。
「……えっと、あの、星って寂しくて寂しくて、引力とかで星と星が引き合ってぶつかって、最後に一つになっちゃうでしょ」
脈絡のない話に驚いてか、世鷹が黒猫を見た。やっと合った目線が嬉しくて、でも上手くいえないのがもどかしくて、焦る。きっとこれはきちんと伝えなくてはいけない大切な事だから。慎重に言葉を選んでいく。
「でも、そうしたら、きっとまた寂しくなっちゃうんです。だって、元は二つでも、結局独りぼっちじゃないですか。……だから、私と先輩がこうやって二人でいる事って幸せじゃないですか?」
まるで凍ってしまったように、ぴくりとも動かない世鷹の手を強引に引き寄せて、ぎゅっと握り締めた。触れた瞬間、その冷たさに涙がでそうになった。
「だってほら、こうやって手を繋いだり、一緒にいるだけで、全然寂しくなくなるでしょ」
一瞬、視界が揺らいだ気がした。それは、世鷹の瞳がそうなのか黒猫の所為なのか、よく判らなかった。ただ、その瞬間に世鷹の手から熱が伝わってきた事が、とても嬉しかった。
「あの、だから、」
この熱さが落ちてしまわないように。より一層、繋いだ手に力をいれた。
「これからも、ずっと、寂しくならないようにしてみませんか?」
――願わくば、少しでも、ほんの少しでも、長く愛しい人が泣いてしまわないように。
――何が、恐ろしいというの。
隣の世鷹は、今すぐにでも泣き出しそうな顔を隠すかのように斜め下向きで。普段のぴしりと決まっている背中がしゅんと丸くなっている。だから今日は背中がやけに小さく見えた。復讐に囚われがちだけど、いつも真面目でしっかり者な小夜君。こんなマイナスな感情なんて滅多に表に出そうとしない。
いやいや、たとえ見せたとしても、平凡な自分じゃ気付かないくらい小さな動きしかとらない世鷹が、こんな姿を自分に見せるのはもちろん初めての事だった。少しは信頼されているかもしれないと思うと嬉しくなるのだけれど、しかしそれ以上の不安が圧しかかる。それは、まるで何か得体の知れないものに追い詰められた果ての行動のようで。しかもその原因はたぶん、自分にあるのだろう。
その背中が黒猫に自分から気付けと言われているような気がして、思わず言いかけた言葉をぐっとのみこんだ。だって、あからさまにこんな態度とるなんて……。どうしていいか判らず、かといって理由が何であるかだなんて見当もつかない。何か悪い事しただろうか。迷惑をかけたか、変な事を言って気に障ったのか。テストで赤点は取ってないし、世鷹の兄達はピンピンしていて、百々先輩みたいな悪戯をしかけた覚えはないけれど……。
ぐるぐる頭を回してみても、自分の限界なんてすぐきてしまう。世鷹の思考が読めない。じいっと下を向いている世鷹の顔は少ししか見えないのに、泣きそうな顔をしているのはわかる。その目線は、空でまるで励ますかのように星屑が瞬いているのさえ気付けない。……怒っているならこんな態度はとらないだろうし、じゃあ何で……あっ。
一つだけ、行き当たる理由を見つけた。明確なものではないけれど、でも彼が泣いてしまう理由なんて、人でもなんでもどんなものだってそうそうかわらないのだ。
「世鷹先輩、」
真っ直ぐな背中は、かわらない。
「……えっと、あの、星って寂しくて寂しくて、引力とかで星と星が引き合ってぶつかって、最後に一つになっちゃうでしょ」
脈絡のない話に驚いてか、世鷹が黒猫を見た。やっと合った目線が嬉しくて、でも上手くいえないのがもどかしくて、焦る。きっとこれはきちんと伝えなくてはいけない大切な事だから。慎重に言葉を選んでいく。
「でも、そうしたら、きっとまた寂しくなっちゃうんです。だって、元は二つでも、結局独りぼっちじゃないですか。……だから、私と先輩がこうやって二人でいる事って幸せじゃないですか?」
まるで凍ってしまったように、ぴくりとも動かない世鷹の手を強引に引き寄せて、ぎゅっと握り締めた。触れた瞬間、その冷たさに涙がでそうになった。
「だってほら、こうやって手を繋いだり、一緒にいるだけで、全然寂しくなくなるでしょ」
一瞬、視界が揺らいだ気がした。それは、世鷹の瞳がそうなのか黒猫の所為なのか、よく判らなかった。ただ、その瞬間に世鷹の手から熱が伝わってきた事が、とても嬉しかった。
「あの、だから、」
この熱さが落ちてしまわないように。より一層、繋いだ手に力をいれた。
「これからも、ずっと、寂しくならないようにしてみませんか?」
――願わくば、少しでも、ほんの少しでも、長く愛しい人が泣いてしまわないように。
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