黒狼夫婦の事情(1/12更新)

狂言巡

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大願/猫と蛇

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 ――イカロスは天の怒りに触れ、翼を奪われて地へと落とされ、命を喪った。確か、そんな歌があった。詳しい歌詞は知らない。そんな事はどうでもいい。とにかく、そんな歌があった。

「人間は光がないと生きていけないのです」
「……錦ちゃんっていっつも突然不思議な事言い出すよね」
「突然? 私はいつでもきちんと脈絡に沿っているんですが」
「いや、私の中ではないから」

 不思議そうに呟く金髪碧眼の少女に、黒猫は苦笑いで手を振り、天を仰ぐ。目に直撃した日光があまりに眩し過ぎたのか、すぐに顔を臥せる。いきなり冒頭で電波発言をかました少女は、それをぼんやり見つめる。そして、少女はまた口を動かした。

「だって、ずっと暗闇の中に居たらどんな人間だって狂いますから」
(そう。この私がその生き証人。傷つこうが狂おうが壊れようが、それでも光を求めた。翼を奪われても、地に叩き付けられても、命を奪われそうになっても。先に道がなくても、汚れても、傷ついても。泣いて叫び続けた。光を手に入れたい、自分だけのモノにしたい。願って切望して祈った。祈りは何とか通じたらしく、手に届く範囲にキープする事は出来た。残念ながら、まだ自分の『モノ』とは言えないけれど。いつか必ず、私だけのモノにするんだ。――そう、いつか)

 その野望は、少女の口端を吊り上げさせる。

「別に一人ってわけでもないんでしょ?」

 瞑想に急に割って入られた、呑気な声。

「……どういう事ですか?」
「暗闇の中にいるの」
「まぁ、そうですが」
「なら人間は簡単に狂ったりしないよ。光は求めるけどね」

 付け足しのように言われた言葉に、自分と一緒だと嬉しくなる。けれど浮かべた笑顔は、自分とは異なる笑み。それが彼女の魅力。錦を惹き付ける匂い。空を見上げた。眩しいので瞼を少し、降ろして。

(光は欲しい。けれど命を喪うような、そんな光は要らない御免被ります。けれど今、隣にある光なら、欲しいのです。手足が焼けても、目が潰れても、命を賭けて、手に入れたいのです)

 切に、そう思った。
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